317:まぼろしの放浪衛星0141
龍人族の長老たちによる族長会議は一晩中続いたということもなく、夕方4時から始まって夜の8時には終了した。
各自の挨拶から始まり、今回の一応メインの議案であるりゅう君としろおとめ・龍美の結婚については全会一致ですぐに可決され、続いて最も重要な事として名誉会長以外の長老達が冴内を直に感じとるという事を行った。
その後麓から夕食が運ばれてきて、美衣は龍人料理が食べれるということで大喜びで、中央の石畳の上にテーブルやイスが並べられて野外での食事会となった。さすがに名誉会長や大型の長老達はその場でフルーツの盛り合わせを食べた。
食事をしながら各長老達の自己紹介や様々な話をして、荘厳で厳格な長老会議とは全くかけ離れた普通の楽しいお食事会をして楽しんだ。むしろそうした何気ない普通の会話をすることで、長年生き続けてきた龍人族の長老たちはしっかりと冴内の人となりを観察把握していたのであった。
お開きの時間となり、次は20日後の婚姻の儀での再開を確認して解散となった。さすがに婚姻の儀は厳かなものになるとのことだった。
冴内達は瞬間移動でさいしょのほしの冴内ログハウスに戻って家族皆で風呂に入ってのんびりしてその日を終えた。
明けて翌日、冴内達は今度こそ本来の目的、りゅう君達と神代の結婚披露宴パーティーのために美味しい食材を探すという冒険を再開することにした。
今回はどこでも冴内の瞬間移動を利用するので、コッペパン号で航宙艦の旅をする必要はなかった。
「でも父ちゃんおいしい星の場所は分かるのか?」
「えーと・・・おいしい星の場所は分からないけどおいしい星には行けると思うよ」
かなりツッコミどころ満載のセリフを言う冴内。場所が分からないのにどうやって行けるのか。しかも星がおいしいとはどういうことか。せめて美味しい物が豊富にある星とか言って欲しいものである。
「そうなのか、まぁ父ちゃんが行けると言うんだったら行けるんだろう、よし!早速おいしい星に行っておいしいものをたくさん発見するぞ!」
「いつでもいいわよ洋!」
「うん、ちょっと待って。音声ガイドさん以前コッペパン号のVRで出してくれた美味しい物がたくさんある星のデータを出してくれる?」
冴内がそう言った星とは第11029銀河にある第13番惑星の放浪衛星0141のことである。
「あっ!思い出した!あそこか!」(美)
「なるほどあそこね!」(優)
「そうか、元々は私達そこに行こうとしてたんだよね!」(良)
「???」(初)
「アタイ達はりゅう君達のパーティーに出すご馳走の材料を探すためにおいしい星に行くところだったんだよ。だけど間違って初のところに来ちゃったんだ」(美)
どこをどう間違えると別の宇宙にやって来れるのかとツッコミを入れる無粋な者はこの場にはいなかったが、初は素直にそうだったんだと納得した。
「えーと冴内様・・・どのようなデータを出せばよろしいでしょうか?」
「そうだね、星の外観とか・・・そうだ、確か今でもなんとかポッドが動いているんじゃなかったっけ?」
「観測ポッドですね!ですが、映像データではなく大気成分や地殻測定や生物反応感知などの数値データしかありませんが・・・」
「そうなんだ。じゃあ映像データで出せるものを色々表示してみてくれるかい」
「わかりました」
音声ガイドロボ2号機は空間に様々な映像を投影した。現在の星の外観。8万年前の地表映像や生き物や植物などの映像を次々と投影していった。
「あっ!この20本足のタコみたいなの父ちゃんが気に入ったやつだ!」(美)
「おすしにしたら美味しそう!」(初)
「やっ!あれはアタイが気に入ったやつだ!」(美)
「なにあれ?アハハ!真っ白いザブトンみたいなのがお空を飛んでるよ!」(初)
「あっ私が気に入った果物だわ!あれならりゅう君達も喜んでくれるかも!」(優)
「うん!サイズも大きいし沢山もっていけば大きな龍さん達でも足りないことはないかも!」(良)
「うん・・・よし!これなら多分大丈夫だと思う」
「おっ!行けるのか父ちゃん」
「うんまかせて!」
「やった!それじゃ皆手を繋いで!」
「冴内 洋、一応念のため聞くが本当に大丈夫なのか?絶対宇宙座標位置の測量方法に関する知識を君は持っているのか?」
「えっ?絶対・・・何それ?分からないけど、星の外観や色んな場所の画像を見たから大丈夫!」
「そっ、そうか・・・わ・・・分かった・・・」
「それじゃ皆行くよ!ワー・・・」
またしても冴内がワープの「プ」を言う前にコンマ以下のゼロが大量に並ぶ程の瞬間的な速さで別の星の上空に移動した。別の宇宙でなければ良いが。
「うわ、結構凄い湿度だね」
「ムワッとするわね」(優)
「ヌタヌタウナギトカゲがいた場所みたいだ!」(美)
「ぬたぬた・・・それ美味しいの?」(初)
「多分かば焼きにして食べたらウンメェと思う」(美)
「でも、ここにはヌタヌタウナギトカゲはいないよね?」(良)
「やっ!白いのがおる!やった!」(美)
「ほんとだ!アハハ!ザブトンが飛んでる」(初)
「あら、ホントね!」(優)
「アハハ!ホントにザブトンみたい」(良)
「えっ?どこ?どこ?」(冴内)
冴内を除く全員が距離およそ千メートル先の目標対象物を認識出来る程の視力を兼ね備えていたが、凄まじいまでの宇宙の力を備えている冴内には残念ながら凄まじいまでの視力については宇宙から貸してはもらえていないようだった。
「あっち!」
美衣が手を繋いだまま目標対象物まで飛行していった。冴内達はリング状態を解除して美衣を先端にして逆Vの字編隊で飛行していった。
「うわっ結構大きいんだね」
「アハハハ!ザブトン!ザブトン!」(初)
真っ白い大きな座布団のようなものは幅が10メートルはありそうだった。まるでマンタ(オニイトマキエイ)のようで、優雅に先端を少し羽ばたかせていたが飛行するために羽ばたいているのではなく、ゆっくりと姿勢制御と移動方向制御のために調整しているかのようだった。
「とりあえず試食のために一番大きいのを獲ってくる!」美衣は編隊飛行から単独飛行に切り替えて、ザブトンの背後から器用に死角を取りつつ接近していった。
まるで精密誘導弾のように音もなく忍び寄り、はたから見れば優しくペシンと片手で叩いたかのようにザブトンの恐らく頭部かと思われる場所を叩いたところ、ザブトンはその優し気に見える一撃で即死したか気を失ったらしく、グッタリして落下し始めたがすかさず美衣が先回りして下に位置取りし、実に器用にそのまま宇宙ポケットに吸い込まれるように格納した。
今度は優が下にある森に大きな果物があると言うので美衣から宇宙ポケットを借りて、優は垂直降下していった。またしても冴内にはどう目を凝らして見ても森しか見えず、あの森の中の一体どこに果物があるのか全く分からなかった。
程なくして優が凄まじい速度で森から急上昇してきて、冴内と合流するや「すぐ瞬間移動して家に戻って!」と言うので理由を聞こうとしたところ、今度は冴内でもハッキリ分かる程に巨大なスズメバチのような大群がとても嫌な羽音をさせてこちらに接近してきているのが見えたので、冴内はすぐにさいしょのほしの冴内ログハウスに瞬間移動した。
「倒せないことはないんだけど、余計な殺生はしたくなかったのよね。あと多分洋は生理的に苦手な相手だと思ったの」
「うんその通りだよ優、ありがとう。どうも虫は苦手であんな大きなハチの大群に襲われたらパニックになって星ごと破壊しかねなかったかも」
「父ちゃんにも苦手なものあるんだね」(初)
「父ちゃんはワームに苦戦したぞ、特に黒くて毛がもじゃもじゃのやつ。アレの肉すごく美味しいのに父ちゃんはなかなか食べなかった」
「うっ・・・思い出してきた・・・」
ちょっとしたハプニングはあったが今回は別の宇宙に行ってしまうこともなく、正しい目的地に行って戻ってくることが出来た冴内達であった。
さて、獲ってきた食材のお味は如何に。