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323:超法規的措置

 今から2万年程前、放浪衛星0141は大きな隕石の衝突により環境の大激変が起きた。衛星軌道が大きく逸れてしまったため気候変動も大きく変わり、極端な寒暖の差や激しい自然災害も頻発した。


 小さき者達以外の様々な動植物も激減し、絶滅した種も数多く存在した。


 そして隕石がもたらしたのは自然災害だけではなかった。隕石に含まれている微生物などの外部遺伝子情報により、その周辺に生息していた生物たちが突然変異し始めた。


 隕石が衝突したのは小さき者達が生息していた地域とは正反対の場所で、そこで生息していた生き物はほとんどが死滅絶滅したのだが、隕石衝突から年数が経つごとに生き物たちが戻ってきて周辺の草などを食べ始めたところ、徐々に生き物達は姿形を変えていった。

 最初は草食系の動物達が変化変容し、次にそれを捕食する肉食系の動物達が大幅に変化変容していった。

 それまでは地球上にいる動物達にどことなく似ている姿の動物達が、異様なグロステスクな姿に形を変えていった。

 そしてそのグロテスクな生き物達は徐々にその生活圏を拡大していった。

 捕食するだけでなく、強制異種交配を行うことでよりいっそう異様な生き物が増えていった。


 それまで美しい楽園のような光景だったのが、徐々にグロテスクな生き物や植物が増えていく地獄のような光景になっていった。


 そうしてグロテスクな生き物達はとうとう小さき者達が住まう地域にまで出没するようになった。


 航宙艦の統合管理システムAIは宇宙連合規約により、大幅に行動制約を受けていたが一部例外の拡大解釈権を適用することにより、与えられる範囲内で様々な知識を小さき者達に授けた。

 科学知識など文化文明をブーストさせてしまうような情報開示を行うことは出来ないが、生き残るための知識を小さき者達に与えた。

 彼らはまだまだ未熟な発展途上中生物のため、理解力のレベルがかなり低く、システムAIは彼等にも分かりやすいように事実をかなり脚色変更して伝えていった。


 その最たる例が「カミサマ」である。


 小さき者達は厳しい自然や巨大で恐ろしい外敵にさらされ続けてきたので、そんな自分達には到底抗えない自然の強大な力をカミの力と定義付け自然信仰を行うようになった。これは小さき者達が自ら生み出したもので、システムAIが授けた概念ではなかった。しかしこの概念は未だ理解力に乏しい小さき者達に何かを伝えるのにはとても都合が良く、システムAIは自分は神様の使いであり「キカイ」という存在であると語って聞かせた。


 自分が様々な事を知っているのは、私を作った神様達のおかげなのだと言って聞かせ、神様達の姿を空間に投影して見せた。

 言葉や文字も教えた。武具や生活道具や建築技術なども発達発展し知的水準も向上していった。それでも環境の激変による過酷な生活環境とグロテスクな生き物による被害で人口はどんどん減少の一途を辿り、いよいよ総人口数は1万を切った。


 それからさらに2万年が過ぎ、現在の人口数は千を少し超える程度にまで減っていた。

 小さき者達の知能は確かに初期の頃よりも向上したが決定的に数が減り過ぎてしまった。

 このままでは年々過酷になっていく自然環境とますます増えていくグロテスクな生き物達により、小さき者は消滅してしまうのは明らかだった。


 システムAIにはプログラミングされた疑似的な感情はあるがそれは人間の感情とは別物であり、せっかくこの宇宙で誕生した知的生命体がこのまま絶滅するのを心から悲しんだり残念がることはなく、単に遂行義務として可能な限り小さき者達の延命と存続のために出来得ることをやり続けた。


 グロテスクな生き物達をレーザー砲で撃退することも、万能薬を精製して与えることも禁止条約により行使することは出来なかったが、与えられる限りの知識を与えていった。農作業、家畜の飼育、食べられる動植物、病気に効く植物、簡単な外科治療法など、システムAIが経年劣化によって活動を停止するか、小さき者達が絶滅するまで知識を授け続けるつもりだった。


 こうした中、まさに小さき者達にとっての神様、冴内達がやってきた・・・と、いうことを冴内達は航宙艦の統合管理システムAIから聞かされた。


「・・・さすがというか、やはり冴内 洋はこうした任務、いや使命か、を宇宙によって任されているのだな」

「うーん・・・でも、僕もそうだけど、宇宙も全ての者は救えないし、助けを求める者達の声を全て聞くことは出来ないって言っていたよ」

「確かにそうかもしれん・・・だが、この遭遇確率の高さはやはり冴内 洋が全宇宙の愛の使者の称号を持つ身だからと思わざるを得ない」

「・・・まぁ、確かにそう言われるとそうなのかなって思うよ、うん」


「どうする父ちゃん」

 携帯端末越しに美衣は冴内に尋ねた。もちろん意味は人命救助であり、何をどこまでやるのかという意味である。ちなみにその姿はリビングの大型ディスプレイでも確認出来た。


「ええと、宇宙連合のルールっていうか法律みたいなものがあるんだよね?」

「うむ、宇宙連合規約だ」

「その規約があったから、宇宙船のAIはあの可愛い小人達を直接助けることが出来なかったんだよね」

「その通りだ」

「じゃあ僕が直接助けたらどうなるの?」

「問題ない」

「えっ!?なんで?」

「冴内 洋は宇宙連合加盟惑星の一員ではないからだ」

「えっ!それってその・・・屁理屈じゃないの?」

「む?ヘリクツ?・・・あぁそういう意味か、いやそういう意味では言っていないが、フム、そういう意味にもとらえられるのか?ニホンゴというのは実に柔軟というか解釈範囲が大きいのだな。だが今言ったことは紛れもない事実であり法規的には何ら問題ない、そもそも冴内 洋そのものが超法規的存在なので宇宙連合の制約を受けることはないのだ。それに今現在宇宙連合では前の宇宙イナゴ被害と別宇宙での人道支援活動報告から絶滅に瀕している知的生命体については特別に救済支援活動を行う方向で検討しているのだ」

「そうなんだ、僕個人的には良い事だと思うけど」


「冴内 洋、前にも言ったと思うが君は君が良いと思うことを為せばよいのだ」

「うん、分かった!」


 少々政治的に汚い話になるが、宇宙連合が自ら手を下すのではなく、宇宙連合に加盟していない、それも超法規的な存在である冴内が前例を作ってくれれば、もし何か不測の事態が起こった場合でも宇宙連合自身がその責を問われることはなく、宇宙連合にとっては低いリスクでモデルケースを得る絶好の機会になるので、宇宙連合が冴内の救助活動を否認することはまず起こり得ないだろうとさいごのひとロボは考えていた。そしてもちろんそこまで口にすることはなかった。


「よし!助けよう!」

「「「わかった!」」」


 冴内の簡潔すぎる言葉に、家族全員も簡潔に即答した。彼等にとって何をどうやるとか具体的なことは2の次でまず何よりも助けたいという気持ちこそが一番大事だった。


「で、どうする父ちゃん、どうやって皆を助けるんだ?」

「・・・う~ん・・・」

「みんなボクのところに引っ越しすればいいよ!」

「えっ?初、いいのかい?」

「うん!みんなにボクの星に来て欲しい!」

「賛成!」

「私も賛成!」

「いいんじゃない?」

「僕も個人的には賛成だけど、いいのかな?あの可愛い小人さん達は故郷を離れることになるし、初の星でも暮らしていけるかのかな?」

「だいじょうぶだよ!」(初)

「だいじょうぶだ!」(美)

「大丈夫だよお父さん」(良)

「大丈夫よ、あそこよりも快適だと思う」(優)


 冴内は別の宇宙の別の星に行くことで何か目に見えない何かしらのウィルスとか病原体などを心配した。他にも水や食べ物とか、さらに言えば重力や標高や空気濃度などのあらゆる環境要因に小さき者達が適合するのかということを心配したのだが、冴内以外の全員が大丈夫だとはっきり断言したので、恐らくその辺りの能力は自分よりも遥かに優れている超人家族の言うことを信じることにした。


 もしも小さき者達に何か良くないことが起きて彼らが病気になったとしても、いざとなれば冴内はレインボーチョップで治して新天地に適応できるよう品種改良すれば良いかという、考えようによっては恐ろしいことまで考えたのであった・・・

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