297:張本人
惑星フォルの中央都市にある宇宙連盟本部ビル最上階の大会議場にて現在懸命な捜査活動を行っていた捜査班達は、大会議場最前面の壁にある巨大スクリーンの中央部から突然映像が表示されたので驚いた。
そしてその映像が少しづつ上から下に現れてくるにしたがって画面中央に美しいフォルムの女性型ロボットがいるのが分かり、さらに映像が広がるにつれてその背景に大勢の人々が映っているのが分かり、さらによく見るとどうやら現在行方不明の宇宙連盟の重鎮たちの正装を着ている人々が映っているのも分かった。
捜査班達は腰を抜かすほどに驚き、これ以上ない程に仰天した顔で声も出せずに口に手を当て映像の方に指をさしていた。
捜査班ではなく警備隊員と思われる人物が我に返って緊急事態を知らせた。
直ちに警備隊員と重装備の警備兵が入ってきて、大型スクリーンに映し出された映像の前に整然と並び最前列の重装備の警備兵は盾を構えた。
すると美しいフォルムの女性型ロボットの横にいるとても体格の良い恰幅の良い人物がとても良く通るバリトンの利いた声で大笑いしている声が聞こえてきた。
彼等警備隊員達も良く知る声、自分達の所属する組織の長、それはまさに宇宙連盟総司令長官ゴスターグ・バリディエンシェその人だった。
ゴスターグの足元まで完全に映し出されて、四角い映像の枠が完成すると、その映像の奥に映っている人達がこちらに向かって歩き出してきた。
先頭を威風堂々と歩いてくるのが総司令長官そっくりというかその人そのものだったので、警備隊員達もどうしたら良いのか困惑し、互いの顔を見合っていたが、ゴスターグが大きな声で「心配するな!私は本物のゴスターグ・バリディエンシェである!諸君らは警戒を解いてよい!今から戻る!」と言ったので、最前列で盾を構えていた警備兵達は警戒を解き映像の前で道をあけて整列した。見ようによっては映画のスクリーンの前で整列するという面白い光景だった。
映像に映るゴスターグはどんどん近づいて、まさにその姿は映像ではなく本物だと分かる程に鮮明であり、やがてその姿はそのまま映像の中から飛び出してきた。
警備隊員達は一言も発することが出来ず、身動き一つ出来ずにそのまま呆然と見続けることしか出来なかった。
そして完全にゴスターグがスクリーンの中から出てきて、最前列で整列している重装備の警備兵に近づくと防御マスクの奥に映る仰天した驚きの表情を見て、またしてもゴスターグは大きく盛大に大笑いした。
続いてとても美しいフォルムの女性型ロボット、さらに続いて見覚えのある宇宙連盟の重鎮達、そしてもっと見慣れたほのかに憧れと恋心を抱く彼らの美しき女性隊長の姿と同僚達も続々と続いてスクリーンの中から現れてきた。
スクリーンの中からはどんどんと行方不明だった宇宙連盟の人達が出てきて大会議場は警備隊員と捜査班達も含めて満杯になった。
冴内達もイリィーティアが作ったゲートを通過して大会議場に戻ろうとしたのだが、冴内が突然歩みを止めてゲートとは真逆の方向に身体を向けた。
「・・・?どうしたの洋?」
「・・・」
「・・・お父さん?」
「宇宙が・・・呼んでる気がする・・・ちょっと行ってくる・・・」
そう言った途端冴内はまるで電池の切れたおもちゃのロボットのように脱力した。
「「 ・・・ッ!!」」
腕を組んでいた優と手を繋いでいた良子が冴内を支えて、冴内の顔を見ると目はうつろで焦点があっておらずまるで魂の抜け殻のような無表情だった。
冴内は以前、第138話「スーパーヒューマンvsスーパー冴内」の回で地球に戻り吉野熊野国立公園内で滝に打たれながら瞑想修行した時のことを思い出した。冴内はその時初めて宇宙の意思と対話を行ったのだ。
冴内はその時と全く同じ漆黒の闇の中にいた。そしてその漆黒の闇の中で小さく渦巻く沢山の銀河を見た。ここにも沢山の銀河があり、銀河の中で生れ出る星々、消えていく星々を感じ取り、まるで初のような星を感じたり、生まれ変わる前のグドゥルのような星もあって、またしても冴内はそれらをとても愛おしく感じて涙が溢れ出た。
「やさしいひと、でもとてもつよいちからをもっているひと、こんにちは、冴内 洋」
「こんにちは宇宙さん、僕等をこの宇宙に連れてきたのはあなたですか?」
「うん、僕とイリィーティア・ロエデランデが元いた宇宙の二人で君をここに連れてきた。イリィーティアの強い想いが君をここに連れてきたといってもいいかな」
「惑星グドゥルにいる人達を僕に救助させるためというのもありましたか?」
「いや、そこまでは僕も分からなかった。イリィーティアは宇宙の割れ目に引っかかっていたから、僕にも彼女の長年の思念をかすかに感じ取ることが出来たんだ。でも君は本当にすごいね、もう一人の宇宙が君を絶賛していた理由が分かったよ。イリィーティアだけでなく惑星グドゥルにいる多くの人達と惑星グドゥル自身も救ってしまうんだから。さすが全宇宙の愛の使者だね」
「僕一人の力では出来ないですし、僕は宇宙から力を借りているだけですが、それでも僕に出来ることがあってそれで宇宙にいる皆が・・・」
その後も会話は続いたのだが、言葉を交えての会話はそこまでで、その後は冴内の思念と宇宙の思念との交流が続いた。
異変に気が付いたさいごのひとロボ2号機とゴスターグに命じられた女性隊長が駆け付けてくると、優と良子が両サイドで支えているグッタリした冴内の前で人の形をした漆黒の闇が手を振っていた。
その漆黒の闇の人型のシルエットの中身は小さく渦を巻いた煌めく銀河が無数にあり、それを見た者達は全員それが宇宙の意思だと思った。
その漆黒の闇が徐々に薄れていき、透明になって消え去ると冴内の意識は戻った。
「宇宙と対話してきたの?洋」
「うん、こっちの宇宙と話しをしてきたよ。僕等をこの宇宙に呼んだのはこっちの宇宙とここに来る前にいた宇宙の二人だったみたい」
「冴内 洋、それはイリィーティア・ロエデランデを救出するためか?」
「そうだよ。ずっと宇宙の割れ目にいたからこっちの宇宙はかすかに彼女の思いを感じていたんだって。そして僕らが元居た宇宙が僕ならなんとかするかもしれないってこっちの宇宙に推薦したみたいで、それで二人がかりで僕等をこっちの宇宙に連れてきたみたい」
「なっ・・・フゥ・・・そうか。冴内 洋、やはり君は全宇宙の愛の使者なのだな。宇宙の意思が君を動かしているのだな」
とらえようによっては結局冴内は宇宙の使いっパシリだと言っているような発言だった。
「うん、でも僕もここへ来てとても良かったと思ってるよ。イリィーティアさんの願いも叶えられそうだし、ソティラさん達の願いも、グドゥルの願いも叶えられそうでホントに良かった。そして初に出会えたことも、この宇宙の多くの人達に出会えたことも本当に良かったと思ってる」
「私もよ!洋!」
「うん!私も良かったと思うよ!お父さん!」
「ああ・・・冴内 洋・・・私も同感だ。本当に、生きることの素晴らしさを今一度見出した気分だ」
「そうだ、こっちの宇宙と元の宇宙をゲートでつないでくれるって言っていたよ。後何かお礼をくれるとも言っていた」
「良かったわね洋!これでりゅう君達の結婚式に間に合いそうね!」
「こっちの宇宙と元の宇宙が繋がれば初とお別れしなくても良くなるね、お父さん!」
「そうか!やった!それは良かった!結局こっちにきて何もかも全部良い事ばかりだったね!」
「ほんとね!」
「ほんとだね!」
こうして、冴内達をほぼ無理矢理こちらの宇宙に連れてきた張本人は、こっちの宇宙と元居た宇宙だったということが明らかになり、二人からは謝罪はなかったが元居た宇宙とつなぐゲートと何かのお礼をもらうことになったのであった。