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309:牙

 荘園主から思いもよらぬご褒美を沢山もらったたつのすけはホクホク顔で荘園を後にした。


 露店売りが立ち並ぶ集落の米売りのところに行くと、米売りも事情を知らされており、さらに米売りも褒美をもらえたようでたいそう喜んでいて、たつのすけはいつもより多く米をもらって、おまけの干し芋もたんまりもらった。


 ますますたつのすけはホクホク顔で自宅のあばら家ではなく浜辺の小屋へと戻っていった。


 小屋へと入ると幼女がスゥスゥ寝ており、たつのすけがただいまと言う前に目をパッチリあけてクンクンと匂いを嗅いできた。


「良い匂いがする!やっ!それはなんだ!たつのすけ!」

「これかい?これは干し芋だよ!甘くて柔らかくてうんめぇよ!」

「ほしいも!うんめぇほしいも!」

「うん、一緒に食べよう」

「やった!」


 たつのすけと幼女は二人で干し芋を食べた。幼女がうんめぇうんめぇと言って食べる姿を見ているとたつのすけは祖父のことを思い出し、とても嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 たっぷりもらった干し芋だったが、あっという間に食べ尽した。ほとんど幼女が一人で食べ尽した。


「うちゅうさんのおかげで、荘園主様からたくさんご褒美をいただいたよ!米売りからもたくさんお米をもらった!ありがとううちゅうさん!」

「そうか!それはよかったな!」

「うん!」


 たつのすけは今から自分の家に来ないかと幼女に言ったが、幼女が自分は人のいる場所にいってはいけないのだと答えたのでなるほどと納得し、いったん自分は家に戻って褒美をしまってくると言って小屋を後にした。


 たつのすけは自宅に戻り、漁で使う道具などが入った大きな木箱をどけてその下の床をコンコンと叩いて少しづつ浮かしていき、床板が浮いたところで床板をはずし、床下に置いていた木箱を取り出してその中にしまった。

 それから台所にいって鍋をいくつかとお茶碗と箸に貴重な味噌が入った壺と野菜をいくつか持ち、さらに布団を一組出して荷車に乗せて浜の小屋へと引き返した。


「戻ったよ!家から味噌や野菜をもってきたから夕食はもっとうんめぇものを作るよ!」

「もっとうんめぇものか!やった!」


 それから二人は浜辺を散策しながら色々とおしゃべりをして時間を過ごし、夕方前にまた海に入って新鮮な海の幸を獲った。


「これでうんめぇものが作れるのか?」

「うん、今日はご馳走だ!」

「ごちそう?」

「とびきりうんめぇものってことだよ!」

「とびきりうんめぇのか!やったぁ!♪♪♪~!」

「うちゅうさんの声はいい声だなぁ、オイラがご飯を作ってる間にその声で歌っておくれよ」

「わかった!♪♪♪~♪♪♪~」


 たつのすけが米を炊き、鍋の用意をしている間、幼女はまるで管弦楽器のような音色を奏でた。

 夕日が出ているうちに仕込みを終えて、後はゆっくりご飯と鍋が出来上がるのを待つだけとなり、その間二人は刺身やウニをつまんで食べていた。


 たつのすけは荘園主の屋敷の庭にある巨岩を見事真っ二つに割ったときの様は実に見事だったと褒め称え自分もそのときの真似をしてみせると、幼女も自慢げに素振りして見せた。

 どう見ても幼女が手を振り下ろしているだけにしか見えないのに、たつのすけには何か単なる膂力(りょりょく)とは別の力を感じた。

 やはり海神様のお子は違うもんなんだなぁとしきりに感心したが、幼女は少し真面目な顔をして語り始めた。


「うむ、わしは確かに強い。宇宙最強じゃ。しかしあまりにも強すぎる力をわしは持て余してしまった。その余りある強さを試してみたくなってつい本気で大暴れしてしまった。そしたら多くの数えきれない者達に大変な迷惑をかけてしまった」


「・・・大変な、迷惑・・・」

「うむ、ほとんどの生き物を殺してしまったんじゃ・・・生き物だけでなくほとんどの星もぶっ壊してしまったんじゃ・・・」


「わしは強すぎるがゆえに、弱いもののことが分からんかった。今でもあまりよく分からん。だが腹が減るのはとても辛いことを知った。うんめぇものを食べるととても嬉しい気持ちになるのを知った。たつのすけからは優しさというものを知った。弱いものたちはこうしたことをわしよりも沢山多く知っているのだということを知った。わしは強いが何も知らんただの迷惑な厄災だった」


「オイラにはうちゅうさまがとてもそんな恐ろしいものには見えねぇけど・・・」


「うむ、だがこれは事実なのじゃ。とても強い力を持つものはどうしてもこうなってしまうようなのじゃ、わし程に強い者はおらぬがそれでも強い者とははるか昔から己の力にとりこまれてしまうものなのじゃ」


「あっそのような話はオイラも聞いたことがあります。以前は良い人だったのが戦や商売で出世して、強い力や金を手にしてすっかり人が変わっちまったっていう話しです」


「そうじゃ、これはわしのいた宇宙もおぬしらの世でも同じなのじゃ。強すぎる力というのは人を惑わすのじゃ」


「強い力を手にしても変わらぬ者などいるのでしょうか?」

「分からん・・・広い宇宙にはそうした者もおるかもしれん・・・じゃが、どうだろうな・・・」


「そうじゃ!ひとつおぬしで試してみよう」

「えっ!?オイラでですか?」

「うむ」幼女はひとつなぎの着物の懐に手を入れると何やら取り出した。


「それは?」

「これは牙じゃ、おぬしの言う龍神に似た強いヤツの牙じゃ」

「龍神様のですか!」

「そうじゃ、わし程ではなかったがアヤツも相当強かった・・・これをおぬしにやろう」

「えっ!そんな大事なものを?」

「うむ、これも何かの縁じゃ。そしておぬしには世話になった。そのお礼じゃ」


 たつのすけは有難く両手を差し出したが、幼女はそれを手の平の上には置かず、たつのすけにとても近づいて、牙が握られている拳をたつのすけのみぞおちに突き刺した。


「ーーーッ!!!」


 たつのすけは両手を広げて自分の腹の中に幼女の手首から先がズブリと入っているのを見た。

 声も出せない程に驚きはしたが、何故か恐怖することもなければ痛みもなかった。


 幼女が拳をたつのすけの身体から抜き取ると、たつのすけのみぞおちあたりが光り輝いた。

 幼女が突き刺したところは穴も開いていなければ血も出ておらず痛くもかゆくもなかった。

 しかしとても温かく全身に力がみなぎってくる感じがした。


「これでおぬしはここいらではまず敵う者などおらぬほどの力を得た。おぬしはこの力を内に秘めたまま見事死ぬまで変わらぬまま生き抜いてみよ」


「・・・」たつのすけはしばらく黙ってみぞおちのあたりをさすっていたが、やがて目を閉じて何度も深く深呼吸を繰り返した後で、カッと力強く目を開けて幼女の顔をしっかりと見据えて頷いた。


「はい!うちゅうさまの言う通り、この力に負けることなく自分を失うことなく変わることなく生き抜いてみせます!」

「よう言った!たつのすけ!おぬしがその言葉に偽りなく生き抜いたかどうかいつの日かこの目でしかと見てやろうぞ!」

「はい!変わらず生き抜いてみせます!」


 幼女は満足げに頷いた。その顔からは何かを決心したかのようにも見えた。


 その後幼女とたつのすけは炊き立てのご飯に新鮮な魚介と野菜がたっぷり入った味噌汁鍋を二人でたらふく食べた。


 たつのすけの身の上話や漁で起きた様々な出来事を話しながら満天の星空の元、大いに語り尽し食べ尽した。


 そして夜も深くなってきた頃、幼女のお迎えがやって来た・・・

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