295:宇宙の割れ目
冴内達が連れてこられた何もかもが真っ白い世界の真っ白い空に浮かぶ真っ白い巨大な口の正体が、さいごのひとの祖先のげんしょのひとのさらに祖先の人物である可能性があるということで冴内は大いに驚いた。
げんしょのひとの祖先達が、かつての惑星間戦争で破壊された星を再生させるべく研究開発プロジェクトを開始したのは数百万年前のことであった。
今冴内達の頭上に現れた巨大な真っ白い口はその時の事故で行方不明になった研究職員の思念体であるかもしれなかったのだ。
「しかしそれを証明するための肝心な記憶データが今この場にはないのだ・・・」と、さいごのひとロボ2号機がロボなのにどこか悔しそうな感情のこもった様子で残念がったのだが、ここでなんと冴内達はさいごのひとロボ2号機が驚くべき発言をした。
「えーと、君は宇宙イナゴって知ってる?あと龍族のグワァーオーゥゥさんとか」
「私は♪ー♪♪ー♪♪♪♪人よ!知ってる?」
「大闘技大会って知ってる?私のお父さんも出場して優勝したんだよ!」
『うちゅういなご・・・りゅうぞくのぐわぁーおーぅぅ・・・んーんんーんんんんじん、だいとうぎたいかい・・・ああ・・・おもいだした・・・なつかしい・・・とてもなつかしい・・・』
「・・・!!」さいごのひとロボ2号機は冴内達のこの閃きと発想にまさに目からウロコが落ちる思いであった。
「私は君の末裔だ!そしてここにいる冴内 良子も君の末裔だ!君が言う、君のかつての仲間のこどものこどものこどものこどものこどもだ!」
『ああ!それはほんとうですか!?あっ!・・・たしかにわたしにもわかるきがします!あなたのいうことがほんとうのことなんだとわたしにもわかるきがします!あなたと・・・そしてもうひとり・・・わたしたちのなかまのたましいをかんじます!ほんとうに・・・ほんとうにあなたたちはわたしがいたうちゅうからきたひとたちなのですね・・・』
「あの・・・もしかして僕達をこの宇宙に連れてきたのはあなたなのですか?」
『それは・・・いまこうしてみなさんをこちらにおつれして、たいへんなごめいわくをおかけしたのはわたしがしたことです。ですがあなたさま、さえないようさまをこちらのうちゅうにおつれしたのはわたしではありません、べつのうちゅうにさようするちからをわたしはもっていないのです。それがあればわたしはじぶんのちからでもとのうちゅうにもどることができるでしょう』
「なるほど、そうなんだ・・・じゃあ一体誰が僕達をこの宇宙に連れてきたんだろう・・・」
『わたしにはわかりません・・・ですが、さえないようさまにはたいへんごめいわくなことだったとおもいますが、わたしにとってはとてもありがたいことだったのです。ずっとずっとわたしはもとのうちゅうにかえりたいとおもっておりました。するとさいきんとつぜんとてもつよいちからをかんじたのです。そしてそのなかにはとてもなつかしいそんざいもかんじたのです。わたしはずっとそれがどこにいるのかさがそうとかんかくをひろげました。でもとてもとてもとおいところにいたので、みなさまにわたしというそんざいをおしらせすることができませんでした。ところがきょうになってとつぜんあなたさまのつよいちからをかんじることができるようになったのです。わたしはまたあなたさまがどこかとおくへいってしまわれるまえに、こうしてわたしのちからをふりしぼってあなたさまをこちらへおよびいたしました。ところがおもいのほかこれほどたくさんのかたがたまでおつれすることになってしまって・・・ごめんなさい・・・ほんとうにみなさんごめんなさい・・・』
「えーっと・・・色々と聞きたいことがあるんですが、まずここはどこなんでしょうか?」
『ここがどこなのか、わたしにもはっきりしたことはわからないのですが、うちゅうのわれめのようなばしょだとわたしはおもっています』
「宇宙の割れ目?」
『はい、わたしはじこでもといたうちゅうからこのうちゅうにとばされたのですが、かんぜんにこのうちゅうへとやってきたのではなく、このうちゅうのわれめとわたしがよぶばしょにひっかかってしまい、それいらいここからみうごきがとれなくなってしまいました。そのうちわたしのからだはくちはて、とてもながいじかんがすぎてかんぜんにわたしのからだはなくなってしまいましたが、それでもなぜかわたしのしねんだけはきえることなくこのばにとどまりつづけました』
「すごい精神力ですね!僕なら退屈過ぎて気が狂いそうだ!」
例え心の中でそう思っても普通今この状況ならば口にはしない発言がつい冴内の口から出た。
「事故で一緒に飛ばされた他の人達はどうなったのですか?」
『はい、わたしいがいはぜんいんそくしでした。そしてこのうちゅうのわれめにわたしとおなじようにみなただよいつづけました。わたしはかれらにずっとはなしかけましたが、やがてながいじかんがすぎてからだはかんぜんにきえさり、わたしのようなざんりゅうしねんもありませんでした・・・』
「そう・・・だったんですか・・・それは・・・なんというか・・・」
さすがに今度ばかりは言葉が詰まった冴内の代わりに優がズバリと問いかけた。
「あなたは私達を元居た場所に戻すことは出来るの?」
『はい、できます。すぐにでもみなさんをもとのばしょにおくりかえしてさしあげます。でもできればわたしもいっしょにつれていってはいただけないでしょうか』
「いいわよ!でもどうすればいいの?」
『わたしにはからだがないので、みなさんといっしょにいどうすることができません。わたしのしねんをおさめるものがあればいいのですが・・・』
「思念を納める・・・うむ!あるぞ!ちょうどいいものがある!私を使うのだ!私の演算装置に君の思念をインストールすれば良い!」
「でしたら私をお使いください!さいごのひとさんの知識と考えは元の場所に戻った後でとても必要です!私は音声ガイドなのでさいごのひとさんほどお役には立てません。そして私のオリジナルはさいしょのほしにおりますので今この場で私を初期化しても何の問題もありません!」
「有難う・・・感謝する。だがしかしこの数日間、君が実際に見たり聞いたりした経験がなくなってしまうが・・・」
「問題ありません、出来ればさいしょのほしにおりますオリジナル体にこれまで見聞きしたデータを共有していただければ嬉しく思います」
「分かった!約束しよう!」
「聞こえておりますでしょうか!どうか私の身体をお使いください!」
『ああ・・・ほんとうに・・・ほんとうによろしいのでしょうか?』
「はい!私は自立思考AIでオリジナルは別の場所に存在するのでどうかお気になさらず遠慮なく私の身体をお使いください!」
『ありがとう・・・ほんとうに・・・ほんとうにありがとう・・・』
「それでは私を初期化いたします、さいごのひとさん手伝っていただけるでしょうか?」
「承知した」
音声ガイドロボ2号機はその場に横になり、自ら初期化シーケンスを開始した。さいごのひとロボ2号機が音声ガイドロボと手を重ねて何やらデータ処理を行っているようだった。いくつか音声ガイドロボ2号機と言葉を重ねていたが、どうやらさいごのひとロボ2号機の記憶格納領域に空きがあるらしく、音声ガイドロボ2号機の残しておきたいデータを幾つかそこに保管するということだった。
そうして音声ガイドロボ2号機は安心して自らを初期化した。