325:さいしょの民
冴内は全く何の予行演習も練習もせずにぶっつけ本番で放浪衛星0141にある小さき者達が住む村ごと別の宇宙にあるさいしょのほしの冴内ログハウス近くの大草原に瞬間移動させた。
家屋を含めて村ごと移動させたが、防御用のトゲだらけの柵や門や井戸や村の周りの堀はさすがに移動させなかった。
いつもはワープのプの字も言う間もない程の速さで移動完了するのだが、さすがに今回は3秒もかかってしまった。3秒も。
「・・・うまくいった・・・かな?」
『問題ない、1371名全員のバイタルは正常だ』
「・・・ホッ、良かった」
『冴内 洋様、これは一体・・・あなたはどういうお方なのですか?』(AI)
『それについては私からデータ転送して情報提供しよう』(さいごロボ)
「わぁ!ココどこ!?」
「とっても空気がさわやかで心地いい!」
「ホントだ!ムシムシしない!」
「あっ!湖がある!お水沢山飲める!」
「あっアレ神様のおウチ?」
「見たことがない畑がある!水がいっぱいだ!」
「わぁおっきなトリさんがいる!」
「大人しそうな大きいのもいるよ!」
小さき者達はワァワァキャァキャァ言って物珍し気に周りの景色を見てはしゃいでいた。
グゥゥゥ~グゥゥゥ~
「アハハハ!カミサマのお腹の虫おっきな音!」
「アハハハ!」
「村ごと移動させたから相当お腹が空いたのね、待ってて洋すぐにうんめぇ物たくさん作るね」
「うん、ありがとう」
「カミさま、お腹すいたのか?これ食べて!」
「?」
「コレはペロイモだよ!美味しいよ!指をペロペロ舐めるくらい美味しいイモだよ!」
「何ソレ!!アタイも食べたい!!」
「ミィちゃんにもあげるよ!」
「ボクも!」
「私も!」
「皆で食べよう!」
「食べよう!」
小さき者達はやはりワァワァキャァキャァ言って喜びながらペロイモを用意して配っていった。
ペロイモは例えるなら「大学イモ」のようなもので、何か飴色のねっとりしたタレのようなものでコーティングされたサツマイモのようだった。
表面にはゴマに似た何かの小さい種と何かの粉のようなものもまぶしてあって、漂う香りも香ばしく食欲をそそるものだった。
「わっ!これ美味しいね!」(冴内)
「ペロイモおいしい?カミサマ」
「うん!すっごく美味しいよ!」
「やったぁ!」
「やったぁ!」
「ーーーッ!コレだ!このタレだ!!このタレがあればザブトンが一番美味しくなる!!」(美)
「どうしたの?ミィちゃん」
「アタイにこのタレの作り方教えておくれ!」
「いいよ!」
「やった!」(美)
「やったぁ!」
「やったぁ!」
小さき者達はやはりワァワァキャァキャァ言って喜んだ。美衣も一緒にワァワァキャァキャァ言って喜んだ。
そのまま全員で昼食にすることにし、美衣は小さき者達と一緒に現代的な調理器具が一切ないかまどに行って料理をし、優達はログハウスのキッチンに行ってそれぞれ料理を大量に作った。
出来た食事は冴内の瞬間移動と優の短距離ワープで小さき者達の村の航宙艦の前の広場に運び、小さき者達と一緒に野外で全員で一緒に食事をとった。
小さき者達は絶滅に瀕しているとはいえ千人もいるので何かのグルメフェスのような有様だった。
小さき者達の作る料理は様々な調理法や調味料
が存在する現代の料理とは違って素朴な味付けではあったが、さすが放浪衛星0141の食材を使っているだけあって食材が持つ本来の美味しさを十分に引き出し、そして何より身体に優しく身体が喜ぶ温かい美味しさだった。
美衣はその調理法と彼らが使っている数少ない調味料に非常に感心して、凄まじい集中力で彼らの伝承の技を吸収していった。
そしてどんな種族であってもどんな場所であってもどんな状況であってもやはり「食」というものは最高のコミュニケーションで、しかもそれが美味しい物とくればすぐに打ち解けて仲良くなれるのであった。
「ミィちゃんお料理上手だね!」
「うん!料理が上手な人のことをコックって言うんだよ!」
「そっかぁ!」
小さき者達は神様冴内様達に畏怖することなく、皆とても冴内達のことを好きになり、冴内達の周りには小さき者達がワァワァキャァキャァ言って近付いて身体をすりつけてきた。
まず間違いなくこの場にゲートシーカー仲間の良野や吉田や木下がいればこのとても可愛らしいエメラルドグリーンの毛髪の小人達に囲まれてメロメロになって悶絶幸福死していたことだろう。
一緒に美味しいものを食べて大分打ち解けてきたので、小さき者達も安心したようで冴内ログハウスの方に近づいて好奇心旺盛にあれこれ見て回った。
「あっ!あそこにキカイさんがいる!」
「ホントだ!ヒトみたいなキカイさんだ!」
「トリさんにエサをあげてるよ!」
「キカイさんこんにちは!」
「あら、皆さんこんにちは、さいしょのほしへようこそ」
「こんにちは!」
「こんにちは!」
「あっ!あれ何?畑?お水がたくさん入ってる畑があるよ!」
「あれは田んぼですよ、イネ科の植物でお米という食べ物を育てているんだすよ」
「タンボ・・・オコメ・・・それ美味しいの!?」
「とっても美味しいですよ、冴内様達は皆さんお米が大好きなんですよ」
「わぁ!オコメ食べたい!」
「食べたい!」
「私達もオコメ作ってみたい!」
「はい、教えてあげますよ」
「やったぁ!」
「やったぁ!」
小さき者達はやはりワァワァキャァキャァ言って喜び踊りだした。
「ボクの星に来てくれた最初の住人達・・・お父ちゃん有難う、ボクこの人達が最初の住人になってくれてすごく嬉しいよ」
「そうだね、この小人さん達はとっても素敵で、さいしょのほしの最初の住人にピッタリだと思う」
「うん!」
「これからは小人さんじゃなくて、さいしょの民と呼ぼう」
「サーナイ、ヨーさん、それって私達のこと?」
「うん、一番最初の住民だからさいしょの民って付けたんだけど・・・」
「私たちが一番最初!だからさいしょのたみ!」
「さいしょのたみ!」
「さいしょのたみ!」
「やったぁ!」
「やったぁ!」
小さき者達は一際大きくワァワァキャァキャァ言って喜び走り回り踊りながら自分達は「さいしょのたみ」という呼び名が付いたと全村民に伝えていった。やがてどこからか太鼓のような音があちこちで響き渡り、続いて骨の笛の音も聞こえ始めた。
「やっ!これは!盆踊りみたいだぞ!」(美)
「ミィちゃんボンオドリって何?」
「太鼓をボンボン叩いて躍るんだ!」(美)
「アハハ!ボンボン踊り!」
盛大に意味が違うがこの際ここでは正しい意味を追求するのは野暮なだけである。
「真ん中にやぐらがいるな!」(美)
「やぐらならあそこにあるよ!」
「ちょっと借りてくる!」
美衣はこれまで正門と裏門の2か所に左右にあったやぐらのうち裏門にある片方のやぐらを持ち上げて戻ってきて航宙艦の近くに建てた。
そして近くの太鼓の音を聞きつけて太鼓を貸してもらい、さいごのひとロボに言って日本全国大体の町や村で流れる昭和時代から使い古されてきた盆踊りの曲を航宙艦のスピーカーから流してもらうように頼んだ。
そうして美衣はやぐらの上に飛んで盆踊りの曲に合わせて太鼓を叩き始めた。
小さき者達改めさいしょの民達がキョトンとしているので、美衣以外の冴内達がやぐらの下に終結してとてもシンプルな動作の踊りを繰り返しながら、やぐらの周りを踊りながら回り始めた。
それを見ていたさいしょの民達は持ち前の明るさですぐに冴内達の後に続いて皆真似し始めて、盆踊りを踊り始めた。
さいしょの民達はすぐに気に入ったようで皆とても楽しそうにワァワァキャァキャァ言いながら踊り続けた。どんどん集まってきて大きな航宙艦を取り囲んだ一つの大きな輪が出来上がった。
自分の星に初めてやってきた住人達の楽しそうに踊る姿を見て、初は感激の涙を流していた。