326:さいしょの活動
一切後先考えず宇宙連合と宇宙連盟双方の許可も取らず科学的医学的生物学的検証も行わないまま勝手に別の宇宙の他の星に住んでいた知的生命体をさいしょの星に村ごと移住させた冴内達であったが、連れてこられた住民達はすこぶる満足した様子であった。
そのまま踊り疲れるまで踊り続けたが、元小さき者達は身体は小さいがスタミナは尋常じゃなかったので結局夕方まで踊り続けた。単調な曲に合わせて簡単な踊りをするだけのことなのに、村中皆で一つの輪になって楽しく踊るということが、彼等には生まれて初めてのことだったのと元来の明るい性格も相まって全く飽きることなく存分に楽しんだ。
夕食は以前さいしょのほしで獲ったとっておきの食材をもったいぶらずに使ってさいしょの民達にご馳走した。
さいしょの民達はその美味しさに驚き、またしてもワァワァキャァキャァ大喜びした。
彼等は美味しい食材が豊富にある放浪衛星0141に住んではいたが、隕石衝突事件以降絶滅の危機に瀕する程種族しては弱くなってしまい、厳しい自然環境と恐ろしい外敵からの脅威から身を守るため、美味しい食材を勝ち取るだけの力はなく、たまに危険をおかして小動物や魚を狩りにいく時以外は、決まった種類の野菜や穀物を細々と育てるか、飛べない小さな鳥を飼育するしかなかった。
しかしさいしょのほしでは、もうそうした食生活事情からは解放される。
さいしょのほしにある全ての食材が放浪衛星0141にある食材と同じ位美味しいということはないが、それでも彼等の日常の食卓に並ぶ食材よりは味も栄養素も勝っているので、彼等にとってはまさに夢のような食生活の改善だった。
賑やか過ぎる食事も終わり冴内達がログハウスに戻った後、航宙艦は夜空のスクリーンに冴内達の冒険記録映像を流し始めた。航宙艦はさいごのひとロボから冴内達に関するデータと、現在の宇宙連合及びこの別の宇宙の宇宙連盟に関する膨大なデータを超圧縮して転送してもらい並列処理でずっと取り込んでいたのだ。
ちなみに冴内達がほとんど気付いていない間にさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機は航宙艦の演算装置をより高性能な物へ換装していた。
見た目に関してはツルやツタに覆われた緑一食のままの姿の方がさいしょの民も安心するだろうということで、内部の機械だけごっそり最新鋭のものに交換していた。
元小さき者達改め、さいしょの民達は夜空に浮かび上がるスクリーンを横になりながら見上げた。上映されているのは冴内の冒険記録で、全員盆踊りで疲れていたはずなのだが、居眠りすることなくまさに目が釘付け状態で生まれて初めて見る冒険活劇動画を見て笑ったり泣いたり大興奮していた。
一夜明けて、さいしょの民達の村からなにやらとても香ばしい良い匂いがしてきたので、美衣が視察と称して飛んでいくと、さいしょの民達に伝わる自家製の調味料の香りだったらしく、美衣はちゃっかり彼等に混ざって試食して回った。
「フム・・・醤油?いや魚醤?なんかそのへんに近いような気がする」
さすが宇宙一のコックなだけあって、ただ大食漢というわけではなかった。
さいしょの民に作り方を聞いたところ、どうやら放浪衛星0141産の大豆のような豆と塩を発酵させたもののようだった。
さらに家によっては魚も一緒に発酵させるところもあるらしい。
美衣は畑で植えているという豆を分けてもらって早速ログハウスに戻りキッチンで仕込んでみることにした。ついでに何件かの家から少量のさいしょの民しょうゆをもらって帰り、納豆や卵かけごはんにかけてどれが合うか試しながら朝食をとった。
朝食後、美衣は例のザブトンのような生き物の食材の料理とさいしょの民達を襲ったヘンテコ生き物の調理法の研究にとりかかった。
冴内はさいしょの民達のための入浴施設を作ってあげようと思い、さいごのひとロボ4号機に頼んで小型汎用作業支援ロボ達と一緒にベルトコンベヤー式工作機械に入っていった。
さいしょの民達の移住情報を可愛らしい映像と共に知った花子は惑星グドゥルから小型ゲートを通過してやってきた。彼等の姿を直に生で見た花子はあまりにも可愛い姿なのでキャァキャァ言ってピョンピョン飛び跳ねて喜んだ。
キカイなのにとても可愛い姿でとても人間らしい動きをする花子を見てさいしょの民達もキャァキャァ言って花子を取り囲んで喜んだ。
やはりこの場にゲートシーカー仲間の良野、吉田、木下、旧姓早乙女がいたらメロメロになり過ぎて溶けてスライムのようになっていたことだろう。
ちなみにさいしょの民達が移住というか入植してきたことについては既に宇宙連合、宇宙連盟、及び地球にもさいごのひとロボ4号機によりしっかりと詳細な情報と証拠映像を含めて全て送信済みであるので、遅かれ早かれ良野達も知ることになるだろう。
少々冷酷なことに受け止められるかもしれないが、さいごのひとロボ4号機はさいしょの民達への健康や遺伝子などの生物学的な面で、今後彼等の肉体にどのような影響が起こるのか興味深く観察することにした。
昨晩さいしょの民達が眠っている夜中の間中ずっと航宙艦のシステムAIはさいごのひとロボ4号機からもらったデータを解析仕分けして整理していたので、さいしょのほしに関する情報もしっかりと把握していた。
そこでシステムAIはさいしょの民達に、危険な場所と安全な場所、食べられる物がある場所、食べてはいけない物など、これまで放浪衛星0141でやってきたように教えていった。
さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機により演算装置や内部の精密機械も完全に最新の物に交換されていたので、より分かりやすく映像を交えてさいしょの民達に教えた。
早速さいしょの民達は狩りや野菜と果物の採取に出かけた。
まずは身近にある大きな湖に行って魚を獲ろうという者達や、森に入って野生動物を狩ろうとする者達や、同じく森に入ってキノコや野菜や果物や木の実を採取する者達に別れて探索していった。
他にも冴内ログハウス近くにある田んぼに行って花子から田植えの説明を聞きに行くものや、大きな飛べない鳥の飼育に大きくて毛が長いモフモフの大人しい動物の飼育方法を聞きに行く者達もいた。
さらに冴内ログハウスの中に入っていって優や良子に料理を教わる者達もいた。ちなみに美衣は一人集中して絶賛料理研究中である。
また、冴内と小型汎用作業支援ロボ達が入浴施設を作っているのを興味津々で見に来た者達は、大きなお風呂を作っているということを聞いて大喜びして冴内達を手伝った。最初は簡単な運搬作業を手伝ってもらっていたが、彼等は結構器用で手を動かす作業に関しては学習能力も高く、割と複雑な建築作業も少しづつ手伝えるようになった。
やがて彼等も長い長い年月をかけて高度な科学文明社会を築くようになるのだろうか、そして今の地球人類のように資源をどんどん消費し自然環境を破壊していくのだろうか、そしてその間に戦争によって互いを攻撃し合う歴史を積み重ねるのだろうか。
だが、今はまだ彼等はこの地にやってきたばかりである。これから彼等が人口を億単位にまでで増やし、知的水準を高めて高度な科学文明社会を築くのは遥か遠い未来の話しである。それに彼等はずっとこのままであり続けるかもしれない。
彼等の未来はこれから彼等自身が切り開いていくのだ。この星で。