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31:想定外

 若干重い空気が立ち込めて皆の口数も少なくなったが、それでも例のマーブル模様の鉱石とクリスタルがすごく価値あるものだったらしく鈴森さんと梶山君にも笑顔が戻り、さらにトカゲステーキの絶品の旨さで早乙女さん始め、全員が幸福に包まれ午後の採掘作業からは重い雰囲気は一変して明るいムードになった。後で矢吹さんが語ったところによると「昼前はまるでお通夜のようだった」そうだ。


 さておき、午後はいよいよ自分の掘削マンとしての本領発揮で梶山君の指示で自分が採掘する。そして鈴森さんが鑑定するという役割分担になった。この役割分担作業を考案したのは手代木さんで、作業効率は各段にスピードアップし収集される鉱石量も倍増し早乙女さんはその間鉱石運搬で2往復することになった。


 オレの出番はないと言っていた矢吹さんも、自分が掘削マンとして採掘作業に専念したため、コウモリやトカゲ退治は矢吹さんが単独で行うことになった。


 そうして進み続けた結果、とうとう最深部の1キロ地点に到達。まさにここが行き止まりの最終地点といった感じでこれまでよりも少し広い空間になっていた。


 そしてその場にいる全員が正面の岩盤に存在する鉱石の一部に目が釘付けになっていた。その鉱石をヒカリ石で照らすと見事なクリアレッドに光り輝いており、目の前に飛び出している鉱石の一部分の大きさだけでもリンゴくらいはありそうだ。この大きさでも一体どれほどの価値があるのか想像もつかない。掘り起こしてさらに大きいようだと世界レベルの価値になるんじゃないだろうか。


 ともかく今日はもう午後4時近いし、明日もあるので今慌てて掘り出す必要もない。とりえず携帯端末で様々な角度で写真や動画を撮り今日は引き上げることにした。


 奇しくも昼間と同様に帰り道では誰も口を開かず重い空気が流れたまま出口へと向かったが、その中身は昼間とは全く違うものだった。探索者としての純粋な期待と興奮によるものでまさにあくなき好奇心と探求心の賜物だった。


 早乙女さんだけは切り替えが早くトカゲ肉のカレーとシチュー作りに狂喜乱舞しているようだった。その後出来上がったトカゲカレーを堪能し終えるとようやく全員の緊張もほどけ、明日最終日の採掘作業の話題で俄然盛り上がる。


 そうでなくても今日自分が採掘したマーブル模様の鉱石とクリスタルの塊の鑑定結果を見て梶山君と鈴森さんは興奮しきりだった。梶山君の興奮して喜ぶ笑顔を始めて見たがこういう顔をするんだなと自分も嬉しくなった。


 その後シャワーを浴びてテントに入って寝袋に入ると鈴森さんと梶山君はまだ話し続けていたが、それ以外は全員すぐに寝息を立てていった。意識を失いかけていく中、何故か二人の話し声が心地よい子守歌のように感じた。


 翌朝いつも通り5時前に目が覚めた。今日は最終日でしかも例のルビー(仮)を採掘するだけなので朝はゆっくりした雰囲気だ。鈴森さんと梶山君は遅くまで熱く語っていたようで、今日は矢吹さんと手代木さんよりも後にテントから出てきた。


 いつもなら朝6時には洞窟に入るのだが、今朝はその時間に朝食が始まり昨日の夜から煮込んでいたトカゲシチューを堪能した。鍋の半分は早乙女さんが食べたと思う。例のフランスパンを大きくしたようなパンも、僕らはスライスして食べたが早乙女さんは丸々一個そのままちぎってシチューにつけて食べていた。まるで顔一面に「幸せ」と書いてあるかのような早乙女さんを見ているとこっちまで幸せな気分になった。


 至福の朝食を終え、一通りの準備も済ませ洞窟に入り、駆け足で洞窟最深部に到着した。時刻は午前8時頃だ。


「では冴内君お願いします」と全員の期待を背に慎重に素手のチョップで採掘を開始する。絶対に傷つけないようにそっと切れ込みを入れては、梶山君と鈴森さんに確認してもらい、時に「ここにこう切れ込みを入れられますか」とアドバイスをもらいながら優しくチョップを叩き込む。


 既に危険対象物の存在は排除しつくしたので矢吹さんも自分の作業を見守り「落ち着け」とか「肩の力を抜け」とか応援してくれる。早乙女さんも「頑張って!」と小声で応援してくれる。


 ルビー(仮)を保護するためルビー(仮)周辺を極端なまでに大きく掘削した結果、ルビー(仮)を中心にまるでかまくらを掘ったかのような見た目になってしまった。作業はとても長い時間に感じたが実のところ30分程度で完了している。恐るべしチョップ掘削能力である。


 とうとうルビー(仮)の裏側まで掘り進んだところ、背後にあれ?と違和感を感じたがそんなことよりも眼前のルビー(仮)の取り出しがあともう一振りというところまできたのでそんな違和感はすぐに吹き飛んだ。


 そうして最後の一振り、いや一チョップをしたところ、見事にルビー(仮)をキズ一つつけることなく取り出せた。取り出したルビー(仮)のその大きさたるや、まるでスイカ並みの大きさだった。そしてその鮮やかに光り輝くクリアーレッドの光沢は、中を覗きこんでも一切の不純物を感じさせない透明度だった。


 そーっと抱きかかえ何重にもタオルを巻いて、慎重に優しく早乙女さんのリュックに納めていった。しっかりリュックの口をしめて後ずさった後でお互いの顔を向き合ったところ感極まって全員で万歳三唱した。


バンザーイ!バンザーイ!バンザーーーーーイ!


 感極まって全員変なテンションになってしまい、皆で一際大声を出してしまったところ違和感を感じていた背後の場所からガラガラと岩が崩れ落ちる音がした・・・

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