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289:痛い愛

 外宇宙開拓用大型航宙艦ドリーム・ホープ号は最後の救援対象の衛星へと到着した。


 その衛星は大気が分厚く地表に降り立つまでは肉眼目視ではどのような環境なのか全く分からなかったが、地上は恐らく生物は生存可能ではないというデータ観測結果が既に出ており、それでもかろうじて生き残っている人々がいると信じてドリーム・ホープ号は大気圏内へと突入した。


 一応宇宙港があるようでガイドビーコンが機能していた。大気圏内に入ると即座に管制官から連絡があり、身分と船名を伝えるとこちらの入港目的を告げなくとも分かったようで、やはり歓喜溢れる人々の声が聞こえてきた。


 宇宙港に入港するまでの間、上空から地表を見渡しても荒れ果てた乾いた岩石しかなく、人が住んでるような建物などは全く見当たらなかった。


 唯一地表にある宇宙港、それも自然の地形を利用した岩盤に大穴が開いているだけの場所にドリーム・ホープ号は入港した。ドリーム・ホープ号は1万人以上を収容できる外宇宙開拓用大型航宙艦なので大変な巨体であり、大穴とはいえどドリーム・ホープ号が入れるギリギリの大きさだった。


 しかし完全自動運転のドリーム・ホープ号には超高性能光演算装置と最高の自立思考型AIによる総合管理システムが組み込まれているので、穴とドリーム・ホープ号の隙間がわずか1メートル前後という状況でも全く問題なくスムーズに通過した。


 その驚異的な操船技術に管制官達も拍手喝采で喜び、やはり神様救世主様サエナイ様が乗る船だと大いに褒め称えていた。


 しっかりと港に接岸し、ハッチを開けると既に大勢の人々が地下から続々とやってくる姿が目にとれた。

 人々は皆肌が青白く、宇宙連盟先遣隊の肌の色が薄く青い白人のような容姿のロベル・テディルを彷彿させた。


 この衛星の住人達は全部で3千数百人で、巨大な地下空間で生き延びるために過去文明の遺産である技術と機械をなんとか維持して使い続けることでかろうじて生きながらえてきた。


 しかし健康水準は極めて低下しており、寿命もソティラ達以上に短く絶望的な人々だった。そのため住民達のほとんどがまだ子供だった。クローン再生で作り出された人々である。それでもその半数は20歳になる前に死んでしまうのだった。


 彼女達は皆一様に痩せ細っており、肌の色が青白いのでますます不健康に見えた。だが人々の目には希望の光がわずかながら輝いてた。


 もしも冴内が第4の試練での修行で精神を鍛えていなかったら、このあまりも悲惨な光景に深い悲しみを覚えて冴内自身、心に大きなダメージを受けていたかもしれないが、冴内はこれまでの修行と優れた能力者達との闘い、そして大いなる宇宙との対話によってその心も鍛え上げられていたので、悲しみに打ちひしがれることなく、彼に出来ることを全力で精一杯、惜しみない愛を持って応えるのだった。


 美衣、初、良子、花子達の先導のもと、最後の衛星の住人達が一人残らず全員乗船すると、ドリーム・ホープ号は惑星グドゥルへ帰還するべく出航した。


 2番目に救出した爬虫人達は既に食事を終えていたので、早速青白人達は簡易食堂へと案内された。


 貨物室を利用した簡易食堂に簡易テーブルというみすぼらしい風景なのだが、ほとんどが子供の青白人たちは大喜びで、そして簡易テーブルの上に置かれているカップラーメン、ハンバーガー、ポテトチップを目にして全員お腹がグゥグゥ鳴って、それでも見てる方がいたたまれなくなる程に健気に我慢していたのだが、美衣が「遠慮しないで全部食べていいんだよ!」と言うと全員目を輝かせて食べ始めた。中には初くらいの子供もいて、年上の子供が食べさせている光景もあった。


 初はそんな光景を見て自分でも何故か分からず涙があふれて止まらなかった。だが同時にとても大切な何かをしっかりと学んでいるようだった。


 ごく数人は20歳に近い者もいたがほとんどが10代前後で身体も痩せ細っていたので、カップラーメンとハンバーガーだけでお腹が一杯になり、ポテトチップは返却してこようとしたので、美衣は「それは皆のものだよ!後でお腹が空いたら食べるといいよ!」と言うと、全員大喜びだった。


 それから美衣と良子と花子達は彼女達を大浴場へと案内し、美衣と良子はそのまま青白人達と一緒にお風呂に入って背中を流しあい、一緒に大きな湯舟に浸かって「ハァ~~~」と声を出して脱力してくつろいだ。

 もちろん入浴後は全員フルーツ牛乳を腰に手を当ててグビグビと飲んだ。

 服は綺麗に洗濯して皆の脱衣カゴに戻していたが、それとは別に清潔な下着と淡いピンク色のスウェット上下も一緒に入れてあり、彼女達は全員新しい下着とピンク色のスウェットを着て喜んでいた。


 小さな子達も多いのでお腹いっぱいになって温かいお風呂に入って疲れを癒したので、ウトウトしている子達も多かったので、花子達は彼女達を寝室へと案内した。


 寝室は大型航宙艦におけるちょっとした居住区とも言える程の広大な施設であり、最初の獣人達、2番目の爬虫人、そして彼女達青白人達はしっかりパーティションで区切られそれぞれ安心して別々の居住区で寝泊りすることが出来た。


 青白人達は花子達に案内されて到着した宿泊所に着くとウトウトしていた子ですら目を開けて、彼女達が寝泊りする部屋を見て驚き喜んだ。

 これまで見たこともない程に綺麗なベッドに清潔なシーツとマクラと掛け布団、さらに綺麗なトイレと洗面台まである。

 実際のところ日本でも見かける高級カプセルホテル程度のものだったのだが、彼女達にしてみたら天国のような居住施設で、一人一人別々のベッドで寝られるというだけでも信じられない贅沢だった。

 それでも小さい子達の中には一人だと不安な様子の子もいたので、そういった子は仲良しの子と一緒に眠ることにした。


 そうして青白人達はすぐに皆スヤスヤと、とても幸せに満ち溢れた顔で寝入っていった。


 それらの様子はメインコントロールルームにて、冴内達も見ていたが、グドゥルに加えてソティラの命令で残った上級幹部の一人も泣いていた。


「アタシらのコロニーにも小さいのは多くいるし、これまでもそいつらのうち弱いヤツが何人も死んでいくのを見てきたが、今こんなに胸を締め付けられるような傷みがするのは初めてだ・・・これは一体何なんですかい・・・」


「うん、多分それこそが一番大事で取り戻すべき愛なんだと思うよ」


「愛・・・これが愛・・・アタシらが愛を取り戻せと叫んだ愛・・・こんなにも辛く胸が締め付けられる程の痛みがあるものなんですかい・・・」


「そう、だけど愛は痛みだけじゃなくて、とても嬉しくて幸せいっぱいな気持ちになる素晴らしいものでもあるよ」


 およそ冴えない冴内とは思えない程のセリフが饒舌にスラスラ出てくるという、第一話からゲートシーカーになりたての頃の冴内とはまるで別人のようではあったが、それでも冴内は未来永劫冴内のままでベースはそれほど変わっていないのである。


「・・・あっ!確かに冴内様の言う通りでさぁ!何故かあの青白人達の顔を見ると、今度はなんというか・・・すごく気持ちが良いというか、なんか胸の辺りが温かい気持ちになってきましたぜ!」


「そう!それこそが愛よ!愛はとても気持ちよくて温かくて気持ちのよいものなのよ!」(優)


 優は2回気持ちが良いと言う程に愛を力説した。


 グドゥルも上級幹部もその力強い優の言葉に深く頷き、しっかりと愛を取り戻しつつあった。

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