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308/460

308:荘園にて

 うちゅうじんと名乗る神の子がたつのすけに「うんめぇさかな、おまえにやる」と言ってくれたが、あまりにも巨大すぎるワニをどうしたものか、たつのすけは途方に暮れそうになったが、そのまま自分と一緒にワニを運んでくれないだろうかと頼んでみることにした。もちろんお礼に他のうんめぇものをご馳走するからと言うのも忘れずに付け加えた。


 神の子は「わかった!」と即答し、そのままワニの腹の下に入って、たつのすけの後について行くと言ってくれた。


 たつのすけは長い縄でワニの口を閉じ、縄がすっぽ抜けないようにエラを通して縄を引っ張って歩き始めた。はたから見たら馬を引いているような恰好で、恐らく1トン近くは重量がありそうな巨大なホオジロザメを引いているように見えた。


 いつも通り湧き水が出る沢を超えて、ポツポツと人家が現われると、巨大なホオジロザメが陸地を歩いている姿を見て大声をあげて腰を抜かす人が出始めた。


 たつのすけは内心でこれはちょっと困ったことになりそうだと思いつつも、ここまで来て引き返すわけにもいかずそのまま露店売りで賑わう集落まで向かって行った。


 当然のことながら事態はたつのすけの想像をはるかにこえる大騒ぎとなった。

 遠くから大声を出して逃げ出す人が続出し、そのうち武装した男たちがたつのすけの前に現れた。


「やい!まて!とまれ!お前の後ろのはなんだ!」

「はい、ワニでございます、もう死んでおります」

「ワニ!ワニだと!?そんなでかいワニがおったのか!」

「はい、このワニは海の神様のお子がお倒しになられました」

「海の神様のお子だと!?」

「はい、私ではこんな大きなワニは倒せませんし、こうしてここまで運ぶことも出来ません」


「う・・・うむ、しかして、そのワニをお前は一体どうするつもりだ!」

「はい、米売りの者のところに運ぶところです。なんでも今日はエライお方が荘園にやってくるとかでとびきりうんめぇ海のものを持っていく約束だったのです」

「なに!荘園だと!?・・・ははぁなるほどそうか、うむ、確かに今日はかような日であるな。うむ、これならばお貴族様もたいそうお喜びになるであろう、よし!荘園まで案内するからついてまいれ!米売りの者には他の者に行かせて伝えておく」

「はい、分かりました!」

「うむ、よろしい」


 こうしてたつのすけは武装した男達の後についていき、生まれて初めて荘園主の屋敷へ行くことになった。


 これまでは露店売りで賑わう集落から眺めるだけで近づくことはなかった大きな屋敷の敷地内にたつのすけは足を踏み入れた。


 屋敷の前にある大きくて頑丈そうな門には武装した大きな大人の男が何人か見張りをしていたが、巨大なワニを見て驚き声を張り上げ腰を抜かすことなく武器を構えた。たつのすけはさすが「さぶろう者」(サムライ、武士のこと)はすごいなと思った。


 たつのすけを連れてきた武装した男が、門の見張りに大笑いしながら事情を説明したところ、見張り達はワニをまざまざと見回して通過を許可した。


 門を通過すると屋敷の庭の方へワニを運んでいくよう武装した男が別の男に指示し、自分は荘園主様に報告に言ってくるといって屋敷の中に入って行った。

 たつのすけは別の男についていき庭へと向かって行った。庭に向かう途中ワニを見た屋敷の使用人達は皆驚き、女中の中には腰を抜かす者もいた。たつのすけを案内していた者はガッハッハと大笑いし、「安心せい!このワニはもう死んでおる!海の神様がお貴族様に献上するためにお退治になられたのだ!」と、大声で説明した。


 そうして庭に到着すると、何人かの使用人が庭にゴザを敷いていた。

「しばし待て」と男が言い、たつのすけは頷いて待った。

「まだ足りぬぞ!」と男が言ったので、使用人達が男の方を見ると「ひゃあ!」と言って巨大なワニ、ホオジロザメを見て飛び上がった。「驚いてないではよう持ってまいれ!」と男がせかすと、すぐに使用人達は返事をしてゴザを取りに行った。


「これは期待できるぞ、荘園主様もお貴族様もさぞや驚かれ、お喜びになることだろう」男は言った。


 追加して持ってこられたゴザが敷かれワニがその上に置かれた。


「しかして異なことに、これはどうやって運んでおるのだ?死んでいるワニが地の上を歩いておるように見える、足など生えておらんのに」


 するとワニの腹の下から小さな老婆が出てきた。白髪と言うよりは見事な銀髪で、見たこともない着物を着ていた。髪の毛が顔の前にかかっており、表情はまったく伺い知ることが出来なかった。


「うわっ!なんだこの老婆は!・・・うん?いや、老婆か?幼子か?」


「皆の者控えい!荘園主様とお貴族様のおなりなるぞ!」


 屋敷の渡り廊下から大声がして、振り返ってみると身なりが平民とは明らかに違う人物と付き従う者達がやってきた。

 男は平服し、たつのすけはその場に跪いた。


「うほぉ!これはまた大きなワニじゃのう!」

「ひゃぁこれはまた異なもの!かようなものは都では見たこともない!これがワニというものでおじゃるか!」

「ははっ、左様でござる!それにしてもこれほどまでに大きなワニは滅多に見られませぬぞ!」

「こちらのワニは本日のお貴族様招来のため、海の神がお退治あそばされたもので御座いまする!」

「なんと!左様でおじゃるか!?」

「ははっ!この者が仔細を説明いたしまする!」


「そこの者!説明いたせ!」

「はっ!はいっ!」


「私めはこの近くの浜で漁師をしておりますたつのすけと申します、本日、お貴族様へ献上する海の物を獲りに行こうとしましたところ、こちらのうちゅ・・・なんとやらと申さられる海の神様のお子がおられました、お腹を空かしている様子でしたので、私の食べ物や魚をお食べさしあげましたところ、お礼にこちらのワニを退治していただきました」


「なんと海神様のお子とな!」

「はい、こちらの方がそうであります」

「♪ー♪♪ー♪♪♪♪!!」

「・・・ッ!?なんという綺麗な音色じゃ!それが海神様の声でおじゃるか!」

「♪♪♪~♪♪~~~♪♪♪♪♪!!」

「おお!なんと素晴らしい!およそ人の口からは発することは出来ない音ですな!」(荘園主)


「海神様のお子よ、このような見事なワニをいかようにして倒されたのでおじゃるか?」

「・・・♪・・・♪~・・・!」


 幼女は庭にあった大きく見事な巨岩を見つけ、その前に立って右手を高らかに掲げ、何をするのかと静かに見守っている者達の前で腕を振り下ろした。


 ビシィッ!!という音とともに巨岩は見事に真っ二つに割れた。


 その場にいた全員が目を丸くして驚いた。武装した男達は空いた口がふさがらず呆然と立ち尽くし、今この光景をどう解釈すれば良いのか理解不能で思考停止になりかけた。


「ホッホッホッ!これは見事でおじゃる!あっぱれでおじゃる!さすが海神様のお子でおじゃる!」貴族が大喜びで庭に出てきて、巨岩の様子を間近で見た。そこでようやく我に返った武装した男達は慌てて貴族の後に付き従った。


 幼女はたつのすけに近付き耳元でひそひそと話しをした後、貴族に向かって一礼し、物凄いジャンプで塀を飛び越えてそのまま消え去ってしまった。


 またしてもその場にいた全員が驚愕して立ちすくんでいたところ、たつのすけが「失礼ながら申し上げます。神のお子は人前に姿を出すのは禁じられているとのこと。それが見つかると龍神様にきつく叱られるとのことで、これにて失礼すると申されておりました」


「左様でおじゃるか!そうかそうか、海神様のお子ともあればさもありなん。しかしてさすが神のお子よ!このワニとやらといい、巨岩を素手でこんなにも見事に真っ二つにすることといい、今見せた飛び上がりといい、およそヒトのなせる業ではないでおじゃる!今日は実に良きものを見せてもらった!」


「そこの者、名をなんと申した!」(荘園主)

「ははっ!たつのすけと申します」

「ふむ、たつのすけ、あっぱれであったぞ!褒美をとらす!」(荘園主)

「ははぁーっ!」


 こうしてたつのすけは予想外のことが立て続けに起きて、予想以上の褒美を持ち帰ることになったのであった。

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