28:初めてのキャンプ
コウモリがいた辺りに近づいてみると、コウモリの牙と思われる白いカケラが落ちていた。これはヒカリ石がないと全く気付かないと思う。
他にはまるでこうもり傘の生地のような黒い布みたいなものが落ちていた。それらの落とし物は追いついてきた早乙女さんに渡した。牙はやはり良質な薬やポーション材料になり、布はテントや合羽、リュックなどの生地として使うと丈夫で防水効果もバツグンな素材になるのだそうだ。もちろん傘の素材にしても良い。
「次からオレ必要ねぇな」という矢吹さんの声がしたが、聞こえないフリをしてしまった。
矢吹さんと自分はしばらく小休止して、早乙女さんからビスケットをもらったので自分の水筒で水を飲みつつビスケットを食べた。矢吹さんも同じ水筒だった。
その間梶山君は壁をまさぐってはピッケルで叩いて鉱石を取り出し、小声で何やらブツブツ言いながら時折鈴森さんに「コレどうスか?」と鑑定してもらいつつ採掘作業をしていた。
夕方4時になったので今日は引き上げることになった。帰りしな時折早乙女さんが地面に何かの液体を撒いていたが恐らく魔除け的な何かだろう。
洞窟を出るとまだ空は明るかったが明るいうちに日の光で鉱石の選別をしたいそうなので、だいたいいつもこの時間に戻ってくるそうだ。
梶山君は早乙女さんのリュックから鉱石を取り出し、日の光を充てて鉱石を選別しながら巨大タンスに移し替えていった。タンスの上の方は小さめの引き出しがついており、見た目にも綺麗なものはそちらに入れて、そうでもなさそうなものは割と無造作に下の方の大きな引き出しに入れていた。
手代木さん、鈴森さん、早乙女さんは鍋や食器などを手にして、いかにもこれから料理をする支度をし始めた。
矢吹さんが「冴内、火起こしを手伝ってくれ」と言ったので返事をしてついていく。
まずはかまどにくべる薪を持ち運ぶのだが、そこでふと矢吹さんが「お前、下手したら素手で薪き割りとか出来んじゃね?」と真顔で言ったので「石が割れるなら木も出来そうですが、加減が難しそうですね」と応えると「面白そうだからやってみてくれよ」ということでやってみることにした。
ホイ、といって矢吹さんが切り株の上に置いたのは切り株の半分くらいの直径の木だったがそれでも結構太い。ほぼノーモーションで軽く叩き割ってみたところ、いとも簡単に真っ二つになったどころか下に敷いていた木の幹までも真っ二つになってしまった。「ヤベっ・・・見なかったことにしよう」と矢吹さんがつぶやく。
数分後、矢吹さんが自分に向かって太い木を放り投げ、空中に漂うそれを自分がチョップで薪き割りするという奇妙な光景が繰り広げられた。みるみるうちに十分すぎる程の薪が積み上げられていった。
その後かまどに戻って火を起こしたのだが、ほとんど矢吹さんが手際よくおこなっていった。自分はほとんどキャンプ経験がないので、そんな話しを矢吹さんにすると「魔法使いがいると火起こしはあっという間ですげーラクなんだ」と言っていた。
そうしていると手代木さんと鈴森さんが、それぞれ鍋を持ってきて、かまどの鉄網の上に置いた。米と汁物のようだ。しばらくすると早乙女さんが何かの肉とスライスした玉ねぎとピーマンを乗せた鉄板を持ってきて同じように火の上に置いた。
時刻は6時近くなり出来上がった料理を小屋の中に持ち込んだ。小屋の中には10人掛けのテーブルとイスがあった。
炊き立てのご飯と、根菜やキノコがタップリ入ったシシ肉の味噌汁、シシ肉のステーキとその肉汁を吸った付け合わせのオニオンスライスとピーマンが今夜の食事だった。
やはり料理は暖かいうちに食べようということで皆黙々と食べた。ご飯も汁もタップリあったが、あっという間に空になった。一番もの凄い量食べていたのは早乙女さんで彼女だけ全ての器が倍の大きさだった。
食事後は皆で食器を洗い、交代で簡易シャワーを浴びて明日の打ち合わせを軽く行い解散。早乙女さんはそのまま小屋にあるロフトで寝るようで自分達はテントへと向かった。
時刻はまだ9時前だが全員寝袋の中に入って寝た。他人が気になって眠れないとか、誰かのいびきなどで眠れなかったらどうしようとか考える間もなく、すぐに意識はなくなっていった。