288:夢と希望
冴内達は早速惑星グドゥル近隣の衛星で、自らの肉体を危険な遺伝子操作技術によって改造し、かろうじて生きながらえている人々を救済するために向かうことにした。
ただその前に美衣にはどうしてもやりたいことがあった。それは見事なまでに美しく生まれ変わった航宙艦で唯一美衣が気に入らない箇所で、昔の面影が残っている見事なまでに不格好で美しくないロケットブースターを最新式の宇宙粒子放出スラスターベーンに変更することであった。
当然冴内と初が組み上げた最新式の宇宙粒子エンジンも一緒に交換するつもりである。
先にこれらの交換取り付け作業を行った方が結果として時間短縮になるので、冴内達は早速航宙艦の近代化改修作業の最後の仕上げに取り掛かった。
通常の感覚というか技術レベルでは恐らくおよそ数ヶ月はかかかる作業であったが、ここにいるのは宇宙最強のトンデモメンバー達なので、作業は30分程度で終わるという非常識過ぎる有様だった。
これでようやくアーティスト美衣先生の美的感覚も満足納得したようで、外宇宙開拓用大型航宙艦は完全に新しく生まれ変わった。
だが美衣にはまだもう一つだけやり残していたことがあり、それは第274話「歓喜のシアターホール」の回で一人ワープ空間にてつぶやいた件で、この新しく生まれかった船に名前をつけるというものだった。
早速美衣は冴内の元に戻りその旨を報告すると、冴内はなんとまたしても何やら天啓が降りてきたようですぐに即答してこう言った。
「夢と希望!ドリーム・ホープ号っていうのはどう?愛という言葉もどこかに入れようかと思ったんだけど、長くなるから夢と希望、ドリーム・ホープ号にしたんだけど・・・」
「それだ!さすが父ちゃんだ!」
「うん!すごくいいと思う!」
「いいわね!さすが洋!」
「素晴らしい名前です!洋様!」
「ボクもいいと思う!」
「私も素敵だと思います!私の星に住む人達にも夢と希望を与えてくれると思います!」
「ありがとう、でもそうなんだ。グドゥルの言う通りこの星に住む人たちの夢と希望になればいいなと思って付けたんだ」
「夢と希望・・・ですかい・・・今までアタシらには夢も希望もなかった人生でした。そう遠くない未来には絶滅しかない絶望的な日々をただ生き延びるだけでした。しかし今、神様救世主様サエナイ様達がやってきてくれたおかげでアタシらにも夢と希望の光が見えた気がします、夢と希望・・・ドリーム・ホープ号・・・これこそアタシらのこれからの未来を照らしてくれる夢と希望の光の象徴のようでさぁ・・・」
「そう思ってもらえて良かったです。よし!それじゃあ皆!衛星にいる人達を助けに行こう!」
「「「 おぉーーーッ! 」」」
こうして航宙艦の命名式も無事終わり、名実ともに完全に生まれ変わった外宇宙開拓用大型航宙艦、ドリーム・ホープ号は惑星グドゥル近隣の衛星にいる人々を救うために早速発進した。
救済対象衛星は全部で3っつあり、手始めに最も近い極寒の衛星へと向かった。
事前の調査によると全ての衛星にいる人々を合わせても1万人にすら届かないほどしかおらず、過酷な環境下に住んでるため惑星グドゥルに住む人々よりも早く絶滅する恐れがあった。
外宇宙開拓用大型航宙艦は1万人程度なら余裕で収容可能な程の大型艦なのでそのままノンストップで3っつの衛星全てをまわることにした。
新型エンジンのワープ機能はこれまでとは桁違いの性能を誇るため、なんと最初の衛星にはたった1回のワープでわずか5分で到着した。
その優美で巨大な船体は衛星の大気圏外からもハッキリと確認出来る程の巨体であり、大気圏内に入ってからはさらに一層その神々しいまでの美しさも相まって、まさに神様救世主様サエナイ様が乗るに相応しい船だといった印象を与えた。
一応宇宙港らしいみすぼらしい港があり、管制塔もちゃんと機能しているようで、こちらの身分と船名を明かすと歓声が聞こえてきた。とりわけ船名のドリーム・ホープという名称を伝えたところ、まさに夢と希望がやってきたと言わんばかりの大歓声で、衛星に住む全員を収容して綺麗に生まれ変わった惑星グドゥルへと運び、もうソティラ達やそれ以外の種族との争いも終わりだと告げると、管制官は嗚咽を漏らしながら感謝した。
最初の衛星に住む人々はモフモフでフサフサの獣人になっており人口総数は2千数百名だった。かろうじて暮らしていける場所ですらほとんどなく、全ての住人がそのわずかな生存環境地域に集まって住んでいたので、全員の収容完了までに要した時間は1時間もかからなかった。
全ての人員を収容し終えるとドリーム・ホープ号は早速次の衛星へと向かって進んだ。
艦内では花子達が真っ先に獣人達を簡易食堂として仕立てた大型貨物室へと案内し、大量に用意されたカップラーメンとハンバーガーとポテトチップが既に簡易テーブルの上に置かれていて、全員早速食事をとることになった。
するとすぐに簡易食堂のあちこちで動物の鳴き声が響き渡った。もちろん美味しい食事に感動してついつい口から出てしまったものである。
その間ドリーム・ホープ号は既に次の衛星へと到着しており、加減速や停止に伴う振動などが全くない程高性能なため、食事をしている獣人達は船が動いていて、しかも既に別の衛星に到着しているということすら気付かない程だった。
2つ目の衛星は高温多湿の星で、ここには環境に馴染むために爬虫類と融合した人々が住んでおり、宇宙連盟先遣隊の見た目がトカゲのドルム・デ・グァルムァルのような人達だった。
数千年前はその容姿に絶望して自ら命を絶ったものも多くいる非常に悲しい過去を持っていたが、それも既に過去のことであり、今住んでいる人々はそんな過去すらも気にする余裕もないほど日々生きるのに精一杯だった。
ここには宇宙港と呼べるものすらなく、過去のテクノロジーの遺産とも言える機械設備がほとんど消滅しており、より一層未来は深刻で絶望的だった。
だが、やはりここでも巨大で美しい船体が人々の上空から姿を現すと、残った人々のうちまだ元気に歩き回れる人達が船を見て大喜びで手を振って追いかけてきた。
上空から音声ガイドロボのアナウンスで「こちらは神様救世主様サエナイ様が乗る外宇宙開拓用大型航宙艦ドリーム・ホープ号です。皆様を夢と希望に満ち溢れた世界へと救うためにやってきました」と実にいけしゃあしゃあと声高に宣言するものだから、ますます人々は救いを求めて集まってきた。
この星はまだ最初の極寒の地よりは住環境としてはマシだったようで、4千人程の住人達が収容された。今回は何か所かコロニーが点在していたので、全員を収容するのに3時間程かかった。
これがかえって効率が良く、最初に収容した獣人達は全員食事を終えて、入浴して身体を綺麗にして、その後は例の大型シアターホールにて冴内の冒険記録活劇を見ていたのだ。
ここでも同じように花子達が爬虫人を簡易食堂に案内し、同様にカップラーメンとハンバーガーとポテトチップが既に簡易テーブルの上に用意されていて、全員すぐに食事をとることにした。
獣人達と違ってあちこちで遠吠えのような鳴き声はなかったが、シュルシュルと先が二つに割れた舌が激しく口から出たり入ったりして、美味しい食べ物に感動しているようだった。
そしてその間もやはりドリーム・ホープ号は3っつ目の衛星に到着しようとしていたのだった。