318:試食
どこでも冴内の瞬間移動能力のおかげで、3っつの宇宙内であればどこであろうとも獲れたての食材をすぐに住み慣れた家のキッチンだろうが、実家のキッチンだろうが、研修センターの食堂にあるキッチンだろうが、好きな場所に移動して調理することが出来るのでこれは非常に便利だった。
今回冴内達はさいしょのほしのキッチンに戻っており、早速美衣が獲ってきた大きな白い座布団のような生き物と、優が巨大スズメバチを刺激する程に貴重な果物を試食することになった。
まずは美衣がザブトンの端っこを少しだけチョップでサックリ切り落として生のままそのまま口にした。衛生面だとか毒性物質の可能性とか何もかもそんなん知ったこっちゃないといった具合にゼロ用心で食べた。
さも食通グルメであるかのような難しい顔をしてよく味わいながら時折頷いて咀嚼している姿を冴内達は全員固唾を飲んで見守っていたが、ゴクンという大きな音と共に美衣が飲み込み終わると、美衣は目をカッと大きく見開き、その場で何の反動も付けずに空中で10回転して、最後にシュタッ!と立って決めポーズをとった。右手のチョップを高らかに掲げて左手を腰に当ててドヤ顔をするというものである。
冴内達は歓声を上げて拍手して喜んだ。美衣は切り落としの残りを初にあげると、初はアーンして美衣に食べさせてもらい、美衣の真似をして難しい顔をしながらよく味わって食べると目を大きく見開いて何回転したのか常人では目で追えないくらいの速さで空中スピンをした後で決めポーズをとった。
ザブトンの味は保証されたので、次に優のフルーツを試すことになった。
久しぶりに優は美衣の宇宙ポケットにしまっていたライトサーベルを取り出してやはり常人ではまるで目では追いつけない程の早業で果物を綺麗に完全に均一均等に5等分にカットした。
そのフルーツはまるでヒトデか星のように☆の形をしており、冴内達は見た目そのままにスターフルーツと呼んだ。
スターフルーツの真ん中部分は種が集中していたので☆のそれぞれ先端の三角形で切り落とすことでちょうど5等分になった。
皮は薄くバナナのように簡単にペロリと剥くことが出来た。
やはり全員まったく無防備警戒心ゼロで何の抵抗もなく口にした。冴内あたりは現代日本人なので少しは衛生面とかを気にしても良さそうなものだが、果物ならば大丈夫だろうということで気にせず食べた。現代日本人の中にはスーパやコンビニで売られていないものは口にしないという極端な人もごく少数いるが、冴内はそこまで神経質な現代人ではないようだった。
一口食べた瞬間全員少しだけ背筋が伸びたような感じで身体がピクッとなり、続けてムシャムシャ食べて飲み込むと今度は電撃が走ったように背筋がピンとなった。美衣と良子と初は飛び跳ねる程で、食べるとウサギになってしまう呪いでもかかっているかのようだったが、別に目が赤くなるとか耳が長くなるとかいったこともなかった。
「「「これ、うんめぇーーー!」」」(美&良&初)
「うん!これはうんめぇね!」(冴内)
「ウフフフ!うんめぇわね」(優)
食感はバナナのようだが、味はまるでモンブランケーキのようで、栗の甘さと生クリームの甘さがミックスされたような味だった。
「一体どうやったら自然界でこんな味になるんだろう!すごいなぁ!」(冴内)
「うむ!自然は偉大なのだ!」(美)
「こんなに美味しいんだからハチが怒るのも無理ないかもね」(冴内)
「あら、ハチが怒ったのはこのスターフルーツじゃないわよ」(優)
「えっ?スターフルーツじゃないの?」(冴内)
「うん、こっちの方よ」(優)
そう言って優が美衣の宇宙ポケットから取り出したのは黄金色に光り輝く巨大なゼリーだった。
それは楕円状の球体で、大人が一抱えする程の大きさでポヨンポヨンでプルンプルンの巨大水風船のようだった。
「あっ!それ前にゲートで採取したハチミツに似てる!大きさは段違いだけど・・・」
「ハチミツなのか!すごくウマそうだ!」
美衣は誰の許可も取らずに有無を言わさずチョップでゼリーをカットしてしまった。
「あっ!」と冴内は声を出して思わずゼリーの下に両手を差し出した。
しかし美衣がチョップでゼリーの端っこを切り落としてもゼリーは依然ゼリーのままで、カットした部分からドロドロとハチミツが流れ落ちることはなかった。
そしてそのカットゼリーをやはり全く問答無用で何の気なしに口に放り込んだ美衣は、今度こそ口に入れた瞬間身体を大きく仰け反らした。常人ならば背骨が折れるだろうというくらい背中を反らして、そのまま逆Uの字になって地面に頭を激突させた。まるでプロレスラーの首で支えるブリッジのような姿だったが、背骨がありえないカーブを描いている点で人間技ではなかった。
続いて初もチョップでカットして食べてみたところ、食べた瞬間何故か初は小さな地球儀のようにミニチュアさいしょのほしになってしまった。
良子もワシ掴みというかアイアンクローのように豪快に掴んでちぎって食べたところ、やはり美衣のように逆Uの字になった。
「すごいわねコレ、そんなに美味しいのかしら」
既に美味しいと決めてかかる優だった。神経毒の可能性とかを一切考慮していなかった。
「なんだかちょっと食べるのが怖い気がするけど、そんなに美味しいんだったら食べてみたいね」
「洋も食べる?」
「うん、ほんの少しだけちぎって食べてみる」
優が親指と人差し指で一つまみ分ちぎって冴内にアーンしてといってアーンした冴内の口の中に優しく放った。
冴内がゼリーを噛んで飲み込むと、冴内はいつもの冴えない目を見たこともないくらい大きく見開いた。冴内のくせにかなりキュートな可愛い表情だったが、髪の毛が見事に逆立っていた。冴内もいよいよ普通の人間じゃなくなったせいか、普通の人間ならば静電気か強いスタイリングワックスでも使わない限りそうはならないだろうという程に髪の毛が重力に逆らっていた。
「ウッ・・・ウッ・・・ウッ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・ウンメェーーーーーーーッ!!」
「これヤバイよ優!これはヤバイ!これすごくウンメェ!」
「えっ!そんなにウンメェの?それじゃ私も少しだけにしておこうっと」
冴内が優からまるで大人が座れるクッションのように巨大なゼリーを受け取って、やはり一つまみだけちぎって、優にアーンしてと言ってアーンした優の口に優しく放り込んだ。
ニッコリ笑顔の優だったが、ゼリーを噛んで飲み込んだ瞬間とてもこの世のものとは思えない美しい瞳をさらに大きく輝くダイヤモンドのように光り輝かせ、やはり美しく光り輝く銀色の長髪を逆立たせた。こちらはまるで獣人族が戦闘体制モードに入った時のようだった。
「キャァーーーッ!ウンメェーーーッ!!」
「でしょ!ヤバイでしょコレ?」
「ホントね!コレはヤバイわ!ヤバ過ぎるわね!」
冴内と優がヤバイヤバイ言って騒いでいるうちに、美衣達がようやく我に返って元に戻った。
「コレはあの試練の門から持ってきたヤバイ桃とかと違って、危ない成分はないと思うけど、単純に美味しさがヤバイね。このまま普通の人達に与えたら気絶しちゃう人が続出すると思う」
「うむ、このハチミツはヤバイハチミツだ、美味し過ぎてヤバイ」(美)
「ハチさん達が怒って追いかけてきたのも分かるね」(良)
「すごいぞ!おいしい星!最初の二つの食材だけでこんなに美味しいとは!アタイすごくヤルキがみなぎってきた!」
「僕も!」
まぼろしの放浪衛星0141はまさにおいしい物の宝庫の星であることが証明された。
ちなみにこのハチミツは冴内達からはローヤルゼリーならぬヤバイゼリーと名付けられることになった。