328:至福のひととき
昼食に美味しい野菜あんかけハンペンを食べて満足してまったりとリビングで食休みをとっていたところ、リビングにある大型ディスプレイ付き通信装置から着信のお知らせコールが鳴り、ディスプレイには良野・吉田・木下と文字表示されていた。
早速大型ディスプレイに向かってもしもしと話しかけると、ディスプレイに良野・吉田・木下の3名が映し出された。どうやら3人ともみんなのほしにあるホールケーキセンター前に設置しっぱなしの通信機能付きテーブルを使って連絡してきたのだということがすぐに分かった。
「さっ!冴内君!今からそっちに行ってもいい!?」(良野)
「えっ?もちろんいいですよ、大歓迎です!」
「そっちにその・・・可愛い小人さん達っているのよね?」(吉田)
「さいしょの民の皆さんですね、いますよ!」
「わぁ!」(吉)
「きゃぁ!」(良)
「やりましたね!」(木)
まるでさいしょの民達のように良野・吉田・木下はワァワァキャァキャァ言って喜んだ。
「えっと!冴内さん!さいしょの民の皆さんと仲良くなるにはどうしたらいいでしょうか!!」(木)
「う~ん・・・そうだなぁ・・・あっ、そうだ!日本のお菓子を持っていったらいいんじゃない?」
「えっ、日本のお菓子ですか?」(木)
「うん、そんな立派な贈答品とかじゃなくて、普通にスーパーとかコンビニで売ってる人気のお菓子、彼等がまったく口にしたことのないものだし、日本のお菓子は美味しいから皆大喜びすると思うよ」
「でも、大丈夫かしら、小人さん達は自然の中で生まれ育ってきたんでしょう?現代のお菓子には食品添加物とか入ってるから小人さん達のお口に合うかしら?」(良野)
「大丈夫だよ!アタイ達もニッポンのお菓子大好きだよ!カップラーメンも好きだし!」(美)
「うん!ボクもニッポンのお菓子大好き!」(初)
「私も!」(良子)
「美衣ちゃん達がそう言うなら間違いない!」(吉)
「そうね!」(良野)
「ちなみに美衣ちゃん達は日本のお菓子で何が好き?」(木)
「う~ん・・・難しい・・・どれも大好きだ」(美)
「うん、どれも全部美味しいよね・・・」(良子)
「ボクはまだ沢山色んな種類のお菓子を食べたことがないけどパンダのマーチは美味しかった!」(初)
「あっ!あれは可愛くて美味しいね!私も大好き!」(良子)
「じゃがりこどもも美味しかった!」(初)
「アタイもあれ大好き!チーズ味もサラダ味もどっちも最高だ!」(美)
その後もいくつか売れ筋商品がピックアップされ、木下はゲートシーカー端末を使って凄まじい速度でメモ記録していった。
千人分もの数量を買う必要があるので、直接スーパーやコンビニに行って買うのではなく、彼女達がこれまで築き上げてきた社会的地位を最大限にフル稼働して直接トラック単位で発注した。当然すぐに配送されるように・・・
日本を代表するゲート機関局長の神代といい、彼等は社会的地位や権力を普通とは異なるベクトルで用いていた。まぁ悪い方向に使っているわけでもなく基本的に無害で、利用される方も一応利益があるのでウィンウィンではあったが・・・
それから3時間程が過ぎてちょうどおやつの時間になる頃に良野達はやってきた。どうやらゲートの向こう側にお菓子の入った段ボールが山のように積まれており、ゲートの向こうとこちらでバケツリレーのようにお菓子が入った段ボールを運んできた。
冴内達も手伝いあっという間に全てを運び終わると吉田がこの山のように積まれた段ボールを運ぶためにリヤカーのような荷物車はあるかと聞いてきたので、冴内が全部瞬間移動で運ぶから必要ないと答えると吉田は目を点にして数秒間程冴内が何を言ってるのか分からなかった。
冴内がさいしょの村に移動するけど準備はいいかと聞いてきたので、とりあえず良く分かってない吉田を除いてOKの返事を返してきたので、冴内はそのまま瞬間範囲移動を実行した。どうやら前回の村を丸ごと移動させた時に何かコツを掴んだらしく、全員手を繋いで輪にならなくても移動出来た。
いつも通り冴内が「ワー」しか言えない程の短さで極短距離ワープを終了すると、山の様に積まれたお菓子入り段ボールと共に冴内達は航宙艦のあるさいしょの村の中央広場へと到着した。
いつもながら運よく移動場所には誰もいなかったので、段ボールのお菓子と分子結合してお菓子怪人になってしまう犠牲者は出なかった。
冴内はシステムAIに話しかけて、自分の仲間が皆に会いに来たと言った。皆と仲良くなりたいから美味しいお菓子を沢山持ってきたことも伝えた。
「えっ?コレって宇宙船なの?」(良野)
「古墳か何かかと思った!」(木下)
するとシステムAIは航宙艦の外部スピーカーから例の骨の笛と同じ大きな音を流した。
「この音は何だ!?」(吉田)
「多分皆を呼んでいるんだと思います」
骨の笛の音を聞きつけてまずは近くの家の中で作業していた者や畑で作業していた者や大きなニワトリの世話をしていた者達が中央広場に集まってきた。
「なぁに?」
「どうしたの?」
「わっなんか沢山あるよ!」
エメラルドグリーンに輝く頭髪、とても可愛らしく整った顔立ち、何かの動物の毛などで作られた可愛い民族衣装、子供のように小さい身体、まるでフル3DCGのRPGに出てくる妖精のようなさいしょの民達が沢山出てきて、良野・吉田・木下は感動感激を遥かに通り越して完全にフリーズした。
『神様冴内様の仲間の神様達が皆さんに会いに来ました、皆さんと仲良くなりたいので美味しいお菓子を持ってきましたよ』
「オカシ?」
「オカシってなぁに?」
『お菓子というのはご飯とご飯の間に少しだけ食べる美味しい食べ物のことですよ』
「美味しい食べ物ォ!?」
「やったぁ!」
「やったぁ!」
さいしょの民達は毎度お馴染みのワァワァキャァキャァ言って大喜びした。
目の前でまさにライブでナマでモノホンでさいしょの民を間近に見た良野らはようやくフリーズ状態から解放されたと思ったら今度は目の前の生き物達の圧倒的な可愛さにすっかりやられてメロメロになりまるでスライムのように溶けてドロドロになった。まぁ実際にはヘナヘナと腰砕けになってその場にへたり込んだのだが。
木下はともかく良野と吉田は試練の門の「非常に難しい」に挑んでいて今や相当な強敵にもひるまない程の強者なのだが、この可愛い攻撃には腰砕けになる程のていたらくであった。
ともあれいつまでも腰砕けになっていても仲良しにはなれないので、段ボールを開けてお菓子を取り出して配ることにした。結局買ってきたのは3種類のお菓子でパンダのマーチとじゃがりこどもとカントリーマダムだった。じゃがりこどもはサラダとチーズの半々で各々千5百個用意した。
行儀よく並んでいるさいしょの民達を眺めているだけでも可愛すぎて呆然自失になりそうなのを必死にこらえて良野・吉田・木下は丁度3人で別々のお菓子を担当して、一人一人に手渡ししていった。
「カミサマ有難う!」
「ありがとう!」
「でもこれ何の匂いもしないね!」
「フタを開けると美味しい良い匂いがするよ」(初)
「どうやって開けるの?」
「こうやるんだよ」(初)
「そっかぁ!わっ!ホントだいい匂い!」
「わぁホントだぁ!」
「いい匂い!」
「いい匂い!」
さいしょの民お約束のワァワァキャァキャァ言って大喜びする姿を見て今にも吉田は感激死するところだった。感電死なら分かるが感激死は恐らく原因不明の病扱いされることだろう。
こうして良野達は超至近距離で天使のような可愛さのさいしょの民一人一人に手渡しでお菓子を配り、もういつ死んでも構わないとすら思う程の至福の喜びの時間を味わったのであった。