29:トカゲ
翌朝は4時半に目が覚めた。矢吹さんと手代木さんはまだ寝ていて、テントから出てみると梶山君が洗顔しており、鈴森さんと早乙女さんは早くもかまどで料理をしていた。ほどなく矢吹さんと手代木さんも出てきた。矢吹さんはストレッチをした後でシャドーボクシングをしていた。
5時過ぎになって朝食が出来たと早乙女さんが声掛けしたので小屋に入って朝食をとる。フランスパンを大きくしたようなパンのスライスとハムと目玉焼き、あとトマトのスライスと手でちぎったレタスがあった。小さな鍋にはホットミルクと思われるものが入っており、その横には恐らくハチミツと思われる小瓶が置いてあった。
当然皆黙々と食べる。どうも料理は温かいうちに黙って食べるというのがシーカーの流儀なんじゃないだろうか。食後に各自お茶やコーヒーを飲みながら軽く今日の予定の再確認をする。
昨日同様、1時間に100メートルというペースで進んで鉱石調査を行い、15分間休憩したらまた100メートル進むのを繰り返す。400メートル程進んだらいったん戻って昼食をとり、午後は300メートル進んで終了するという工程だ。
その後、食事の後片付けをして各々準備をし、6時前に洞窟に入った。皆で「駆け足」で進んだため、6時半には昨日の最深部まで到着し、早速昨日同様矢吹さんと自分は先行する。200メートル進んだときに「そこから300メートル前方に危険対象物あり、多分トカゲのようだ」と手代木さんが言った。
矢吹さんと向かってみるとトカゲというよりはオオサンショウウオのようなものがいた。3メートルくらいはありそうだ。巨大な頭と口に対して目がついてるのか分からなかった。恐らく暗い洞窟の中で退化してしまったのではないだろうか。
「コレ、あんまり触りたくねぇんだよなぁ・・・」と矢吹さんがため息交じりで漏らしたので「自分がやりましょうか?」というと「おっ、やってくれるか?頼むぜ!」と頼まれたので少し嬉しかった。
ゆっくりと5メートル程の距離まで近づくと、口をアングリあけてシャーッと威嚇してきた。多分目ではなく嗅覚とか何かで察知しているのだろう。大口の中は赤紫色で唾液が糸を引いており確かにグロテスクですごく嫌な気分になった。
「見かけ以上に素早いから気を付けろ。噛まれたら足なんか簡単に持ってかれるぞ。あとソイツも毒持ちな」と、すごく危険なことをサラリと言われた。
矢吹さんじゃないけど確かに触りたくないので、水平チョップの斬撃が効けばいいなと思いつつ、威力強めで放ってみる。今回も光の弧がハッキリと見えながらトカゲに向かっていった。
当たったと思った瞬間トカゲは消えた。肉が落ちていたがあまり食べたいと思わなかった。肉を拾う時に地面を見てみたら亀裂が入っていたので、次からはもう少し威力弱めで放とうと思った。
矢吹さんが言うには見た目はアレだがトカゲの肉はかなりうまいそうだ。追いついてきた早乙女さんがピョンピョン飛ぶくらい嬉しがっていたので考えを改めた。
今日の昼はトカゲステーキで夜はトカゲカレー、さらに夜のうちにトカゲシチューも煮込んで次の日の朝にパンに浸して食べるんだと、早乙女さんは目を輝かしていた。結構大きいけど6人で食べきれるのだろうかと思ったが早乙女さんがいるなら多分大丈夫だろう。