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307:神の子

 大きなマアジとカレイを丸々刺身にしてまな板の上に山盛りにしたにも関わらず、幼女はあっという間に全てペロリと食べ尽した。


 それどころかまだ食べ足りないらしく、海の方に向かって走り出していた。

 たつのすけも慌てて追いかけたが幼女の足はとんでもなく速く、止める間もなく声を出す間もなく凄まじい水しぶきを上げて水の中に入っていた。


 たつのすけが水の中を見ると幼女は既に遥か遠くをまるで魚のように縦横無尽に泳いでおり、たつのすけの背丈ほどもあるシイラを追いかけて尻尾を掴み、暴れまわるシイラをものともせず浜の方へと泳いで戻って来た。どう見ても幼女の体の2倍はありそうなシイラの方が力は強く、幼女はそのままシイラに引っ張られて沖の方に連れていかれるはずなのだがそれとは真逆の事が起きていた。


 幼女が戻ってくるのでたつのすけも浜の方へ引き返し二人で海から出た。海から出るとシイラが大暴れするので頭を叩いてシメなければだめだとたつのすけが言うと幼女はたつのすけにシイラを押し付けてきたのでたつのすけがなんとかして抱えると、幼女は手のひらの側面でシイラの頭を叩いて一撃で即死させた。


「うわっ!すごいちからだ!どうやったらそんなふうに出来るんだ?」


 幼女は胸を張ってドヤ顔をし、たつのすけの前で何度か今の技を素振りしてみせた。

 その時になってようやく幼女の顔がはっきりと見ることが出来た。

 それはとても同じ人間とは思えない程に美しく整った顔立ちで、そんな人間など生まれてこのかた一度たりとて見たことがなかった。


 シイラの色がみるみる変色していくのでたつのすけは我に返り、すぐにタライまで持っていき綺麗によく洗ってからさばきはじめた。シイラは鮮度が落ちるのが早く、体の表面には腸炎ビブリオ菌を持っている可能性があるのでよく洗う必要があるが、その場ですぐにさばいて食べれば柔らかい身で赤身の中にほのかに甘味を感じる旨味を持つ脂身も混じっているので非常に美味であった。


 たつのすけが大きなシイラを慣れた手つきでどんどんさばいていく様子を幼女はガン見し続け、無意識に両手を同じように動かしてトレースしていた。

 さばいたそばから別の板にのせていき、美味しいうちにはやく食べてと幼女に言った。

 少しキョトンとしているのでたつのすけは自分でひときれ食べてみせて、幼女にもどんどん食べるように身振り手振りで伝えたところ幼女は頷いて、刺身をわしづかみにして豪快に海水に浸けて食べた。


「うんめぇー!」と幼女は言って、どんどん食べ続けるので、たつのすけもどんどん大忙しでさばいていった。

 結局幼女の倍以上もありそうな大きいシイラをほとんど丸々幼女が一人で食べ尽した。

 幼女の腹はまるで妊婦のように膨れ上がり、たつのすけは「そんなに食べて大丈夫?お腹こわさなければいいけど・・・」と心配したが、幼女は満面の笑みを浮かべて「うんめぇ、うんめぇ」と繰り返し言った。


 幼女の空腹も満たされて満足した様子になったので、たつのすけはようやく幼女に話しかけた。


「きみはどこからきたの?」

「???」


「ええと・・・」たつのすけは自分を指さして「たつのすけ」と何度も言った。


「タ・・・タスケテ?」

「たつのすけ」

「タ・・・タスノケテ?」

「たつのすけ」

「タ・・・タツノスケ」

「そう!たすけて!じゃない、たつのすけ!」


 ある意味幼女の空腹を助けてあげたことにはなるが、とりあえず自分の名前が相手に伝わったことが分かったので、たつのすけは幼女に指をさした。


 幼女は口を開いて「♪ー♪♪ー♪♪♪♪」という音を発した。


「うわ!すごい!どうやったらそんな音が出るんだ

!?」

「♪ー♪♪ー♪♪♪♪」

「えっと・・・フゥーフフーフフフフ?」

「・・・!!、♪ー♪♪ー♪♪♪♪!!」

「ルゥールルゥールルルル?」


 幼女は嬉しそうに手を叩いて喜んだ。とりあえず及第点はもらえたようだった。


 たつのすけはどうやらどこか遠い国からやってきたのだろうと納得することにした。実はそれどころか海の神様の子供なんじゃないかとすら思いはじめていた。


 次に今食べた魚の名前を教えさらにその前に食べた魚の頭を見せてそれらの名前を教えた。

 それから自分の船を指さしたり網や銛を見せては言葉を教えた。

 幼女はさいしょのたつのすけという単語を口にするのは少しだけ苦労したがその後はどんどん上手に発音していった。

 そのうち主語や動詞を理解したらしく、カタコトの言葉を使ってたつのすけとコミュニケーションをとりはじめた。


「きみおりこうなんだね!すごいや!」

「おりこう?」

「うん、頭が・・・いい!ってこと!」たつのすけは自分の頭を指さして何故かそこで二の腕に力こぶを作ってみせた。それではまるで脳筋と言っているようなものだが・・・


「おっと、いけね!今日の分の漁をしなきゃ!困ったな・・・もうだいぶ明けちまった」

「どうした、たつのすけ」

「うん、米屋のおじさんにうめぇ魚を沢山とってくるって約束してたんだ。今日はエライお方が荘園にやってくるんで、ご馳走を用意しないといけないんだって・・・」

「???・・・うんめぇ、さかな、たくさん、ほしい?」

「そう、うめぇ魚を獲らねぇと・・・」

「わかった!」


 幼女はすくっと立ち上がりまたしても海の方へ猛スピードで走りだした。

 たつのすけはまたしても大慌てで幼女を追いかけた。

 幼女はお腹いっぱいになってさらに元気になったせいか今度はまるで追いつかず、たつのすけが海に入って幼女の姿を見つけようとしたが遥か彼方の沖合にまで出ていったようでほとんど見えなかった。


 たつのすけは今度こそこれは龍神様か何かに違いないと思い追いかけるのをやめて、そこらにあった貝を幾つか獲って浜に戻っていった。

 浜に戻ったたつのすけは約束までの短い時間内でせめて貝やエビやタコでも獲ろうかと思い小舟を押し始めた。

 間もなく小舟が着水するかといったところで、こちらに向かって大きな背びれが近づいてくるのが見えた。まだ遠い距離なのにハッキリ分かるほどに大きく、しかもたつのすけの全身がすぐに緊急警報を鳴らす程に危険なものであることが分かった。


「ワニだ!それもかなりデカイ!コレはいけない!皆に知らせないと!・・・あっ、いや!それよりもあの子が!!ってうわぁぁぁぁ!!」


 ワニはどんどんたつのすけに近付いてきて、本来はこれ以上は浅瀬過ぎて近づいてこれないはずなのにそれでもどんどんたつのすけに近づいてきた。たつのすけはまだ砂浜の上にいるから完全に安全なのだがワニはまだ止まることなく近づいてきて、とうとう砂浜に上陸してきた。


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 声をあげたのは女の子の声ではなく、たつのすけの声だった。

 それでも小舟から銛を取り出し構えたのは立派だった。


 ワニはたつのすけの目の前で停止し、大きな口を開けてたつのすけなどひとくちで食べてしまいそうな勢いだったが、ワニは鼻を上にあげて天を見上げるように反り返った。

 するとワニのアゴの下からモゾモゾと何かが這い出てきて「たつのすけ、うんめぇ、さかな、とってきた」と言って出てきた。


 出てきたのは美しい銀髪の美しい幼女だった。


「龍神様だ・・・あなた様は龍神様のお子だ」


「ちがうぞ、わしは♪ー♪♪ー♪♪♪♪っていううちゅうじんだ、りゅうは・・・にがてだ・・・」


「う?うちゅうじん?龍神様は苦手?」


「そう!わしはうちゅうじんだ、こことはべつのうちゅうから、にげ・・・いや、あそびにきた」


 たつのすけには宇宙という単語は分からず、うちゅうという神の国から遊びにやってきた龍神様が苦手な神の子だと理解することにした。

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