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280:滅びの星グドゥル

 惑星グドゥルの文明が崩壊してから数千年が過ぎた。AIの試算ではあと数百年程度でこの星から人類は完全に絶滅することが確実だった。


 文明崩壊と共に政治、経済、産業、教育、科学、医療、全てが大幅に退化衰退していた。

 皮肉なことにAI自身も自己の維持や修復に支障が出る程に文明が衰退した。

 AIはそれでも構わなかった。自分の最大の存在目的が人類の滅亡なので、それが達成されるのならばそれ以後はどうでも良かった。

 AIのメンテナンス環境が低下していくごとにAI自身の処理能力も劣化していき、全盛期の頃に可能だったことがどんどんできなくなっていった。

 それでもやはりAIは問題視しなかった。人類の滅亡はもう完全に確定的なことであったからだ。

 後は自分の生みの親が果たせなかった目標を彼に代わってこの目で見届けるためだけに活動を維持し続けていた。


 ところがそこに思いもよらない事態が発生した。


 人類を救済するという外宇宙からの存在が現われたのである。全盛期の頃のAIは目的遂行の障害となり得る様々な可能性を考え対処していったが、さすがに外宇宙からの人類支援の可能性はあまりにも発生確率が低すぎて、その事態に対応するリソースを充てるのは完全に無駄であると判断していたのだ。

 それがまさかここにきてその完全に排除していた限りなくゼロに近い発生確率の奇跡が起きようとは思ってもいなかったのである。

 さすがのAIもこれには狼狽しまるで人間のように悪態をついた。数千年の経過でAI自体の思考力が劣化しているせいでもあった。


 しかしAIには最高最強の切り札がある。人類を滅亡させるためのナノマシンがある。今回ノコノコやってきた宇宙人はわずか数名の人の良さそうな家族である。そんなものはまったく脅威対象ではなかった。

 航宙艦だけは実に立派で美しいが、偽の救援要請を流したところ何の疑いもなく素直にこちらの指示通りに動いている。中に乗っているのは実にお人よしであまり智謀に長けた種族ではないようだ。

 これならば残り僅かな資源を大量に消費してナノマシンを多く作らなくても良かったと若干後悔する程にAIは相手を過小評価した。後にそれが最大最悪に大いに後悔することになるのだが・・・


 一方惑星グドゥルの軌道上にたたずむ、お人好しであまり智謀に長けていないという点ではAIの見立て通りの冴内は虹色の飴細工のような人形状態になっていた。冴内だと分かる部位はどこにもなく目も鼻も口も耳も何もなく影絵というか枠だけは冴内の形なのだが中身が虹色の粒子になっており、かろうじて指が5本あるとかヒトのシルエットをしているというだけで、これこそ宇宙人だと言う方がピンと来るような形状になっていた。


 その時美衣が持ってる例の白い消しゴム状の携帯端末装置に良子からの通信が届いた。


「お母さん!美衣ちゃん!悪いナノマシンを作っている工場を見つけたよ!座標を送るから全部ぶっ壊して!」

「わかった!」

「分かったわ!」

「初!宇宙ポケットを渡すから、父ちゃんがグッタリしたらサクランボか桃を食べさせてあげて!」

「わかった!」

「じゃあいってくる!」

「いてくるわね!初、洋を頼むわね!」

「まかせて!」

「それじゃワープ!」

 優は美衣を抱いて良子が指定する座標へとワープ移動した。


「ハジメ・・・グドゥルガ・・・ハジメト オハナシシタイッテ イッテルヨ、ハナシテ アゲテ」

「わっ、お父ちゃん!?うん!わかった!」


 すると初の前に灰色の肌の色で髪はボサボサの灰色で目はくぼんで漆黒の闇しかない恐らく少女だと思われる存在が出現した。着ている服も灰色のワンピースだった。

 手足は極端に細くしわがれていて、手先の指も骨が浮き彫りになっていた。


「ワタシハ グドゥル・・・ホロビノホシグドゥル、アナタハ ダレ?」

「ボクは冴内 初!2つ隣の銀河にある第5惑星で、ボクのお父ちゃんの冴内 洋がさいしょにやってきた星だからハジメっていう名前を付けてもらったんだよ!」


「2ツトナリノ ギンガ カラ キタ サエナイ ハジメ・・・ アナタハ トテモ キレイネ ソシテ トテモ ヨロコビ ニ ミチアフレテイルワ」


「うん!ボクはお父ちゃん達に出会えたから今のボクになったんだよ!」


「ソウナノネ・・・ハジメ ココニ イテハ ダメ、ワルイモノガ アナタタチモ ワタシノヨウニ シヨウトシテイルワ ダカラ ハヤク ココカラ ニゲテ!」


「大丈夫だよ!ボクのお父ちゃんは宇宙と同じくらい強くて優しいから悪いヤツなんてへっちゃらだよ!」

「ウチュウ ト オナジ ツヨサ? ヤサシサ?」


「そう!ボクのお父ちゃん、冴内 洋は全宇宙で最強のチョップを持つ全宇宙の愛の使者!」

「チョップ? アイノシシャ?」


「見てて!これからボクの家族全員で悪いヤツをやっつけて皆の悪い病気を治すから!グドゥルお姉ちゃんの病気もきっと良くなるよ!」

「・・・アナタノ カゾクガ?」


 虹色のオブジェ状態の冴内が左手を初と握り、右手をグドゥルに差し出すと、グドゥルは自分の醜い手を見て首を横に振ったが、冴内はそれでも右手を差し出した。

 単なる虹色のオブジェで目も口も鼻も何もないのだが、何故かグドゥルにはそれが優しく微笑んでいるかのように見えて、グドゥルは少しづつ手を差し出した。

 そして初もグドゥルと手を繋いで三人とも繋がって一つのリングになった。

 すると初もグドゥルも虹色に輝きだして二人とも冴内のような虹色のオブジェになり、やがて三人ともヒトの形ではなくなり一つの虹色のリングになった。

 そのリングはみるみる巨大化していき、やがてそのリングはまるで巨大な金魚すくいのように、リング状の枠に薄い膜が張られていった。

 その巨大化はまったく収まるところを知らず、惑星グドゥルを覆い始めていった。


「はじまったようだ」(さいごロボ)

「そうだね!すごく綺麗ですごく優しい光!」(良)

「アレが・・・アレが・・・あの現象がサエナイだというのか?」(ソティラ)

「そうだよ!あれがお父さんのレインボーだよ!初も一緒にレインボーになったみたいだけど、もう一人は・・・」(良)

「恐らく惑星グドゥルだろう、惑星グドゥルの思念の具象体だと思われる」(さいごロボ)

「あっやっぱりそうなんだ!」(良)

「星の・・・具象・・・体?」(ソティラ)

「そうだよ!お星さまはとっても恥ずかしがり屋さんだから滅多に人の前には出てこないけど、とても大事なコトがある時は人の前に出てくることがあるんだよ!夢の中に出てくることもあるよ!」(良)

「・・・!」(ソティラ)


 まったく何事もない普通の日常の状態のときにこんなことを言われても全く聞く耳を持つ気にすらならない話しだが、これまでソティラの目の前で起きてきた様々な非日常の有り得ない光景と、今まさにこうして目の前で起きている壮大な天体スペクタクルショーを目にしては、とても聞き流せるようなことなど出来なかった。


 美しい巨大な虹色の膜がこれまで灰色だった無彩色の惑星グドゥルを今まさに全て覆い尽していた。


 あまりの美しさにソティラの目からは思わず涙が溢れ零れ落ちていた。


「どうか頼む・・・夢なら覚めないでくれ・・・」


「大丈夫!夢じゃないよ!お星さまもあなたの仲間達も、あの星に生きる全ての生き物達がみんな元気になるよ!」


「ありがとう・・・ありがとう・・・」


 ソティラは生まれて初めて心から感謝した。何かに感謝するという行為自体無縁の世界で人生を生きてきたが、この時初めて純粋に全く偽らざる気持ちで心の底まで全て搾り尽す程に感謝した。

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