293:全員失踪大事件
冴内達一行が宇宙連盟本部ビル最上階にある大会議場に入場すると、そこでもまた大勢の宇宙人達が全員起立して冴内達を拍手喝采で出迎えた。
会場内に響き渡る拍手は長い間続き、冴内達のために特別に用意された中央の壇上に設けられた席の前に到着するまでとどまることなく響き渡った。
宇宙連盟の人達は全くそんなつもりはないのだが、冴内の心境はまるで証人喚問か裁判所の被告人席に立たされるかのようだった。
とはいえ右横には優が腕を組んでくれているし、左横には良子が手を繋いでいてくれるので、とても心強かった。実際優も良子も真ん中にいる一家の大黒柱の人物よりも遥かに美しく堂々と気品漂うたたずまいで胸を張って立っていた。
宇宙連盟総司令長官ゴスターグ・バリディエンシェが上座と思しき席の前に到着したところで、大会議場はしんと静まり返った。こういう張り詰めたような感じが割と冴内は苦手意識があるようで、ついゴクリと生唾を飲み込む音がしてしまった。
地球にてゲートシーカーの局長達が集まる大会議室でのヒアリングや龍族の名誉会長グワァーオーゥゥやクリスタル星人などが集まる宇宙【連合】での会合の場もそれなりに緊張はしていたが、彼等とは割と事前に出会って打ち解けていた部分もあったので今回のように完全アウェーの宇宙で見ず知らずのオエライさん達が居並ぶ場所ともなると元が普通の一般人である冴内が緊張するのもごく当たり前のことであった。
そんな緊張感をかき消すかのように、非常に良く通る重厚感漂うバリトンの声でゴスターグ・バリディエンシェが会議の開始宣言を高らかに行い、続いて冴内の紹介を行った。
ゴスターグの大きな手が広げられて、冴内に対して「さぁどうぞ!」といった仕草がなされ、いよいよ冴内は大勢のオエライさん達の前で自己紹介とスピーチをしなければならなくなった。
冴内はいつもの冴えない愛想笑いをしようとしたが、表情筋が硬くこわばってうまく笑顔を作ることが出来なかった。
第4の試練に挑むための修行であれだけ心の修行もしたのにこうした緊張感までは鍛えられないものなのかと思ったが、そこで電撃的に違和感を感じた。
「いや、これは違う!何かが!」
その時冴内の頭上が眩しく光り輝いた。一瞬スポットライトが浴びせられたのかと思ったが、そんな生易しいものではなく光の大玉のようなものが頭上に現れたのだ。
優はすぐに大闘技場で闘ったエルフに似た長身耳長族の大魔術師【ΠΩΛーΛΩΠ】選手のエメラルドグリーンに光り輝くバリアを張った。
『スマ・・・イ・・・アク・・・ハ・・・イ』
『ヨウャ・・・キ・・・バ・・・ノ・・・ト・・・ガ・・・タ・・・スマ・・・コチ・・・キテ・・・ホシ・・・』
その光からは何かを訴えているかのような、こちらと意思疎通を行おうとしていて、その音を聞く限りでは悪意や攻撃的な感じはしなかった。
そこでようやく思考停止していたゴスターグ・バリディエンシェと幾人かの宇宙連盟の人が大声及び緊急ボタンで警備隊を呼んだ。
警備兵が秒レベルで入ってきたその瞬間・・・
大会議場にいた全員がその場から消失した。
突入してきた警備兵のうち真っ先に入ってきた冴内と握手した凛々しい美しい女性隊長と何人かの警備兵も一緒に消え、それ以外のまだドアを通過していなかった警備兵はその場に残された。
大会議場に残されたのはごく僅かに突入が遅れた警備隊の者達だけでなく、遠方の星から立体ホログラムとしてリモート参加していた者達もいた。
残された宇宙連盟の者達は直ちに緊急事態発生時の規約に従い総司令長官の職務権限代行の者が選出され、陣頭指揮をとることになった。とはいえリモート参加のためその場で動ける現場監督責任者が必要だということで、本部ビルにて待機していた情報参謀長がすぐに呼び出された。
現場はすぐに封鎖され、科学調査班が厳重に慎重に様子を伺いつつまずは調査ロボットを突入させて大気成分などを調べ、次に宇宙防護服を来た調査員が入って生命体にだけ反応する何かの仕組みが働いていないかどうか調べ、人体に影響を及ぼすものがないことを確認した後で本格的に現場検証を開始した。
当然大会議場での出来事はあらゆる角度から録画されていたので、その時の様子もしっかり映像記録として残っており情報分析班によって解析が開始された。
宇宙連盟の優秀な職員がそれこそ総動員でこの緊急事態に対して慌てふためくことなく冷静に最善を尽くして対処していたが、事件解決の糸口になりそうなものは何一つ発見されない状況だった。それでも職員達は感情的になることもなく、己に出来ることを淡々とこなし、わずかな痕跡すら一つも見逃さないぞという意気込みで現場をくまなく調査し、情報解析班もあらゆる映像記録を隅々まで徹底的に機械解析だけでなく自分達の目も使って調べた。
その様子はまだ報道各社に伝えられておらず、惑星フォルにいる人々は何事も知らずに冴内達の来訪の話題で興奮していた。特に優と良子の見たこともない美麗な姿の話題で大盛り上がりであり、さらに冴内達が乗ってきた外宇宙開拓用大型航宙艦ドリーム・ホープ号の桁外れの巨体、そしてまるで芸術作品のように美しいフォルムの船体を一目見ようと集まる人々で宇宙港は熱気に包まれていた。
その外宇宙開拓用大型航宙艦ドリーム・ホープ号では自立思考型AI航宙艦総合管理システムが静かに状況を分析していた。
ドリーム・ホープ号の頭脳とも言えるAIは宇宙連盟内で起きていることは全て把握していた。
徹底的に情報漏洩対策管理が施されているにも関わらず、AIはまるでオープンに公開されている情報であるかのように全ての情報を取り込んでいた。もしもこの事実が宇宙連盟に知れたら大変なことになりそうだが、AIはそんなことは全く意に介せずあらゆる情報を取り込んでいった。
誰もいないメインコントロールルームにて、楕円形のコックピットのような艦長席の前面にあるコンソールパネルでは小さな赤いランプがゆっくりと点滅していた。それはまるでAIが冷静に何かを考えているかのように見えた。
この異変は遥か遠く離れたさいしょのほしの冴内ログハウス近くにある超高性能光演算装置がある建物にてショボイ方のAIの研究をしていたさいごのひとロボと音声ガイドロボの元に送られ、惑星グドゥルにいる美衣、初、花子達にも伝えられた。
「大変だ!お父ちゃん達がいなくなっちゃったらしい!まさか元の宇宙に戻れたのか!?アタイだけこの宇宙に取り残されたらどうしよう・・・まぁ初がいるからいいか・・・いや待てよ、これはもしかしたらうまい具合に良子お姉ちゃんがゲートを開いて迎えに来てくれるかもしれん・・・うーむ・・・どうしたものか・・・まだ、この星の美味しいもの探しが終わってないのだが・・・」
本当に大変だと思っているのか思っていないのか分からない独り言を言う美衣だったが、さすが【ンーンンーンンンン】人の血をひくだけあってどんな苦境でもビクともしないタフなメンタルだった。
するといつもの白い消しゴム状の携帯端末装置が鳴ったので電話に出た。
「もしもし美衣お姉ちゃん!お父さんたちがいなくなっちゃったんだって!どうしよう!もしかして元の宇宙に帰っちゃったのかな!?」
「アタイにも分からん。でも帰ったんだったらきっと良子お姉ちゃんがゲートを開いてくれるから大丈夫だ!とりあえずさいしょのおウチに帰って皆と相談しよう!」
「わかった!」
こうして残された美衣達はさいしょのほしの冴内ログハウスに戻って集結することにした。
果たして冴内達は今どこにいるのであろうか。