32:緊急事態
一瞬で全員がその場で凍り付いた。まるで全員の顔が「ムンクの叫び」のようになった。
全員の頭の中にあるのは当然「崩落」の一文字。だがすぐにその危険性はないと分かった。洞窟内には揺れも無ければ、壁も天井もどこにもひとかけらの岩も落ちてないからだ。ただ一か所冴内の背中側の岩壁を除いて・・・
冴内は恐る恐る振り返った。そして全員で冴内の背後にある岩壁に空いた穴を凝視した。
すかさず手代木さんが「早乙女さん、最優先で撤退準備!続いて梶山君、鈴森さんの順で後退!矢吹さんと冴内君は護衛優先!自分は索敵を行うので数秒下さい!」と一気に言い放ち、
全員「「「了解ッ!」」」と即座に反応
手代木さんはヒカリ石をもたずにまずは穴の手前にしゃがみこみじっと様子をうかがう。その姿勢のまま1分程動かず全力集中で索敵。それを全員が片津を飲んで見守る。
その後手代木さんは早乙女さんにロープを要求。早乙女さんがリュックからロープを取り出し梶山君、鈴森さん、矢吹さんと手渡しリレーする。ロープが手代木さんの手に渡ると「早乙女さん、梶山君、鈴森さん、洞窟出口側に進んで互いに少し距離をとって下さい。退避の合図が出たら早乙女さんは全速力で出口に戻れるよう準備!」と指示する。「分かりました!」と早乙女さん。
手代木さんはロープをしっかり自分の腰に巻き、ロープの先端を矢吹さんに渡す。矢吹さんだけでなく自分もロープを握る。
3人でアイコンタクトをとってうなずき合うと、手代木さんは意を決して中に入っていった。ヒカリ石は持たずに穴の中に入っていった。
ロープを握る手に汗が握る。矢吹さんがロープを手に巻き付けたので、それをまねて自分も巻き付ける。足を開いて腰を落としたスタンスをとったので自分も同じスタンスをとる。二人してゆっくりと呼吸をした。
そうして待つこと数分・・・手代木さんが戻ってきた。
今度はヒカリ石を要求してきたので、また早乙女さんから手渡しリレーで手代木さんに渡す。ヒカリ石を手にした手代木さんはもう一度穴の中に入っていった。
今度は程なくして戻ってきた。
手代木さんの顔をみると酷く緊張している様子で良く見ると唇が震えているようにみえた。
「す・・・鈴森さん・・・ちょっと来てもらえますか?・・・あ、すいません、危険はない・・・と思います」
「おい手代木、一体どうしたってんだよ!中は一体どうなってるんだ?何があるってんだよ!」
「へ・・・壁画が・・・」
「へきがァ?」
「壁画ですって!?」
ハァハァと胸に手を当てる手代木さん。手代木さんのこんな姿を見るのは信じられない。しかしすぐに深呼吸をして呼吸を整えると、キッと精悍な表情に戻る。
「何らかのトラップがあるかもしれません。まずは早乙女さん、梶山君は洞窟外に撤収、矢吹さんは念のため二人の護衛をお願いします」
「鈴森さんは自分と共に入って中にある壁画の鑑定をお願いします」
「あと冴内君、申し訳ないがもしもトラップなどが発動して閉じ込められたりしても君の【採掘チョップ】があれば脱出できるかもしれないので一緒に来て欲しい」
「分かりました、いきます!」
「採掘チョップ」などというスキルは持ち合わせていないが、当然そんなツッコミは冴内も全く思ってすらいない。
「矢吹さん後はお願いします!いつも通り携帯の通話はオンにしたままで!」
「おう!任された!」
「では各自行動開始!」
ルビー(仮)ですら前代未聞、世界最大級の発見だったのに、それすらもかき消してしまうような大発見が今まさに行われようとしていた・・・