292:惑星フォル
冴内達を乗せた外宇宙開拓用大型航宙艦ドリーム・ホープ号は全く問題なく予定通りわずか2日で惑星フォルへと到着した。
惑星フォルに住む様々な宇宙人達はドリーム・ホープ号の圧倒的な美しさと巨大さに声も出ない程に驚きただただ見惚れるばかりだった。
惑星フォルの宇宙港はさすが宇宙連盟本部がある星だけあって、とても立派で大きなものだったが、居並ぶ大型航宙艦の中でもドリーム・ホープ号は圧倒的に大きく、当初は港に係留できるか心配だったので、惑星フォルには降りずに宇宙空間にあるステーションの港に接岸してはどうかと提案されたのだが、自立思考型AI航宙艦総合管理システムが惑星フォルの中で一番大きい宇宙港の図面を要求し、惑星フォルの管制官からデータをもらったところ、第7番デッキに接岸可能だという回答をしたので、惑星フォルの一番大きい宇宙港へと着陸したのだった。
惑星フォル最大の宇宙港の第7番デッキでは宇宙連盟の職員達が大勢出迎えており、ドリーム・ホープ号の大きな乗降ハッチが開き、冴内達が現れると割れんばかりの拍手で出迎えられた。
そしてその先頭には宇宙連盟司令長官ゴスターグ・バリディエンシェが直々に出迎えに来ており、他にも恐らく正装と思われる衣服を着ているいかにも重要な役職に就いていそうな人達が立ち並び、さらに見ると先遣隊の3人の宇宙人達もしっかりとした正装に身を包んでいる姿が見て取れた。
冴内は自分よりも身体が一回り以上も大きく貫禄たっぷりの中世ヨーロッパの提督のような容姿のゴスターグ・バリディエンシェと対面し、固い握手を交わした。
「ようこそ冴内殿、我々は皆さんとこうして直にお会いできることを楽しみにしておりました」
「初めまして冴内 洋です、皆さんの温かいお出迎え有難う御座います」
恐らく報道関係者達と思われる人達のカメラのフラッシュが一斉に光り輝き、続いてなにやら楽隊による生演奏の音楽も盛大に鳴り響いた。
それに応えるように冴内は手をあげたが、優と良子がカメラ目線で手を挙げると、冴内の時の倍以上の歓声が上がり、フラッシュの輝きも凄まじいものとなった。
あらかじめ、今回航宙艦に乗ってくるメンバーは伝えており、美衣達もすぐに良子がゲートを開通したらやってくるということも知らせていたので、美衣達の来訪も楽しみにしていた人達をガッカリさせることはなかった。
簡単な式典の挨拶を済まして冴内達一行はすぐに政府専用車と思われる重厚な雰囲気漂うとても大きな8輪車に乗り込んだ。いかにも警護の人だと思われる人がドアを開けてくれたが、これまで見たこともない程に分厚く頑丈そうなドアだった。密閉度も驚くほどでそれまで聞こえていた歓声がほとんど無音になる程だった。
冴内達は宇宙連盟本部ビルのある中央都市へと向かった。片側5車線はあろうかという幅広のハイウェイを時速200キロ近い速度で自動運転で走っていた。
周りの風景は広大な草原が広がっており、時折大きなショッピングセンターやホームセンターと思われる大型施設が立ち並ぶ栄えた場所があって、それを通過するとまた広大な草原が広がっていた。大きな湖や遠くには美しい山々も連なっていた。
そうして1時間程も走ると景色は近代的なビルが立ち並ぶ風景へと変わり、いかにも都市部に入ったという印象を与えてきた。
とても幅の広いハイウェイを抜けて片側2車線の道路へと入り都市部の街並みに入ると沿道には沢山の宇宙人達が冴内達を一目見ようと大勢集まっており、なんとカタカナで「ヨウコソ サエナイサン!」と書かれたプラカードや横断幕を見ることが出来た。
同伴したとても凛々しく美しい容姿の女性が「あれは音声ガイドロボさんから教わって書いたんですよ」と教えてくれた。
確かによく見ると「カミサマ」とか「キュウセイシュ」などと明らかに音声ガイドロボ2号機に吹聴されたと思われる単語もちらほら見て取れた。
都市部もとても綺麗で清潔感があり居並ぶビルも整然と並んでおり、様々な容姿の宇宙人達もどことなく品がある感じがする人ばかりだった。
やがて小高い丘の上に一際大きく高くそびえるビルが見えてきて、丘一帯が既に施設内だと分かるように周りとの美観を損なわず、それでいて威圧的ではない柵で囲まれており、さらにそのまま進んでから大きな正門を通過した。警備隊の人達の敬礼と思われるポーズに優と良子が笑顔で手を振ると、遠くからでも分かる程目を大きく見開き、無礼と思われないようにすぐに目を逸らして目力たっぷりと真っ直ぐ上空を見ていたが、頭から湯気が出てるのではないかと思うくらい顔が真っ赤になっていた。
宇宙連盟本部の敷地内に入ると官舎と思われる建物やヘリポートのようなものがあり、よく手入れされた綺麗な芝生や背の低い木や小さな池もあり、よく見ると小動物がせわしなく動き回っている様子も伺えた。
やがて巨大なビルの堂々とした正面玄関に辿り着き、そこでも職員総出と思われる程に沢山の宇宙人達が出迎えていた。先頭にはさいごのひとロボ2号機と音声ガイドロボ2号機が立っていた。
冴内達を乗せた装甲車並みに頑丈な超重要人物専用車両が停止し、警護の人がドアを開けた途端割れんばかりの拍手と歓声が聞こえた。
車を降りると同伴していた凛々しく礼儀正しく美しい容姿の女性が冴内に「大変失礼ではありますが、是非とも握手してはいただけないでしょうか!」と背筋をピンと伸ばしてお願いしてきたので、冴内は若干優の目線を感じつつも二つ返事でそれに応じた。
「これがあの虹色のチョップ、全宇宙のチョップを持つお方の手なのですね。どんな強敵をも倒す強くて恐ろしい手ではなく、とても優しく温かい手だと感じました!有難う御座います!一生の宝物になりました!」
後で聞いたところによるとその女性は全警護隊員の中でも最も格闘術に長けた者であり、多くの警護隊員を率いる隊長でもあるとのことだった。
それ以後も同じように美しい女性達から握手を求められないように優はすかさず冴内の手を取ってしっかりと腕を組んで如何にも私は冴内の妻ですといった感じで一緒に歩いた。良子に言ってもう片方の手も良子が手を繋いで塞ぐという念の入りようだった。
大勢いる出迎えの人々の先頭に立っていたさいごのひとロボ2号機と音声ガイドロボ2号機がすぐに冴内の元にやってきて、音声ガイドロボ2号機からは「救助活動ご苦労様でした」と労いの言葉をもらい、さいごのひとロボ2号機からは「現時点では元の宇宙に戻るための有力な情報は得られていない」という残念な言葉をもらった。
ここで普通の神経の持ち主ならばかなりショックを受けるところだが、冴内は特に精神的に堪えた様子もなく「あっそうなの?困ったなぁ・・・」とホントに困ってるのかすら怪しい反応だった。
しかしそんな困った状況に対して深く考える時間は今この瞬間この状況においてはなく、それよりも冴内の今の心境としては自分の父親以上に年上でとても偉そうで立派な人達が沢山いるなかで果たして自分はどう立ち回ればいいのかを考えるだけで精一杯だった。
そもそも冴内は会社のような大きな組織に所属して年齢性別考え方も異なる様々な人達の中で一緒に仕事をすることもなく専業ゲートシーカーになったので、正直会社どころか大企業どころか宇宙連盟などというこの宇宙のトップが集まる場所で、自分は一体どう接すればいいのかを必至に冴えない脳みそで考えていたのであった。
しかしやはりそこだけは未来永劫変わりようのない冴えない冴内なので、頑張って考えたにも関わらず結局最上階の大会議場に到着するまで何一つ良い考えは浮かばなかったのであった・・・