336:宇宙崩壊の危機
夕食の準備の時間になったので、さいしょの民達はそれぞれの家に戻っていき、美衣達もキッチンへと向かっていった。
冴内は内心でこりゃ困ったことになったと思っていた。りゅう君の婚姻の儀や神代との合同結婚披露宴パーティーに出席出来なくなるかもしれないなぁと考えたのだ。
とはいえ、先ほどのカタコトのメッセージの中に宇宙が壊れるという言葉を聞いてしまったので、自分に出来ることがあるならば助けに行かないわけにはいかないだろう。
ちなみに冴内は少々ズルイというか姑息なことに緊急SOS出動したことにして、関係者各位にはさいごのひとや音声ガイドにうまいこと説明してもらおうと考えていた。こういうところだけはちゃっかり冴えてる冴内であった。
さらに冴内の考えは冴え渡り、もしかしたらかつて優が宇宙をぶっ壊した時と同じようなことが起きているのかもしれないと考えた。もしもそうならば相手をなんとか説得するか、説得がダメならチョップしか出来ないけど力づくで抑えるかすればいいかと考えた。
しかしこの考えはあくまでもかつての優が起こした状況と同じだったらという前提であり、誰か一人が、といっても人物であるかどうかすら今は分からないが、対象者もしくは原因対象物が何か一つであるのならば冴内の考えた通りやりようがあるのかもしれないが、今はまだ一切どういう状況なのか不明であり、原因不明の事態であったり複雑かつ膨大な様々な要因が絡み合っているような場合だと、いくら冴内が人知を遥かに超えた存在だとしても冴内一人の力ではどうにも出来ないこともある。
ともあれ、この時の冴内はワンチャン間に合うかもぐらいの安易な気持ちだった。いつもながら別の宇宙が崩壊の危機にあるというとんでもない事態にあるにも関わらずこの気軽さであった。まるで遊びに行く前に学校の宿題を片付けるかといったところか、連休前に残務作業を片付けるかといったサラリーマンのような気軽さだった。
冴内はゲートシーカー専用端末を取り出して予定表カレンダーを表示し、りゅう君達の婚姻の儀が2週間後であることを確認した。
「まぁ相手が小さい頃の優ぐらいだったら、なんとかなるか・・・」
手代木とは異なり、冴内達にはHPやMPなどの能力ステータスが数値として表示されないので、これまでも自分達の力量や相手の力量に関しては何となくとか勘で推し量って来た。恐らく今の手代木が冴内の各種テータスを鑑定しても、全て無限と認識するか測定不能という結果になることだろう。
そしてあまり深く考え込まないのが冴内らしいといえば冴内らしいところなのだが、それはこれまでの修行や闘いによって精神面が大幅に強化されたからなのか、元々そういう性格なのか判断が微妙なところではあったが、あれこれ考えすぎて思い悩む事があまりないというのはある意味ストレス耐性が高いことでもあるので良い面も大いにあった。
とりあえず話しを聞いてからになるが、冴内の心の中では助ける方向に決めたので、冴内の脳みその中での次なる議題は今日の夕食の献立は何だろうかというテーマに移っていた。
冴内がキッチンの方から漂ってくる香りを嗅いでぼんやりと何の料理なのか想像していると、またしても黒い霧が立ち込めてきて、徐々にその黒い霧はヒトの形のシルエットになっていった。
形はヒトのシルエットではあるが中には小さな渦巻き銀河が無数に存在していた。服の表面にそういうプリントがされた着ぐるみを着用しているのではなく、本当に立体物の中に無数に存在しており、見る角度を変えると奥の方にも無数の渦巻き銀河が立体的に存在しているのが見てとれた。
冴内はいつ見ても面白いし綺麗だなぁと感心しながら間近でじっくり見ていると、何故か顔の中心部分がほんのり赤くなり「やだなぁ恥ずかしいからそんなにジロジロ見ないでよ」と言われ、冴内は返答に窮したがとりあえず「ごめんね、あまりにも銀河の輝きが美しくてついつい見惚れてしまうんだよね」と、人間の女性にとっての口説き文句ではなく、宇宙にとっての口説き文句を実にいけしゃあしゃあと口にした。
「とっ!とにかくっ!別の宇宙達の代表となんとかコミュニケーションをとってみたんだけど、やっぱり大変なことになっているみたいで、このままだと宇宙が崩壊するみたい。しかも実に迷惑なことに、その影響で他の3っつくらいの宇宙も崩壊するかもしれないんだって」
「えっ!それは大変だ!」
「うん、そうなんだよ。これはちょっと放っておけないよね。そのまま放置しておいたらいつか僕等の宇宙にまで影響が出ないとも限らないし・・・まぁ影響が出るとしても君達人間からしてみたら無限に近い遠い未来の話しになるんだけどさ」
「で、えーと、具体的に僕はどうすればいいの?」
「うん、ともかく一度別の宇宙に来てくれないかって言っていたよ。どうにも僕等の宇宙とはうまく同調出来ないみたいで、コミュニケーションも取りずらいみたいなんだ」
「なるほど、別の宇宙に行けばもう少し状況が分かるってことですね?」
「うん、多分・・・だけど・・・いや、何で多分って言ったかっていうと、冴内 洋が向こうの宇宙に行ってもやっぱりあまりにもこっちの宇宙と物理法則とか概念や観念めいたものが異なり過ぎて、結局何も分からないかもしれないんだ」
「それどころか、下手したら別の宇宙の存在すら検知認識出来なくて、ただ何もない虚無空間にただ一人いるだけで、何一つ接触出来なくて結局何も出来ない可能性もあるんだよね。そうなったら別の手立てを考えないと、何も出来ないどころか何が起きているのかすらも分からないまま、ただ何も見えず何も出来ず帰ってくるだけになるんだよね」
「えっ?宇宙ってそんなに違うもんなんですか?今僕が見ている宇宙さんみたいに、真っ暗闇の中にたくさん渦巻き銀河があって無数の星々があるのが宇宙なんじゃないですか?」
「基本的にはそうなんだけど、まだ始まってもいない宇宙とかは本当に虚無空間しかないし、暗黒宇宙とかは何かがあるんだけど、その何かは決して僕等じゃ認識出来ないっていううわさ話しを聞いたことがあるんだ」
「宇宙にもうわさ話しってあるんだ・・・」
「うん、僕等は極度の恥ずかしがり屋だけど、そういううわさ話しとかは結構好きなんだよね」
「分かりました、とにかく僕がその別の宇宙に行ってみない事には始まらないってことですね」
「うん、そういうことになるね。ごめんねいつもいつも迷惑をかけるみたいで」
「いや、いいんですよ。なんだかそれが僕のやるべき役割っていうか仕事みたいですし、それにこれまでのところ僕はこの仕事かなり好きですよ」
「あぁ・・・ありがとう、冴内 洋、なんだか僕も君のことがもっと好きになりそうだよ」
「・・・」(冴)
「・・・」(宇)
「・・・コホン、えっと、ところで僕はどうやって別の宇宙に行けばいいでしょう?」
「・・・そ、そうだね、えっとね、別の宇宙の代表がなんとかしてここにゲートを作るって言っていたよ、ただずっとゲートを固定するのは難しいみたいで短い間だけみたい。出来たらまたそこの壁にある通信装置で知らせるってさ」
「なるほど、分かりました。じゃあ今晩から僕はリビングで寝ることにします。いつでも応答出来るように」
「ありがとう、ホントごめんね、迷惑かけるようでさ。確か何か大事な用事があるんだろう?」
「いいんですよ、確かに大事な用事ですけど、宇宙崩壊の方こそもっと一大事ですから」
「うん、本当に有難う。今回もまた何かお礼はするからよろしくお願いしますね、冴内 洋」
「分かりました、僕に出来ることがあればですけど、出来ることがあるなら頑張ってやってきます」
「ありがとう、それじゃ僕は戻るね」
こうして、冴内はさいしょのほしが存在する宇宙との対話を終えた。果たしてこの宇宙ですら良く分からないという宇宙では一体何が起きていて、冴内は何が出来るのだろうか・・・