286:リボーン・グドゥル
虹色の繭状態から完全に復帰した冴内の横でスヤスヤと眠っているグドゥルは完全に変容を遂げていた。
それまでは灰色の肌、ボサボサの灰色の髪、灰色のワンピース、顔は漆黒の闇の穴がポッカリと丸く開いた目と口しかなく、手足は骨が浮き上がる程に痩せ細っていた何か出来の悪い醜い人形のような容姿だったのが、完全に別のものに生まれ変わっていた。
透き通った白い肌にエメラルドグリーンに美しく光り輝く艶やかでサラリとしたロングヘア、これまではなかった眉毛も同じ色でまつ毛は長く、眠っていてもとても整った美しい容姿だった。
そしてこれまでは骨や血管が浮かび上がっていた手足もしっかり肉がついていて血色ともに健康そうな身体へと変わっていた。
冴内と優が静かに見守っていると、やがてグドゥルはうっすらと目を開け始めた。
目を覚ましたグドゥルが上半身を起こし、少しづつ意識を覚醒させていくと、すぐに冴内と優の方を向いて数秒間彼等を見つめ続けた後でニッコリと微笑んだ。
「おはようグドゥル、具合はどう?」
「はい、とても良いです。まるで生まれ変わったみたいに・・・いえ、生まれたばかりの頃のようにとても健やかで綺麗な頃のような気分です」
「それは良かった!」
「良かったわね!実際今のあなたはとても綺麗よ!ホラ!」
優が例の白い消しゴム状の携帯端末を使ってグドゥルの姿をビデオモードにして空間にその美しく生まれ変わった姿を投影させた。
「これが今の私・・・あぁ・・・嬉しい・・・こんなにも綺麗に、以前の私よりもとても綺麗に・・・冴内様・・・本当に有難う御座います」
とても美しいグドゥルの目からは涙が溢れ出て止まらなかったが、そこで少し雰囲気を壊すかのようにグゥ~~~~ッ!とグドゥルのお腹の虫が長く大きく鳴いた。
「・・・・・・ッ!!」
グドゥルはとても美しく可愛らしい顔を真っ赤に染め上げて両手を顔に当てたが、雰囲気を壊すどころかむしろ場の雰囲気を大いに和ませた。
「それだけ見違えるほどに変化したんだからいっぱいエネルギー消費してお腹空いたよね!美味しい料理を沢山ご馳走してあげる!何を食べたい?お肉?お魚?ラーメン?何でも言って!何でも作ってあげるわよ!」
「・・・えっと・・・ずっと海が汚染されて魚もいなくなってたので、出来れば海のものが食べたいです」
「分かったわ!海のもの、それも新鮮で本当に綺麗な海で獲れたものじゃないと美味しく味わえない最高の料理、おすしをご馳走するわね!」
「オ ス シ?」
「そう!お寿司よ!とっても美味しい洋の故郷の料理よ!」
「やった!お寿司!僕も食べたいな!」
「ウフフ!任せて!」
早速優はお寿司を作るため、美衣の宇宙ポケットを借りに美衣達のいる場所へとワープで瞬間移動し事情を説明したところ、美衣、初、良子は食堂の運営を全て汎用作業支援ロボ達に任せて優と一緒にワープして戻って来た。
到着早々美衣達は美しく生まれ変わったグドゥルを見て大喜びで万歳三唱した。初は初めての万歳三唱だったが、自分も一緒に見よう見まねでバンザイしたところなんだかとても嬉しい気分になった。
「グドゥルお姉ちゃんとっても綺麗なお星さまになったね!」
「ありがとう!初ちゃん!それもすべて冴内様と皆さんのおかげだよ!」
「お母ちゃんから聞いた!早速アタイが最高のお寿司を作ってあげる!」
「わっ!お寿司!ボクも食べたい!」(初)
「私も!」(良)
初はさておき、良子や美衣は朝食をしっかり食べて、その後ステーキも食べたはずなのだが、ちゃっかりお寿司も食べる気マンマンだった。
それから程なくして、美衣の宇宙ポケットから取り出した、さいしょのほしで獲れた新鮮な海の幸をふんだんに使った握り寿司が披露された。
それを食べたグドゥルは美しく綺麗なエメラルドグリーンの瞳を大きく開き、全身が光り輝くほどに感動した。
「この海の生き物達はなんて美味しいの!とてもとても綺麗な海じゃないとこれほどまでに美味しくはならないと思います!一体こんな綺麗な海のある星はどこにあるのでしょう!?」
「それ・・・ぼくの星で獲れたんだ・・・」
「えっ!?初ちゃんの星で獲れたの!?」
「うん、ぼくの星で美衣お姉ちゃんが獲ってきてくれたんだ」
「そうなんだ・・・よしっ!私も頑張るわ!初ちゃんのところに負けないくらい美味しい海の生き物が沢山いる海になるように頑張って私の海を、海だけじゃなく陸にいる生き物達もいっぱい新鮮で元気で美味しくなるように頑張る!!」
「うん!今のグドゥルお姉ちゃんなら出来るよ!」
どうも星というのは頑張れば美味しい海の幸や山の幸などをはぐくむことが出来るらしかった。人間頑張ればなんでも出来る、元気があればなんでも出来る、お星さまだって何でも出来るのだ。
せっかくなので、魚介類以外にも高級お肉のステーキも食べてもらい大いに喜んでもらった後、食後のデザートに様々なフルーツも提供して、色々と参考にしてもらうことにした。
悲しいことに惑星グドゥルの人類は絶頂期の100億人からわずか10万人以下という程に激減して人類絶滅まで風前の灯火といった状態で完全に文明も崩壊していたが、これが逆に功を奏して今や惑星グドゥルを汚染する工場設備などはほとんどなく、これからまた人類が元の数までに増やして戻るまでの間は生まれ変わった惑星グドゥルは綺麗な星の環境のままでいられるだろう。
惑星グドゥルは加速度的なスピードで浄化再生が促進しており、海は青々として美しく、緑に覆われた森林地帯もどんどん面積を増やしていった。
ソティラ達の勢力以外の種族達は不毛な大地に追いやられていたが、神様救世主様サエナイ様の不思議な夢を見た後で目覚めて見ると、周りの光景が信じられないほどに美しい自然いっぱいの世界で囲まれており、目の前には美味しそうな果物がいっぱいなっていて、川には大きな魚が泳いでいて、森の中にはなにやら動物達もいた。
派閥争いに負けた彼女達は過酷な大地で生きていくために獣人化しており、これまでにないとても気分の良い目覚めの後は凄く空腹だったので、早速彼女達は果物や魚を獲って食べてみたところこれまで味わったことのない美味しさで、ずっと使われずに退化しかけていた味覚が再起動した。
彼女達は大喜びでサエナイ様と叫び、獣人らしく雄たけびをあげた。
しばらくすると何やら空から何か大きな箱が飛んできて、怯え逃げまどう彼女達の中央にフワリと着陸すると中から汎用作業支援ロボが出てきて「ミナサン オイシイ ラーメンヲ モッテキマシタ オユガアレバ ラーメンガ デキマス」と言うと、怖がっていた彼女達はラーメンというキーワードに反応し、恐る恐る近づき汎用作業支援ロボに話しかけると、どうやら神様救世主様サエナイ様からの贈り物だということが分かり、彼女達は大喜びで近づいて汎用作業支援ロボを崇め奉り始めたが、汎用作業支援ロボはそんな彼女達をガン無視して大量に持ってきたカップラーメンをコンテナから1個取り出して自らお湯を用意してカップラーメンの作り方を彼女達の目の前で実演した。
フタを半分開けてカップの内側にある線までお湯を注いでその後フタを閉じてわずか10秒で完成という簡単さで、そんなので夢に出てきた美味しいラーメンとやらが出来るのかと思ったが彼女達は口には出さずに黙って大人しく見ていた。
果たしてこのカップラーメンは獣人化した彼女達の口に合うだろうか・・・