311:オジサンに会いに
初代冴内が名乗りを上げてから千年以上の年月が経ち、現代の最新鋭冴内は目を覚ました。
確かに能力的には最新鋭冴内ではあったが、中身の方はあまり変わっていないようだった。
しかし、これこそ初代から連綿と受け継がれてきた由緒正しき才能である。
目を覚ました冴内が周りを見渡すと、道明寺や研究職員や良子はまだ夢中になって巻物を読み調べていた。
「あっ、お父さん。起きた?」
「うん、夢を見たよ、とても昔のご先祖様の夢を」
「えっ!ご先祖様の夢?」
「うん、たつのすけという名の漁師だった少年が、あちこち旅してやがて冴内 一之進と名乗るまでの夢を見たよ」
冴内がそう話した瞬間、道明寺達は全員冴内の方に振り返り、大変に驚いた表情をした。
「さっ!冴内様!今なんと・・・たつのすけとおっしゃいましたか!?」
「うん、たつのすけと言う名の漁師の少年の一生の夢を見たよ」
「なんということ!この巻物の中で恐らく最も古いと思われるものにもたつのすけと記載されていました!元は漁師だったとも書かれております!」
「うん、そうみたいですね。他には何か書かれていましたか?」
「いえ、特にはまだ見つかっておりません・・・」
「恐らく初代冴内一之進さんに関することはそれ以上の記載はないと思います」
「えっ!?それはなぜですか?」
「書いてはいけなかったからです」
「書いてはいけなかった!?」
「はい、今はその理由は言えません、だからちょっと確かめに行かなければならないところが出来ました」
「そ・・・それはどちらに・・・」
「すいません、それも今は言えません。ですがある人物に会って話しをして、その方が話しても良いと言ってくれれば全てお話しします」
「分かりました、これ以上はこの件については何もお聞きしません、今日のこともこの場にいる者達のみの事として、一切口外致しません」
「有難う御座います、でも巻物に書いてある事については話しても構いません」
「分かりました」
「有難う御座います、皆さんのおかげでとても大事なことが分かりました」
「しかし、我々はまだ何も・・・」
「いえ、ここに来て冴内 一之進という初代の名前を教えていただいたことで分かったんです。皆さんに教えを乞いに来たからこそ僕はご先祖様のことを知ることが出来ました。本当に有難う御座います」
「・・・」
「さてと、僕は戻るよ。良子はどうする?」
「お父さんが確かめに行くところって私も一緒に行ってはだめなの?」
「・・・多分、良子は大丈夫だと思うよ。僕の家族なら多分皆連れて行っても許してくれると思う」
「それじゃあ私もお父さんと一緒に行く!」
「分かった、それじゃいったん皆のところに戻ろう」
冴内は後のことは道明寺に任せて、島根の叔父の家へと瞬間移動した。
時刻は夕方近くになっており美衣達は夕飯の支度をしていた。
叔父と叔母は畳の客間で初とグドゥルと一緒に昔のアルバム写真を見ながら色んな昔話を二人に話していた。
「ただいま~」
「おう、帰ったか、おかえり」
「おかえり父ちゃん!」
「おかえりなさい」
「わぁ何だか懐かしい写真を見ているね」
「うん!たくさんお話ししてもらったよ!」
「どれも楽しくて温かいお話しでした」
「それは良かったね、叔父さん叔母さんありがとう」
「なんのなんの!こっちの方こそ有難うだ!」
「そうよ、皆が来てくれて楽しくおしゃべりできてとっても嬉しいわ」
「ところでどうだった?何かご先祖様の事分かったのか?」
「うん、冴内 一之進という初代のご先祖様は最初はたつのすけという名前で漁師をしていたことが分かったよ」
「へぇー!さすが学者さんはすごいなぁ!」
冴内はそれ以上のことは話さなかった。そしてたつのすけのことを知ったのは学者ではなく自分だということも話さなかった。側にいた良子も察して黙っていた。
「おかえり父ちゃん!」
「おかえり洋、どうだった?」
「うん、大分分かったよ。ここに来て本当に良かったと思う」
「それは良かったわね!」
「うん、そしてこれから行かなければならないところも出来た」
「あら、そうなの?」
「うん、後で皆に話すよ」
昼に続いて夕飯も島根の叔父の家で皆で広い畳の部屋で賑やかに食べた。夕食は魚料理中心で握り寿司に加えて煮魚やあら汁が並び、叔父と叔母は冴内の両親の時と同じように、こりゃそこいらの寿司屋や日本料理屋には行けなくなるなぁと満面の笑みでモリモリ食べてくれた。
その晩は叔父の家に泊まっていく予定だったが、やはり皆でおとめ観光ホテルの大浴場に行こうということになり、叔父と叔母を連れて昨晩に続き今晩もおとめぼしへと瞬間移動した。
「ひえー!こりゃホントに夢みたいだなぁ!一瞬ですごく豪華な温泉旅館に着いちまった!」
「いいのかい?洋ちゃん、ここ随分お高いんじゃないの?」
「うん、大丈夫、気にしないで」
すぐに給仕ロボ達がやってくると同時に空間にしろおとめ・恵子の顔が投影された。
「あっ洋さん!今晩も来てくれたんですかい?おっと、来てくれたんですの?」
「うん、ごめんね連続でいきなり来ちゃって、今日もお風呂貸してくれる?」
「もちろんです!今日も来てくれて皆も喜びます!すぐに参りますわね!」
すぐにしろおとめ団全員が今日も白い正装でやってきた。
冴内の両親に続き、叔父と叔母もとんでもない美女と美少女達がやってきたのでとても驚いた。中にはネコ耳のとても可愛らしい者もいて、やはり自分達は夢でも見ているのじゃないかと思っていた。
叔父叔母ともに久しぶりの温泉大浴場、それもほとんど貸し切りで素晴らしいお湯に浸かって大満足で、やはりその日の晩もそのままホテルで一泊することにした。
翌朝、師匠の美衣を前に若干緊張気味のしろおとめ・良美が朝食を作ったが、美衣が実に威厳タップリと「うむ!」と頷きながらタップリ食べてくれたので良美は胸をなでおろした。
その後冴内は叔父と叔母を瞬間移動で送り返し、叔父からこの後はどうするのだ?と尋ねられると、ご先祖様のことで確認しに行かなければならないところがあるので行ってくると答えて、冴内は家族とグドゥルも連れて一度みんなのほしへと向かった。
みんなのほしのホールケーキセンターの入り口付近にいまだ置きっぱなしの放置状態だった例の通信装置機能付きテーブルの前にて、冴内はりゅう君のオジサンを呼び出した。
何度か呼び出した後にオジサンは出てきて、冴内に丁度良い所に連絡してくれたと言った。理由を尋ねるとりゅう君としろおとめ・龍美の婚姻の儀の前に龍人族の族長会議に出席して欲しいということだった。
家族達も連れて行って良いかと尋ねると、二つ返事で了承してくれたので、ならば今から行くと答えた。
それではリングゲート前に使いを寄こそうとオジサンは言ったのだが、今からオジサンの目の前に瞬間移動すると答えたのでオジサンはたいそう驚き、そんなことが可能なのかと言うと、可能だと答えたのでならばいつでも良いと答えたところ、本当に目の前に冴内達が現れた。
オジサンはたいそう驚いたが、続く冴内の言葉にさらに驚いた。
「オジサン、たつのすけっていう人を覚えていませんか?」
「たつのすけ・・・たつのすけ・・・うむ!その名前何故冴内殿がご存知なのですか?」
「あっやっぱりあれはオジサンだったんですね!今よりも少し若々しかったですよ!」
「???冴内殿、それは一体どういう意味であろうか?」
冴内はオジサンに夢で見たことを全て話した。
優の前でも話したのだが、優はまだ思い出していないようで、黙って話しを聞いているだけだった。
果たして、冴内の見た夢はどこまで本当のことだったのだろうか。