302:実家
ほとんど全てさいごのひとロボ任せのこれまでの活動報告を終えて大会議場を退出すると、時刻は夕方6時になろうとしていたので、夕食をとろうということになった
そこでふと冴内はあることを思い出し「今日は僕の実家に泊まらない?ちょっと実家に用事があるんだ」と言った。
「さんせい!」(美)
「賛成よ!」(優)
「私も賛成!」(良)
「ぼくも!」(初)
「えっと・・・」(グ)
「もちろんグドゥルも一緒にいいかい?」
「はい!」
ちなみに花子小隊は今もまだ惑星グドゥルにて絶賛復興支援ご奉仕活動中である。
冴内は早速実家に電話して今から皆でそっちに泊まりに行っていいかと聞いたところ、母が絶叫して喜んだので思わず鼓膜が破れるかと思った。
しばらくサイレンのようなけたたましさが続いたが、とりあえずOKっぽいので早速冴内達は冴内の実家へと行くことにした。
その時冴内が「皆僕と手を繋いで輪になってくれるかい?」と言ったので、美衣が「お母ちゃんのワープで行くのか?」と確認したところ「いや、僕も瞬間移動が出来るようになったみたいだから試してみたいんだ」と答えた。
「えっ!洋いつの間にワープ出来るようになったの?」
「なんか昨日の夜夢に宇宙が出てきて、3っつの宇宙のどこにでも瞬間移動出来るご褒美をくれたんだ」
「えっ!お父さん3っつの宇宙のどこにでも移動出来るの!?」(良)
「うん、そうみたい。だから試してみたいんだ」
「父ちゃんすごいな!ゲート要らずだ!」(美)
「うん、これで初とグドゥルの星にもおとめぼしにもりゅう君達の星にも僕の実家にもいつでもすぐに移動出来るよ」
「やった!いつかお父ちゃんとお別れする日が来るのかなって心配していたけど、もうその心配をしなくていいんだ!」(初)
「そうだよ!いつでもすぐに行けるからずっと一緒だよ」
「わぁーーー!」初は冴内に飛びついて抱き着いてほっぺたをくっつけて喜んだ。
全員大いに喜んではいたが、冴内が瞬間移動に失敗して地球の内部コアに移動してマグマで全員ドロドロに溶けるとか田舎の家の浄化水槽に現れて汚物まみれになるなどという心配は全くしなかった。
まぁマグマ程度で溶けて死ぬようなメンバーは誰一人いないわけではあるが。
それ以前にいきなり練習も無しで試験運用に愛する家族を巻き込んでテストする冴内もいくら冴えないヤツだからとはいえ、抜けているにも程がある始末だった。こうしたところはやはり死ぬまで永遠に未来永劫変わらないであろう。
ともあれ、全員冴内と手を繋いでリング状になると冴内が「ごめん皆もう少し小さくくっついてくれる?僕の部屋そんなに大きくないんだ」と言ったので、皆嬉しそうな顔でピッタリくっついてとても小さな輪になった。
「うん、これなら大丈夫。それじゃ行くよ!ワー」
ワープと言いたかった冴内だったが言い終わる前にゼロコンマ以後のゼロが大量に並ぶ程の短時間で冴内の部屋の中に移動終了した。
「しまった!」
開口一番冴内は声を上げた。やはりいきなり初めての瞬間移動で致命的なミスをしてしまったのだろうか。
「土足のまま部屋に来ちゃった!ごめん皆すぐに靴を脱いでくれるかい?」
・・・いつもの冴えない冴内だった。
とりあえず全員靴を脱いで美衣の宇宙ポケットの中に放り込んだ。初とグドゥルは特殊能力で靴を消した。恐らく分子レベルに還元したのだろう。
「わっ!これが父ちゃんの部屋か!」(美)
「洋の部屋久しぶり!」(優)
「わぁ!お父さんのお部屋!」(良)
「これがお父ちゃんのおうち!」(初)
「お・・・お邪魔します」(グ)
「クンカクンカ・・・あぁこのマクラお父ちゃんのオイニーがする」(美)
「私にも!」(優)
「私も!」(良)
「ボクも!」(初)
「わ・・・わたしも」(グ)
「えっ?いくらなんでも洗濯してると思うけど」
「いや、マクラカバーの洗剤の匂いとは別にしっかり本体に残っているのだ」(美)
お前はどこの猟犬だと突っ込みたくなる美衣だったが、実際それくらいの嗅覚はありそうだった。
そんな2階の騒がしい様子に気付いた冴内の母がやってきて「洋かい?優さんのわーぷで戻って来たのかい?」と言って階段を上がってきたので、美衣達は冴内の部屋のドアをあけて「おばあちゃんただいま!」と言って元気な姿を見せた。
冴内の母は腰を抜かして階段から転げ落ちることもなく、それどころか2段飛びで階段を駆けあがって美衣達を抱きしめた。最近は階段の上り下りが億劫になったなどと漏らすようになっていたが、そんなものどこ吹く風と言わんばかりの脚力だった。やはり愛の力は偉大なパワーの源なのだ。
「アンタが急に来ると言うから何の用意もしてないのよ、晩御飯どうしようかしら、何か出前でも取る?」と冴内の母は言ったがすぐに美衣が「アタイが作る!最高の料理をおばあちゃんとおじいちゃんに食べてもらいたい!」と言い、良子も初も自分も手伝うと言ったので、冴内の母はまたしても涙腺崩壊ダム決壊になりかけた。
美衣達は小さなキッチンのある戦場へと向かって行き冴内達はリビングへと移動した。
冴内が父親に連絡すると今から電車に乗ろうかタクシーに乗ろうかどっちが早いか悩んでいると言ってきたので、今から瞬間移動で迎えに行くからどこか近くの誰にも見られない場所に移動してくれる?と言うと、父親は疑問に感じつつも冴内の指示に従い人の目につかない場所に移動した。
そこがどこなのか一言も発していないのに突然冴内の父親の目の前に冴内が現れて一瞬で自宅の玄関に到着した。
「うわっ!なんだ洋、お前も優さんのわーぷを使えるのか?」
「うん、こないだ宇宙からご褒美にもらったんだ」
「???・・・そうか・・・良かったな」
確実に良く分かってない様子の答えだったが、この辺りが実に冴内家の血筋らしい。
「ところでどうした洋、つい昨日会ったばかりだが何かあったのか?」
「そう、実はちょっと聞きたいというか調べたいことがあって来たんだ」
玄関廊下を歩きながら話してリビングに到着すると、妻と優とグドゥルが座って話しをしており、奥にあるキッチンでは美衣達が真剣に料理を作っていた。その様子を見ただけで冴内の父は幸福と喜びで顔を歪ませて今にも泣き出しそうだった。
「あっ!じいちゃんおかえり!今美味しい料理を作ってるから楽しみにしていてね!」(美)
「おじいさんおかえりなさい!晩御飯楽しみにしててね!」(良)
「おじいちゃんボクが獲ってきた恐竜食べてね!」
「きょうりゅう食べる!食べるよ!じいじは何でも食べるよ!」
冴内の父は例えそれが猛毒の食べ物だろうが毛虫の活け造りだろうが何でも大喜びで食べてしまいそうな勢いだった。
とりあえず冴内の父はスーツを脱いで部屋着に着替えて戻ってきてソファーに腰かけるとあらためて冴内に「さっきは何を調べたいって言いかけたんだ?」と問いただした。
「うん、実はうちの家系というか、ご先祖様について知りたくなったんだ」
「ご先祖様かい?」
「うん、どうも僕の能力というか、僕が宇宙の存在に選ばれたのにはうちの家系によるものかもしれないんだ」
「えっ?ウチの家系にかい?いや~それはないんじゃないか?こう言っちゃご先祖様に怒られるかもしれないけど代々ウチの祖先にそんな才能を持った人物なんていなかったよ」
「う~ん・・・でも冴内って珍しい苗字だよね、だから昔に何かあったのかなと思ってさ」
「さぁ私にもあまり昔のことは分からないなぁ、島根の家に行けば何か残ってるかも知れないけど」
「島根ってお爺さんの家か・・・懐かしいなぁ、よし!今度行ってみよう、確か今は叔父さんが住んでるんだよね」
「うん、後で連絡してあげるよ」
「ありがとう」
「みんなおまたせ!ごはんが出来たよ!」
こうして冴内は久しぶりの実家にて夕食をとることになった。