324:民族大移動
何万年も放置され続けてきた航宙艦の統合管理システムAIによりこれまでの経緯と現状を知った冴内は家族を連れて早速現場に瞬間移動した。
航宙艦の上でヘンテコ生き物「コワイコワイ」の大きな角を高らかに掲げた美衣は今やまさに神様として崇め奉られており、小さき者達は跪いてひれ伏しているかと思ったら、大喜びでワイワイキャァキャァ踊りまわっていた。
小さき者達の自然信仰はまだ偶像崇拝レベルには達していないようで、神は身近にある存在で共存する存在として認知されているようだった。
すると突然別の神様達がいきなり自分達の目の前に現れて、今度は喜びのキャァではなく恐怖のキャァでワァワァキャァキャァ言って逃げまどった。
ちなみにさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機は小さき者達を怖がらせないように冴内ログハウスに待機している。
「だいじょうぶだよ!これはアタイのお父ちゃんと家族だ!本物の神様だ!」
「カミサマ?」
「ホンモノ?」
「ホントだ!キカイで見たことある!」
「カミサマだ!」
「ホンモノだ!」
「えぇと・・・皆さんこんにちは、僕は冴内 洋です」
「私は冴内 優よ!冴内 洋の妻よ!」
「わぁ!皆さんこんにちは!私は冴内 良子!冴内 洋の娘です!皆さんと仲良しになりたいな!」
「ボクは冴内 初!皆ボクの星においでよ!ここよりも安全だよ!」
地域によっては恐ろしい怪獣のような恐竜がウヨウヨいるが、冴内ログハウス付近ならば確かに今小さき者達がいる場所よりも安全なのは間違いなかった。また極端な気候変動もないし、いざという時は冴内達がすぐに救援可能でもある。
初のセリフに合わせるように航宙艦の統合管理システムAIが語りかけた。
『小さき者達よ、良くお聞きなさい。長い年月を経てようやく時が来たのです。今、神様冴内様が皆の者を助けに来たのです。神様達はここよりも住みやすく皆が安心して暮らせる楽園へと導いてくれるでしょう』
外部スピーカーにより大きな音量で村の隅々にまで届くようにシステムAIはゆっくりと優しく分かりやすく語った。
「そこにはコワイコワイはいるの?」
『いませんよ』
場所によってはもっと怖い恐竜がいるが・・・
「そこの冬は凍えて死にそうなくらい寒いの?」
『寒くないですよ』
場所によっては凍死確実の場所もあるが・・・
「そこの夏は暑くて死んじゃいそうになるの?」
『暑くないですよ』
場所によっては熱中症で死ぬ場所もあるが・・・
「そこには食べ物あるの?」
『沢山ありますよ』
食べると猛毒のものもあるが・・・
「やったぁ!」
「やったぁ!」
小さき者達はまたワァワァキャァキャァ言って喜び踊りだした。
「でも、キカイのカミサマはどうするの?私達と一緒に行かないの?」
『私はもう動けな・・・』
「もちろん一緒だ!アタイ達が皆と一緒に連れていく!」
『えっ?そんなことが可能なのですか?』
「出来る!アタイの宇宙ポケットに入れて・・・アレ?・・・ウム、大き過ぎて入らないみたいだ。そうか宇宙ポケットでも入らないものがあるのか。でも大丈夫だ!お父ちゃんのどこでも行ける能力でお船さんも一緒に連れて行く!」
冴内は内心少しだけ出来なかったらどうしようと思ったが、その時は航宙艦を修理すればいいかと考えた。
「キカイさんも一緒なの?」
「一緒だ!」
「やったぁ!」
「やったぁ!」
小さき者達はまたワァワァキャァキャァ言って喜び踊りだした。
「ところで、ここには全部で何人いるの?」(冴内)
「たくさんいるよ!」
「いっぱいいるよ!」
『1371名おります』(AI)
「他の地域に集落はある?」
『ありません、以前はありましたが全て絶滅し、今はここにいるだけです』(AI)
『AIの言う通りです、今こちらで観測ポッドに小さき者達の生態データパターンで照合をかけましたが洋様がおられる地域以外には存在しません』(音ロボ)
「お父さんどうする?私ゲート作ろうか?」(良)
「うーん・・・いや、ちょっと試してみたいことがあるんだ」
「わっ、何を試すの?」良子は興味深く楽しそうに聞いてきた。
冴内はそのまま膝をついてさらにそのままうつ伏せになって大地に大の字になった。
「何だ父ちゃん、お腹が空いたのか?」美衣が航宙艦から降りてきながらそう言った。
すると大地が光り輝き温かい光の粒子がチラホラと舞い上がった。
「わぁキレイ!」
「キレイ!」
「あったかい!」
「あったかいね!」
小さき者達はまたワァワァキャァキャァ言って喜び踊りだした。あと何回コピペする気だ。
「うん、なんか出来そうな気がする」(冴内)
「えっ!まさかこの村ごと移動する気なの?お父さん!」(良)
「うん、そのつもり。宇宙船ごと移動させるんだったら、小人さん達が建てた家や畑とか他にも沢山の大切な思い出の物とかあるだろうし、それに千人以上全員の手を繋ぐのも面倒そうだから、いっそのことこの辺り全部をいっぺんに運べないかなと思ってみたんだ」
「さすが父ちゃんだ!さすが本物の神様だ!」(美)
「オウチも一緒に運んでくれるの?」
「ハタケも一緒なの?」
「私のお人形さんも?」
「全部一緒だよ!」(美衣)
「やったぁ!」
「やったぁ!」
小さき者達はまたワァワァキャァキャァ言って喜び踊りだした。
「僕等が住んでる湖の前の草原にこの村全部入りきると思う?」
「入るよ!」(初)
「大分余裕があるわよ」(優)
「良かった、それじゃやってみるか」
またしても冴内は練習もせずに一発本番で土地ごと範囲移動しようとした。絶滅寸前の非常に貴重な知的生命体千人の命がかかっているのに、やってみるかという極めて軽いセリフが口から出た。
もしも失敗して可愛い小人達が全員地中に生き埋めとか座標を間違えて近場の湖に水没とか他にもこれからやることがどれ程危険なことなのか少しは想像力を働かせて今一度熟考して欲しかった。
「そうだ、初の星だから初に移動するのに丁度良い場所を教えてもらおう」
「わかった!いいよ!」
「それじゃちょっと行ってくる」
冴内は初を抱いてさいしょのほしに移動した。
「それじゃ、初がここがいいって思うところの真ん中に立っててくれるかい?そこにこの村の真ん中を移動させようと思う」
「わかった!」
「それじゃ頼むね、準備出来たら携帯で知らせて」
「うん!」
冴内はまた小さき者達の村に戻り、そのまま垂直上昇して村の真ん中付近を探し、その場所にゆっくりと降下した。
「もしもし父ちゃん!準備できたよ!」
「分かった、ありがとう!」
「おっと、さいごのひとさん、今この村の外に小人さん達っている?」
『いや、いない、全員村の中にいる』
「良かった、もし狩りとか畑仕事とかで村の外に出ていたら置いてけぼりになるからね」
『大丈夫だ、AIが把握している人口1371名全員がこの村にいる、病気や怪我で寝たきり状態のものや赤子もいるようだ』
「そうなんだ、だったらなおさら村ごと移動させる方が都合がいいね」
「それじゃいくよ!」
『皆の者、神様冴内様がこれから皆を楽園に連れて行く!恐れることはない、皆静かにその場でじっとするのだ!』
「はーい!」
「はーい!」
「はーい!」
冴内はもう一度身体を大の字にして地面にうつ伏せになった。まるで少年向けのバトルマンガで倒れるなら前のめりだと言って倒れた主人公のようだった。
すると今度は異世界転生アニメにありがちな巨大な転生魔法陣のようなものが地面の上に円盤状に光り輝いた。いつもの虹色の粒子ではなく、普通に明るく光り輝いた。地面からは温かな光の粒がサイダーの炭酸のように浮かび上がり、小さき者達はそれに触れて少しくすぐったいようにしつつも、温かく優しい光の粒にニコニコしていた。
やがて、村の上の巨大な円盤の上に存在する全ての物質がフェードアウトしていった・・・