312:うんめぇ
冴内達が瞬間移動した場所はりゅう君のオジサンの自宅兼職場だった。
やはり天然の洞穴を利用しており、以前ゲート内で発見したりゅう君が住んでいたかつての駐在所と同じような作りになっていて、恐らくベッドと思われる干し草がたくさん敷かれている場所や、大きな果物や、例の通信装置が置かれていた。
そこで冴内は夢で見たことをオジサンに話した。
するとオジサンは通信装置の前に行き、長いひげの先端で器用に何かを操作した。すると通信装置から恐らく龍人族の文字と思われるものが空間に表示され、文字がスクロールしていくと静止画像がいくつか出現してきた。
冴内が「あっ!」と声を出すと、そこにはたつのすけの姿が映っていた。
その画像を拡大すると、どことなく冴内に似ているとても日に焼けた少年の顔が映し出されていた。また、その横には美衣そっくり、というよりも800年感氷漬けだった頃の優そのものも映っていた。
「えっ!?ここに映ってるのは私?」
「そうだ、オヌシが宇宙を破壊した後我ら宇宙連合に追われ、あちこち逃走した後にようやく観念して私に逮捕された時の記録映像だ」
「そうなの?うーん・・・思い出せないわ」
「まぁ無理もない・・・その・・・800年も氷漬けで冷凍睡眠状態だったからのう・・・」
「この横にいるのが洋のご先祖様のたつのすけっていう子なの?」
「そうだよ、覚えていないかい?優」
「ちょっと待って・・・ウ~ン、ウ~ン・・・ダメね、そうだ、美衣ちょっと頭をチョップで叩いてみてくれる?」
「わかった!ポカッ!」
「もう少し強く叩いてもいいわよ」
「わかった!ボガンッ!」
「あっ、何か出てきそう、もう少し強く!」
「わかった!バガンッ!!」
優の足元が若干くぼむ程の脳天チョップを食らった。忘れた記憶じゃなくて脳みそが出てきたらどうしようかと思う程の威力だった。恐らくこれが巨大恐竜だったら脳みそはきっと・・・
「どうだ?母ちゃん」
「そうね、乙先輩やかぐやとの楽しい思い出ばかり鮮明に出てきてとても愉快な気持ちになったんだけど、たつのすけさんの思い出は出てこないわ、こうなると少し危険だけど美衣のフルパワーチョップで・・・」
「待った待った!ちょっと待った優!」
「えっと・・・美衣、こないだ第3農業地の人からもらった干し芋を出してくれる?」
「分かった!・・・はい!」
冴内が美衣から干し芋を受け取ると、優の前に立ってひとくち食べてこう言った。
「うんめぇ~~~っ!!」
それを見た優は何度かまばたきをした後で目を大きく見開いた。改めて惚れ惚れする程の美しい目鼻立ちである。
冴内は続けてふたくちみくちと食べて、うんめぇうんめぇと繰り返した。
それを見ていた優以外の者達は生唾をゴクリと飲んで冴内の嬉しそうな顔を見た。ちなみにオジサンは涎が出ていた。
「うちゅうさんも、干し芋おあがりよ」
「ウ・・・ウン・・・パクッ」
「どうだい?うんめぇかい?」
「ウン・・・ウン・・・うんめぇ・・・うんめぇ、欲しい芋うんめぇよ・・・タスケテ」
「なんだ?母ちゃん助けて欲しいくらいウマイのか?」
たつのすけと優が出会って間もない頃、優がうまくたつのすけと発音出来なかった時の様子はたつのすけと優と冴内の3人だけが知っている昔々の記憶のカケラであり、優はようやく全てを思い出したようで涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
「あの時初めて食べたおにぎり、お刺身、干し芋、鍋料理・・・あれは全部日本で起きたことだったのね・・・そうか、多分乙先輩やかぐやの話しを聞かされていたから無意識に日本に行ったんだわ・・・そして、たつのすけに出会ったのね。洋のご先祖様に出会えたのね・・・」
「うん、僕もすごく驚いたよ。多分たつのすけお爺さんは僕に伝えたかったんだと思う、そして優に伝えたかったんだと思う。最後まで牙を内に秘めたまま、自分を失うことなく変わらず生き抜いたと」
「ウン・・・ウン・・・たつのすけ・・・優しい優しいたつのすけ・・・」
冴えない冴内が涙を流す優を優しく抱きしめて背中を優しくさすった。
美衣達はそんな二人を干し芋を食べながら皆口々に「うんめぇうんめぇ」と言いながら温かく見守っていた。まるで二人が出会ったのは運命だと言っているかのようでもあった。
「ところでオジサン、オジサンはたつのすけにこのことは誰にも言ってはならないと言っていたようですが、今でもこの事は他言無用ですか?出来れば両親や親戚、あとゲート機関の人達にも教えてあげたいのですが・・・」
「おお、そのことでしたらもう何の問題もないですぞ。今やもう冴内殿のおられる地球と宇宙連合は交流関係にありますし、過去のたつのすけ殿の出来事を遥かに超える見事な冴内殿の大活躍が宇宙中にとどろき渡っておりますからな。むしろ冴内殿が今こうして宇宙の力を得ることになった理由の一端となる源流開祖の歴史が明らかになる事は宇宙にとっても大いに有益となることでしょう」
「いやぁそれにしても・・・なるほど・・・そういう繋がりがあったんですなぁ・・・縁とは不思議なものです。もしや優殿はこうして今ある未来を予見して我が上司の牙をたつのすけ殿にさずけたのですか?」
「うーん・・・さすがにそこまでは考えてなかったと思うわ。でもまさかその後たすけてが、じゃない、たつのすけが冴内と名乗るとは思わなった」
「それも宇宙の意思だったんだよきっと!お父ちゃんがボクとグドゥルお姉ちゃんのところに来たのも、たすけてのすけさんのところにお母さんが来たのも、そのあと冴内と名乗るようになったのも宇宙がお父ちゃん達にそうして欲しかったんだよ!」
「そうだ!初の言う通りだ!たすけてすけのところにお母ちゃんが来たからお父ちゃんが産まれてアタイが産まれたんだ!これはうんめぇだ!」
「たすのすけさんがお母さんに会ったから、私も良くない存在から良子に生まれ変われたんだね!」
「私もただのガーデンフロアの案内ロボットから花子に生まれ変わったことも元をたどればたすけてさんのおかげなんですね!」
良子が惜しいところまでいったが、誰もたつのすけと正しく発音出来なかった。それでも言いたいことは冴内にも分かった。
「そうだね、この奇跡は宇宙の意思だったのかもしれないね。そして凄く強い力を得てもそれを内に秘めて誰にも明かさず、生涯ずっと変わらず静かに穏やかに暮らしたたつのすけお爺さんのおかげだね」
「そうね!たすけ・・・たつのすけは私との約束を一生守り続けたのね!」
「でもそうなるとどうしてこれまで誰一人としてギフトを授からなかったのかな?何故突然僕がギフトを授かったんだろう・・・」
「宇宙がそろそろ母ちゃんも反省して心を入れ替えたからシャバに出してもいいだろうって思ったからじゃないか?それでお父ちゃんをお母ちゃんのところに向かわせたんだ」
「そうかもしれないわね」
オジサンが優を800年の間氷漬けにしていたことを実はすっかり忘れていたということはオジサンも冴内も黙っていた。二人ともこのことは墓まで持っていくつもりだった。
ともあれ、冴内家最大の秘密が明らかになり、情報公開の許可ももらったので、話はりゅう君としろおとめ・龍美の婚姻の儀の件へと移り、数日後に冴内達は龍人族の長老達が集まる族長会議へ参加する際の様々な事を打ち合わせた。
その後冴内はみんなのほしに戻り、両親と叔父夫婦と道明寺と研究職員と神代と力堂達に連絡し、今晩冴内家最大の秘密を明らかにするので空けておいてくれないだろうかと言うと全員了承してくれたので、次いでおとめぼしにいるしろおとめ・恵子に連絡して今日も夕方に大勢でそちらに行くと伝えたところ、喜んで歓迎すると言ってくれた。
美衣達はご馳走を作ると言って先に行き、冴内と優は大昔にたつのすけと優が出会った砂浜を二人で散策して色んなことを話し、夕方になって関係者を瞬間移動で迎えに行っておとめ観光温泉ホテルへと連れていった。