334:その他のチーム
さらに力堂達は先を進めたところ、今度はフィッシュマン2体に加えて全長3メートルはある巨大なザリガニマンが出現した。
「うわ!デケェのが出たなオイ!」(矢)
「良野さんもう一度さっきのお願いします!」(手)
「了解ッ!雷撃ィッ!」
バァンッ!
良野はザリガニマンの見た目に少しビビったので先ほどよりもさらに強い雷撃を放ったのだが、もう雷撃の音というよりは爆発音に近い轟音がして、ザリガニマンもフィッシュマンも一瞬で木っ端微塵になった。
「ヤベェなコレ・・・」(矢)
「電気の流動性がいいとはいえ、ここまでの破壊力になるとは思いませんでした」(手)
「このステージ、俺達要らねぇんじゃねぇの?」(矢)
「今の威力だと10発も撃てないわよ」(良)
「MPポーション飲んで行けばいいじゃねぇか」(矢)
「そんなにバンバン飲めないわよ、お腹がタポタポになるしトイレも近くなるし、飲んでも3本までかしらね」(良)
「ってことは30発か、それでも楽勝じゃね?」(矢)
「そうですね、もっと威力を弱めても良さそうですし、矢吹さんの言う通り良野さんだけで戦闘は進められそうですね、ただしそれは敵に絶縁体の能力を持つものがいなければの話しです」(手)
「確かに、カエル系のモンスターや他のモンスターで表皮が絶縁体に覆われたものが出現したら、良野の雷撃は通じないだろう」(力)
「なるほど、それもそうだ。試練の門がそんな簡単に行くわきゃねぇよな」(矢)
「ええそうですね、とりあえず当初の目的も果たしたことですし、戻りましょう」(手)
「「「了解」」」
戦術検証戦闘のため開始からまだ30分も経っていなかったが、しっかり目的を達成したので力堂達は引き上げた。
実際の戦闘も当然大事だがそれ以上に彼等は戦闘後の入念な検証と考察に時間を多く費やした。
この辺りの入念な仕事ぶりも徹底してプロフェッショナルらしい仕事だった。
力堂達はその後も少しづつ着実に16階層を攻略していった。どこにも時間的制約はないので焦る必要は全くなく、素材収集と脅威対象物の詳細なデータ収集とステータスアップのため17階層へ続く中ボス部屋の前で引き返して何度も16階層を攻略した。
様々な素材アイテムが収集され、中でも食材としてザリガニマンと大ナマズの肉は非常に美味であった。他にもフィッシュマンの鱗にザリガニマンの殻は防具素材として優秀だったし、大ナマズのヒゲはムチやロープの素材として非常に優秀だった。
手代木の予想通り大ナマズは絶縁体被膜で覆われており雷撃が通用せず、水上に姿を現さないので少々手こずることになったが、フィッシュマンがドロップした槍で突き刺すと易々と倒すことが出来た。
この結果をもとに早速戦術研究チームは、短くカットしたフィッシュマンの槍を圧縮空気で射出する武器を開発し、大ナマズが出現した時は吉田と手代木も攻撃参加した。
先にも記載した通り、力堂達は攻略を全く急いでおらず、機関側もこの先の難易度についてはしろおとめ団や冴内達の戦闘結果によりどういう内容のものなのか分かっているので全く急いでいなかった。
そのため力堂達は毎日のように試練の門を攻略しているのではなく、後に続く他のチーム達への協力支援ということで、様々なチームに情報提供したりあちこちの現場に赴いてレクチャーしたり戦闘訓練の技術指導などを行っていた。
現在力堂達の次に実力のあるチームは英国ゲートシーカーチームで、こちらは力堂チームの倍の10名で構成されていた。
その中にはシーラ・ウェストンも含まれており、彼女は鑑定士なので戦闘にはほとんど参加せず、ドロップアイテムの鑑定やフィールド上で採取可能な鉱石や植物などの鑑定を行った。また手代木程ではないが、ある程度のステータスも鑑定可能で、そもそも脅威対象物、所謂モンスターの情報については先行する力堂達により詳細情報が公開されているので、戦闘時に脅威対象や味方のステータスが確認出来れば良く、手代木程正確ではないがおおよそのステータス変化はシーラでも検知可能だった。
モンスターの残りHPやMPが分かって味方に知らせることが出来るだけでも相当に戦闘が有利になるので、シーラの存在はとても重宝した。
英国チームは現在難易度「難しい」の99階層目まで到達しており、後は最後のボス部屋攻略というところで敢えて止めて、何度も99階層を繰り返してステータスを向上させていた。それというのも矢吹が一度100階層のボス戦で死んでいるから、慎重に慎重を期して万全の体制で挑むつもりだったのだ。
ちなみに難易度「難しい」の最終ボスは軍隊アリで、真のボスは巨大な女王アリであり、一般の兵隊アリに指揮官のコマンダーアリに、羽が生えて立体攻撃してくるアリもいて、さらに尋常じゃない数のアリが絶え間なく襲ってくるので、何かしらの対策がないと力任せではどうにもならない相手だった。
これを力堂達はわずか5人で挑んで勝利したのだから、後に続くゲートシーカーチームからはクレイジーだと言われても仕方なかった。とりわけ最初から最後までパンチだけで戦った矢吹がひときわクレイジーだと称された。
当然のことながら女王アリを倒せば他のアリ達も霧散して消えてクリアになるのだが、次から次へと群がってくるアリがいるので、そう易々と女王アリの元へは辿り着くことすら出来なかった。
おまけに兵隊アリ単体だけでも硬い外骨格で覆われた身体にはなかなかダメージを与えることが出来ず同程度に拮抗した能力値では水や風や炎や雷の魔法もなかなか効かなかった。
当然ステータスやスキル能力が兵隊アリ達よりも遥かに上回っていれば、打撃も斬撃も魔法攻撃も効くのだが、一つ手前の99階層を繰り返してそこまでの能力に達するには少なくとも半年はかかりそうだった。
英国チームも力堂達と同様に攻略については全く急いでいなかった。このあたりのレベルのシーカー達ともなると、どの国のシーカー達も超一流クラスなので己の力量を完全に把握しており、上には上がいることもよく理解しているし、自分は自分として淡々とプロの仕事をこなす人物が多かった。
それに同じ階層を繰り返し探索しても、そこで入手できる素材アイテムは極めて価値あるもので莫大な収入が手に入るし、国からも大いに喜ばれているので全く問題なかった。
むしろ先を急いで取り返しのつかないこと、すなわち死や再起不能になって全てが無になるくらいなら、例え攻略までに数年かかろうとも一向に構わないという考えをする者達の方が多かった。
若くて経験の浅いルーキーシーカーには先を急ぐ者も多少はいるが、それでもギフトを授かった人物は性格的にしっかりした者が多く、血気盛んに勢いに任せて無茶をするものはほとんどいなかった。
試練の門に挑む者達はいくつか事前講習を受ける必要があり、その中には冴内達の活躍やしろおとめ団達の活躍、そして矢吹の死などの戦闘映像を無修正で見なければならない講習もあり、それらの映像学習教材はかなりの効力を発揮していた。
今では試練の門に挑むゲートシーカーチームは世界各国から毎日のように多数集まってきており、奈良ゲートおよび周辺の地元村の収益は前年比で5倍にもなる程の増益を記録していた。
基本的にシーカー達はゲート村の宿泊施設を利用するので、奈良ゲート村はますます設備が拡充していき、さらにずっとゲート村だけで過ごすのも窮屈なので、地元の村にある温泉宿などで一息つく者達も大勢おり、当然試練の門に挑む程の者達なので羽振りも良く、地元の温泉宿やその他の施設にも多額の収益をもたらすことになった。
以前は過疎ゲートだった奈良ゲートは今や世界でも最も有名で人気のゲートにまでなっていた。
奈良ゲートがそんな状況なので、鑑定士の鈴森も、大工シーカーの宮と旧姓早乙女夫妻も、刀剣鍛冶師の梶山もずっと奈良ゲートに常駐して、良い意味で大忙しの大活躍だった。