301:お馴染みの行動パターン
またしてもトンデモ能力を手に入れた冴内であったが、それを説明するヒマも披露するヒマもなく朝から大忙しのスケジュールだった。
朝はかなりの早い時間から第3農業地の人達がやってきて精米したての米を大量に持ってきたので、美衣は狂喜乱舞のごとく大喜びし、同じく米以外に持ってきてくれた納豆や干し魚や干し沢庵などの食材と合わせて朝からはりきって朝食を作った。
第3農業地の人々も是非とも味わって欲しいということで、自分達が丹精込めて育て上げた米や食材が宇宙一の腕を持つ料理人である美衣によって作られた料理に涙を流す程感激し、それ以外にも食堂の料理人ですら美衣の手作り和食料理を口にしてその飛び抜けた素晴らしさにその道の極みを垣間見て感激の涙を流していた。他にも多くの者達がその日限りの特別な朝食で脳の中の何かが目覚め開眼したかのような衝撃的な味覚を味わうことになった。
その後日本を代表するゲート機関局長神代が直々にまたしても開店前の時間帯だけいつものアパレルチェーン店を貸し切る契約をゲットし、送迎バスをチャーターして冴内ファミリー御一行様を送り迎えした。
冴内は相変わらず冴えないままだったので、新たに手にした能力で全員瞬間移動すればいいという考えはその場の雰囲気に飲まれて全く思い浮かばなかった。それほど冴内の両親と二人の姉と今回もちゃっかり付いてきている良野、吉田、木下、旧姓早乙女を含めた全員のテンションがMAXだった。
それに大きなバスがやってきてあれに乗るのだと言われて、初がまさにその見た目の年齢どおりにグドゥルと一緒に大喜びしたので、瞬間移動などという無粋な移動手段を用いない方が正解だった。恐らく優もその辺りを察して黙っていたかもしれない。
初は初めて乗るバスでゆっくりと冴内の生まれ故郷の日本を富士山を見ながら移動するのをグドゥルと一緒にとても楽しんだ。そんな二人と相変らず可愛すぎる美衣と良子の二人をまさに眼福といった感じで幸せそうに眺めている両親達も大いに幸せなひと時を送っていた。単なる移動よりも大切なひとときを味わうゆっくりした移動というのもあるのだ。
午前中しか初とグドゥル、美衣や良子を愛でることが出来ないので、冴内の両親や二人の姉にその子供達はとても大事に与えられた時間を過ごした。
ほんのささやかなひとときであるし、日本中いたるどころにあるアパレルチェーン店で服を揃えるだけのささやかな出来事ではあるのだが、結局はどういう人とどういう時を過ごすのか、心の有り方次第でどんな場所でどんなことをしていようとも十分幸せなひとときというのは送れるものだった。
とはいえこれからは冴内がいればたとえ3っつの宇宙をまたいで極めて遠い場所にいようともすぐにどこにでも瞬時に駆け付けることが出来るので、いつでもこうした時間を作れそうだった。そうはいっても今や宇宙中に存在が知れ渡っている人物達なので結構な制約はありそうだったが。
ともあれ、ランチの時間も含めて冴内の両親と二人の姉とその子供達は十分初達との交流を楽しんだので、なんとか納得してまたの再会を約束して優の瞬間移動で帰っていった。ちなみにこの時も冴内はタイミングを逃して、というよりは完全に忘れて自分の新たな能力で送ることが出来なかった。
冴内の頭の中は午後から大会議室でこれまでの別宇宙での活動報告のことでいっぱいだった。
結局さいごのひとロボに連絡をする間もなく、大会議室での報告会の時間になり冴内の額には汗が浮かんだが、その時さいごのひとロボが合流してきて冴内の顔は誰が見てもホッと安堵しているように見えた。
そうして最強の助っ人を加えて冴内達は久しぶりの富士山麓ゲート前研修センター大会議室に入室していった。
もう最初からさいごのひとロボ様様といった具合で、導入から見事な報告ぶりでいつ撮ったのか分からない程にその時の色んな記録映像を交えて、簡潔に分かりやすく説明していった。
そして別の宇宙にきてから最初に訪れた星、命名さいしょのほしに到着したときの報告をした際に、初の自己紹介が始まった。
初は自分が星であることを分かりやすく証明するために瞬時に形を変えて人間の姿から小さな星の姿へ変化した。これは冴内も始めて見たもので少し大きな地球儀のようだった。
宙に浮かんだ丸い星の状態の初がそのまま話しを続けるとしゃべる時に少しだけ膨らんだりしぼんだりしてなんだかコミカルで可愛かった。
その後宇宙連盟の先遣隊3人との出会いと、惑星グドゥルのわずかな生き残りの人達との出会いの説明に至り、グドゥルの紹介が始まった。
さいごのひとロボがグドゥルに初めて会った時の君の姿を映しても良いかと尋ねると、グドゥルからは「これから以前の酷い姿の私が映し出されますがそれを見て皆様が気分を害されるかもしれません。それでもよろしいでしょうか?」と地球の各国代表ゲート局長達に尋ねた。
当然世界各国のゲート局長は誰一人として見たくないなどと答えるものはなく「グドゥルさんには辛いことかもしれませんが是非とも拝見させて下さい」と、真摯な答えが帰ってきた。
そこでグドゥルは頷き、さいごのひとロボが最初に出会ったときのグドゥルの姿をありのまま投影した。
局長達は誰も目を逸らすことなくしっかりとグドゥルの姿を見た。
そしてその後冴内がまたしてもおよそ人間とは思えないことに虹色の飴細工のような人型のフォルムで現れて初とグドゥルと手を繋いで巨大な虹色の金魚すくいのようなリング形状になった映像が映し出された。
局長達にとっては虹色のフォルムになった冴内の姿の映像の方がインパクトがあった。人によってはかなりグロテスクな映像に見えたかもしれない。
その後惑星グドゥル全てを覆い包んだ冴内の虹色粒子が映し出され、その美しさと優しさと温かさに多くの局長達は涙を流し、それまで灰色の滅びの星グドゥルが美しい緑豊かな星へと生まれ変わっていく姿を見て全員スタンディングオベーションで拍手をした。
場内が落ち着いた後で、次に惑星グドゥルの文明を崩壊させた張本人である極悪AIに関する説明が始まり、世界各国のゲート局長達はとても真剣な顔で聞き入り、報告会終了後は直ちに世界各国の要人達とこれからのAIについて地球規模で話し合う必要があると深く心に刻み込んだ。
それから惑星グドゥルとその周辺衛星にてかろうじて生き残っていた人達の救助活動が映し出され、その中で3っつ目の衛星で救出されてきたのがほとんど子供ばかりだったという映像を見た局長達は強く胸を打たれてしまいオイオイ泣き出す者までいた。
しかしそうした救助活動の後、笑顔を取り戻す人々や復興活動に頑張る人々を見て局長達は心が洗われる気分になった。
並行前後して宇宙連盟の人々も紹介され、今の地球上でもなかなか見ることのできない実に立派で恰幅の良い人物、宇宙連盟司令長官ゴスターグ・バリディエンシェが紹介されると、局長達のごく数名からこの方にウチの国の首相になってもらいものだと小声でつぶやかれる程だった。
そして最後に今回冴内が別の宇宙に飛ばされた最大の要因であるイリィーティアの件の報告へと移り、数百万年前に起きた事故の被害者、さいごのひとの祖先のげんしょのひとの祖先にあたるイリィーティアの救出が出来て本当に良かったと言って締めくくった。
こうしておよそ5時間に渡るさいごのひとロボによるとても分かりやすい説明のおかげで、このひと月以上の出来事はほぼ完璧に世界各国のゲート局長の知る所となったのであった。
まさに冴内は心の中でさいごのひとロボを拝む気持ちで一杯だった。