327:さいしょの村
夕方にはさいしょの民達の村、さいしょの村に初めての入浴施設が完成した。分かりやすく男湯と女湯のマークを色分けして別々にしたのだが、さいしょの人達はまだ恥ずかしいという概念がゆるく、それぞれ好きな方に入っていった。
施設がちゃんと機能するかの確認と、さいしょの民達とのスキンシップを兼ねて冴内は男湯に入ったのだが、男性だけでなく女性のさいしょの民達も次々と何の抵抗もなくワァワァキャァキャァ喜びながら入ってきたのでかなり面食らったが、一応毎日のように優と美衣と良子とも入浴しているので、あまり意識しないようにして、仲良く皆で入浴することにした。
航宙艦のシステムAIがちゃんと事前に入浴のマナーと入り方を分かりやすく動画で教えてくれていたようで、さいしょの民達はちゃんと行儀よく入浴していった。一緒に入浴してみてさいしょの民達は結構綺麗好きだということが分かった。
夜になり冴内達はログハウスに戻り、さいしょの民達は今日も冴内の冒険活劇動画を見たいと航宙艦のシステムAIに頼んで様々な動画記録を見た。少ないとはいえ千人もいるので、昨晩見逃した者達が多く集まって見ていた。夜空に浮かぶスクリーンの中で様々な場所で様々な冒険をする強くて優しい冴内達を見て、さいしょの民達はますます冴内のことが大好きになっていった。
明けて翌日、さいごのひとロボ4号機の提案で今度は衛生設備を整えることにした。
やはり絶滅に瀕しているとはいえ千人も住民がいるので、生活排水や汚水などを湖にそのまま流すのは環境汚染になるので、上水道と汚水処理設備、さらにごみ処理施設など諸々の設備が必要だった。
朝からベルトコンベヤー式工作機械と汎用作業支援ロボ達はフル稼働で作動し、冴内と初とさいしょの民達も多く手伝って、より良い快適な住環境を作り上げていった。
湖に漁に出かけたさいしょの民達は、なんとはしけを作り始めており漁に使う木製の船も1艘目が完成しようとしていた。
また女性達は何かの干した草を器用に編んで簡素ではあるが網を作っていた。
森に狩りに出かけた者達はイノシシとブタを掛け合わせたような動物を仕留め、さらに冴内達のログハウスの庭で飼育している大きなニワトリのような鳥を抱いて出てきた。
ニワトリには目隠しがされており暴れることなく大人しく運ばれていた。さいしょの民は身体が小さいのでニワトリは自分の背丈程もあり恐らく体重も彼等の体重よりも相当重いはずだが、さいしょの民達は一人一羽を抱いていた。
イノブタについても同様で地球に生息するものよりも一回り以上大きいのだが、太い木の枝にぶら下げてたった二人で肩にかついでいた。
さいしょの民は素早さと持久力だけでなくかなりの力持ちでもあるようだったが、それにも関わらず昨日一緒に入浴した時に見た彼等の裸姿はガッシリした筋骨隆々のマッチョではなく子供のような身体つきだった。
同じく森にキノコや野菜、果物、木の実を採取しに行った者達も干し草で編んだ自分の背丈程もありそうな大きさのカゴの中にタップリと採取してきた物を入れて運んできた。
彼等はこれまで放浪衛星0141では自分達よりも強い外敵が多く非常に弱い立場にあったため、過酷な自然環境も相まって活動範囲も限定的であり、なんとか少ない食料資源をやりくりして生きてきた。
そのため資源を多く乱獲することはなく、必要な分だけ確保しさらに資源を増やす工夫もしてきた。
もちろんシステムAIから教えてもらったからというのもあるが、彼等自身の持って生まれた性格と生き抜くための知恵と努力の結果でもあった。
そのため外敵も少なく住みよい環境のさいしょのほしに来ても彼等は必要以上に乱獲することはなかったし、今日捕獲してきた大きなニワトリもこれから家畜として飼育するつもりだし、野菜や果物も栽培していくつもりであったし、魚についてもいずれは養殖を行う予定でもあった。
また、システムAIと量産型花子に教わって、大人しくて優しいモフモフの大きな動物の毛から糸をもらって衣服や布団などを作ったり、お乳をもらってチーズやバターなどの加工品も作っていった。
こうしてさいしょの村は着々と充実していったのであった。
そんな活気づいた様子を見て初も大いに喜んだ。
昼になり、冴内ログハウスのキッチンから「これだ!」という美衣の大きな声がしたので、とうとう美衣は例のザブトンのような生き物の美味しい料理を完成させたのだと思い冴内達はキッチンへと入っていくと、やはり美衣は右手のチョップを高らかに掲げて左手を腰に当ててドヤ顔で決めポーズをとっていた。
キッチンテーブルの上に置かれた白い大きなお皿の上に乗った料理を見ると、それは白い大きなハンペンのような物の上にタップリとトロリとした野菜あんかけがかけられた料理だった。
「うわぁー!見た目も香りもすごく美味しそう!これはすごく美味しそうだよ美衣!」
「ウム!久しぶりのケッサクが出来たと思う!ケッサクってどう書くんだっけ」
「血作?」(初)
「傑作だよ、すごく良い物を作ったっていう意味だよ」(良)
「すごく良い物なんだ!やった!スゴイね美衣お姉ちゃん!」
「うん!皆も食べてみて!ビックリするくらい美味しいよ!」
冴内は一瞬ヤバイゼリーの時みたいに皆ひっくり返ったらどうしよう、枕を用意した方がいいだろうかと思った。
ちなみに製作者の美衣のお腹はパンパンに膨れ上がっており、相当試食を繰り返したと思われる。
早速人数分切り分けられ冴内達は試食した。
「まだあんかけが熱いから気を付けてね」
冴内はスプーンですくってフゥフゥ息をかけてあんを冷ましてホフホフと食べた。他の皆は恐らく灼熱のマグマだろうとお構いなしに食べられるので普通に食べた。
一口食べきるところで全員「美味しい!」といったセリフを言うかと思ったら誰一人として何も言わず、目を大きく見開いて切り分けられたあんかけ白ハンペンを一心不乱に食べた。それはもうあっという間に食べた。
そして全員美衣の前に皿を出しておかわりを要求したので、美衣は満足げに2回戦目を盛り付けた。
美衣が今回用意したのはまさにザブトン程の大きさの切り身だったので、全員が4回戦を戦い抜くだけの量が十分にあった。ちなみに4回戦後の余った分は良子が全部食べた。
「どうだった?」
「「「ウンメェーーーッ!!」」」
「アハハハ!そうでしょ!ウンメェでしょ!」
「うん!ここ最近食べた物の中で一番美味しい!」
「そうね、料理として味付けした物ではここ最近の中で一番の味ね!」
「さすが宇宙一のコックだ美衣お姉ちゃん!」
「これならりゅう君と神代さんの結婚披露宴パーティーでも皆大喜びすると思うよ!」
「有難うみんな!お父ちゃんがおいしい星に連れて行ってくれたおかげだ!そして小人さん達の調味料のおかげだ!」
「そうか!可愛い小人さん達の調味料をベースにしているんだね!」
「うん!小人さん達は料理の腕がいい!勉強になる!」
野菜あんかけはまだ大量にあるので、ザブトンを追加で炒めて沢山作り、さいしょの民達のところにおすそ分けで持っていった。
さいしょの民達は村中総出で航宙艦の周りに自前の木の皿を持って集まり、野菜あんかけハンペンの切り身をもらっていった。皆行儀よく先を争うこともなく並んでもらっていった。
冴内達の反応とは異なり、皆食べた瞬間からワァワァキャァキャァ言って大喜びしていた。
「ミィちゃんはやっぱり料理が上手だね!」
「うん!ミィちゃんが一番だ!」
「料理が上手な人はコックって言うんだよ!」
「そっかぁ!」
「ミィちゃんは一番のコックだ!」
「コック!コック!一番のコック!一番のコックはミィちゃんだ!」
料理上手のさいしょの民達からも一番だと褒められたので美衣は大満足したのであった。