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321:小さき者達

 美衣から水筒のフタ兼コップを受け取った小さき物は林の方に走っていき、キョロキョロと木々を見ると木に絡まっている何かの植物のツタを手に取って、腰から鋭利な石を取り出しツタの茎を切り落とした。するとチョロチョロと透明な液体が出てきて美衣から受け取った水筒のフタに注ぎ始めた。


「わっ!スゴイ!あんなのから水が出てくるのか!」

「うんそうだよ、あれはホース草と言って水が流れてるんだ」

「ホース草から水が出るのは春と秋だけだよ、夏は濁った緑色になって毒があるんだ」

「そうなんだ」


 小さき者達はまだ互いに身を寄せ合って固まりながらも美衣と会話をした。

 程なくして水筒のフタ兼コップに水をタップリ注いできた小さき者が美衣にそれを渡すと、美衣は宇宙ポケットから例のサクランボを一粒取り出し、半分は美衣がかじって食べて、もう半分を人差し指と親指で潰して果汁をコップの中に垂らした。


「これは美味しくて元気になる果物なんだけど、普通の動物には水で薄めないとだめなんだ」


 美衣は皆に聞こえるように言って、コップを元重傷者の口に近付けた。


「これをお飲みよ、美味しくてすぐに元気になるよ、ゆっくりだよ、ひとくちずつゆっくり飲んでね」

 元重傷者は目をつぶったままコクリと頷き、サクランボの果汁が入った水を飲んだ。


 最初はゆっくりと美衣に言われた通りひとくちずつ飲み、後半は自分でコップを持ってゴクゴクと飲み干した。可愛い声でプハァーと一息つくと、パチリと目を開けて明るい笑顔になった。


「わぁ!すごい!すごくいい気分になった!なんだかとっても元気が出てきた!」

 元重傷者は立ち上がって、ピョンピョンと飛び跳ねた。その表情はとても明るくグドゥルに似てとても美しいエメラルドグリーンの髪の毛で同じ色のまつ毛がとても長く、まるでCGで描いた妖精のように美しく可愛い少女だった。


 すると、それまで身を寄せ合って固まって怖がっていた小さき者達も全員フードを脱いで顔をあらわにした。

 やはり全員エメラルドグリーンの毛髪で、一見すると全員少女のようにも見えたが、男子と思われる者も半数いた。


「プルル、もう大丈夫なの?」

「うん!なんだかすっごく元気になった!昨日よりも一昨日よりも、これまでで一番気分が良くて元気になった気がする!」

「わぁプルル!良かった!」

「うん!私もう死んじゃうのかと思ってたのに!すっごく元気になっちゃった!」

「「「わぁ!わぁ!」」」


「ありがとうカミサマ!」

「プルルを治してくれてありがとうカミサマ!」

「コワイコワイを退治してくれてありがとうカミサマ!」

「カミサマ!カミサマ!」


「アタイは神様じゃないぞ、英雄勇者コックだ!」

「サーナー、ミーはカミサマじゃないの?」

「うん、神様は・・・父ちゃんだ、アタイの父ちゃんは全宇宙で一番の神様だ!アタイは神様じゃなくて、英雄で勇者でコックだ!」

「サェナィミィはエーユーユーシャコック・・・難しくて分からないよ」

「アハハハ!皆神様は知ってるのに英雄とか勇者とかコックのことは知らないのか?」

「神様は知ってるけど、エィユゥとかユゥシャとかコックは知らない」

「知らない」

「知らない」

「知らない」


「フゥム・・・小さい人達はあまり物知りじゃないみたいだ・・・」

「サーナー、ミーはいっぱい知ってるね!カミサマみたいだ!」

「いや、アタイのお父ちゃんが神様で、アタイはその子供だ」

「わぁ!サェナィミィはカミサマのこどもなんだ!」

「わぁ!わぁ!わぁ!」

「カミサマのこども!サーナーミー!」

「アタイのことは美衣でいいよ!」

「ミィー!」

「ミィー!」

「ミィー!」

「ミィ大好き!」

「ミィ大好き!」

「ミィ大好きー!」

「アタイも皆が大好きだよ!」

「わぁ!わぁ!わぁ!」


「なんだか実に愉快なことになっているな、冴内 美衣」


「わぁ!誰か別のヒトの声がする!」

「コワイ!」

「コワイ!」

「コワイ!」


「だいじょうぶだ皆、これはさいごのひとの声だ、アタイ達の仲間だ。すごく物知りで頭がいいんだ」


「さいごのひと?・・・一番終わりの人ってこと?どういう意味?」

「一番最後の人だから一番年下の子供のことじゃない?」

「でも、声がお爺さんみたいだ」

「一番年下なのに、お爺さんだ!」

「ふしぎだ!」


「ちょっと、どういう状況なのか見せてくれないだろうか」

「分かった」

 美衣は例の白い消しゴム状の携帯端末をかざして小さき者達を撮影した。


「ほう・・・これは実に興味深い・・・放浪衛星0141には知的生命体の類は一切存在していなかったはずだ、これは宇宙連合に報告する必要がある程の大発見だぞ」


「あっ!私達のカミサマと同じだ!それはキカイだ!カミサマのキカイとおんなじだ!」

「おんなじだ!おんなじだ!」

「キカイだ!」

「カミサマだ!」

「キカイだ!」

「カミサマだ!」


「???神様の機械???それは何だ?」

「ウン、私達の村にあるキカイのカミサマのことだよ!」

「!!それアタイも見たい!!」

「うん!ミィに見せてあげるよ!」

「ミィついておいでよ!」

「ミィついておいで!」

「分かった!ついていく!」


 小さな者達は一斉に走り出した。とても素早く身軽で常人ではまず追いかけることは不可能な速さだったが、あともう少しで光の速さで飛べそうな美衣にとってはまるで止まっているかのようだった。

 道なき林の中を小さき者達はピョンピョン飛び跳ねるように凄まじい速度で移動していった。

 しかも全く休憩することなく移動し続けた。瞬発力だけでなく持久力も尋常じゃなかった。

 結局1時間以上も休みなく飛び跳ねるように移動し続け、小さき者達の村に到着した。


 村と思われる場所がかすかに見える距離で小さき者達は停止して、小さき者の一人が何かの骨のような物を取り出して口に当てて息を吹くと良く通る笛の音が鳴り響いた。

 すると数秒後に村の方からも同じような笛の音が鳴り響いた。

 そうして小さき者達はまた村の方に走り出した。


 村が近づいてくると太い木の柵が見えた。こちらに向かって尖った木の先端を向けており、周りには堀と思われる穴も設けられていた。

 小さき者達が近づくと正門と思しき門が開き、渡り橋と思われる丸太がズルズルと出てきた。

 小さき者達は一列になって速度をほとんど落とすことなく丸太を渡っていった。

 最後に美衣が渡ろうとした途端、門の中からキャァキャァ言う声がして、丸太が素早く引き戻されて門が閉じていった。

 一番最後に渡り終えた小さき者が振り返り、慌てた顔をして何か叫び、先に渡り終えた小さき者が門番と思しき者に慌てて何かを説明していたが、それでも丸太は引き戻されて門は閉じてしまった。


 美衣は少しだけキョトンとして考えこんだが、すぐに空を飛んで全く無防備な上空から村への侵入を試みた。


「あっ!あれは宇宙船だ!」

 美衣が上空から小さき者達の村を見下ろしたところ、植物のツタやツルなどに覆われてすっかり緑一色になって朽ち果てた大きな航宙艦が村の中央にあるのを見た。


 さらに見回してみると小さき者達の村は円形状になっており、木と葉っぱで作られた小さい簡素な家と集会所のような小屋があり、村の中に小さな畑と井戸がいくつかあり、小さな家畜のような生き物も見ることが出来た。

 また、正門と反対側の柵の外には村の中のものよりも大きな畑があった。

 さらに正門と後ろの門にはやぐらが左右2か所ずつあって、美衣に向かって弓矢を構えている者がいたが、下から大きな声で何やら言われていて、弓を構えたままで矢を放つことはなかった。


 美衣はさいごのひとに頼まれて村の様子を携帯端末をかざして撮影した。


 その様子はさいしょのほしにある冴内ログハウスにて夫婦のスキンシップという一仕事を終えて、リビングでサクランボを食べていた冴内にも、リビングに備え付けた大型ディスプレイ画面付き通信端末装置によって確認することが出来た。

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