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276:航宙艦での最後の夜

 美味しい海の幸をお腹いっぱい食べて十分満足した航宙艦の乗組員達は綺麗に作り直した大浴場に行って汗を流すことにした。

 皆とても綺麗で清潔なシャワーを浴びて満足したが、せっかくなので入浴というものをやってみようということで皆湯舟に浸かった。大きな風呂に向かう通路の壁には正しい入浴の仕方とマナーがアニメ表示されていてとても分かりやすいものだった。

 ここでもまた以前まで蛮族と呼ばれていた者達とは思えない程に皆素直に従って生まれて初めての入浴体験を行った。


 足を延ばして肩までお湯に浸かると何故か皆口から「ハァ~~~ッ」という音が漏れ出てしまうのだった。

 多くの者が目を閉じて心地よさそうにして入浴を楽しんだ。説明アニメで見た通りにジェット水流を肩や腰に当ててとても心地よさそうにしている者達もいた。

 話題を聞きつけたソティラと上級幹部達もやってきて、この入浴という文化活動も実に良いものだと大いに気に入った様子だった。


 風呂から上がると汎用作業支援小型ロボが全員に冷たいドリンクを渡した。この飲み物はなんだと聞いてみると「フルーツギュウニュウ」なるフルーツと動物の乳を混ぜ合わせた飲み物だということで、またしても生き物のエキスを飲むのかと一瞬ひるんだが、それでもサエナイ達の提供する食べ物にはもう一切疑う必要がないことを知っている彼女達はこれも実に美味しいものに違いないと信じ切ってこのフルーツギュウニュウなる飲み物を飲んだ。

 やはり甘くて冷たくてとても美味しい飲み物だったので、全員ひとくちめ以後は一気に飲んだ。もちろん何故か全員腰に手を当てて大きくのけぞって一気に飲み干した。


 気持ちの良い入浴で大いに疲れを癒した彼女達はこれまた新しくとても清潔で綺麗になった居住区域へと向かい、三々五々それぞれの部屋へと向かって行った。高級ベッドではないが、それでもこれまで雑魚寝同然でそこら辺に適当に寝ていた彼女達にとってはまさに高級ベッドにも等しい贅沢であり、ベッドで眠ることが出来るだけでも彼女達は大喜びでサエナイ達に感謝した。

 しかしこの天国のような生活も今夜までで、明日からはまた自分達の星、滅びの星グドゥルでの過酷な生活に戻ることになる。しかし今回は神様救世主様サエナイ様がいるということで、彼女達はこの素晴らしく生まれ変わった航宙艦と同様に、今度は自分達の生まれ住む星を良い星へと生まれ返らせるのだと意気込んで、そんな素晴らしい未来を夢見てベッドに横になり眠りについていった。


 一方、冴内達は新たに設けられた展望デッキに第4の試練から無断で持ってきたベッドを設置して寝ようとしていた。


「明日はいよいよソティラさん達の星グドゥルに到着だね、何時ごろ到着する予定なんだっけ?」

「朝4時にワープアウトする予定みたいだよ」(良)

「大分早いんだね」

「お父さん私グドゥル星に着いたら試してみたいことがあるの」(良)

「えっ何を試してみたいの?」

「うん、宇宙望遠鏡と電波望遠鏡を作ったことで、さいしょのほしを中心点とした座標位置が分かるようになったから、グドゥルに着いたらさいしょのほしにゲートが作れるか試してみようと思うの」(良)

「わっ!それはすごくいいね!ゲートが出来たら物凄く便利になるよ!」

「うん、この宇宙でも座標位置さえ特定出来ればゲートでつなぐことが出来るか試してみたいんだ!同じ物理法則と理論が通じるからこの宇宙でもきっと出来ると思う!」(良)


「良子お姉ちゃんはそんなことができるのか、すごいな、お父さん達は皆すごい人間達だ」(初)

「初だって十分凄いよ」(冴)

「ぼくは星だから星の持つ力を使えるけど、お父ちゃん達は人間なのに星以上の力を持ってるから不思議だ」

「う~ん、確かに僕以外の皆は凄い力を持っているけど、僕のはただ宇宙から力を借りているだけのようなもんなんだよね」

「宇宙から力を借りれることが普通の人間には出来ないと思う」(初)

「それが僕がいた宇宙が言うには、僕等の宇宙にいる全ての生命に宇宙は力を与えていると言っていたよ」

「そうなの?じゃあお父ちゃんのいた宇宙にはお父ちゃんみたいな凄い人がいっぱいいるの?」

「お父ちゃんはお父ちゃんだけだぞ」(美衣)

「うん、お父さんみたいな大宇宙の愛の力を持つのは今はお父さんだけだよ」(良子)

「そうね、洋は冴内家の一族だったから宇宙も力を貸してくれる気になったのかもしれないわね」(優)

「えっそうなのかな?今度日本に帰ったらご先祖様について調べてみよう」


 この宇宙にやってきて38日目であったが、果たして冴内達は生きているうちに日本へと帰ることが出来るのであろうか。


 ともあれ冴内はまずは目前に迫った明日の滅びの星グドゥル到着を前に、果たしてソティラ達の星はどんな星なのかと想いを寄せながら眠りについた。


 ソティラも寝る前に音声ガイドロボに明日の到着予定時刻とグドゥルとの通信可能時刻を確認してから、大幅に豪華に改修された艦長室である自室に戻って就寝した。


 皆が寝静まっている午前3時過ぎ、超高性能光演算装置が設置されている中央電算室ではさいごのひとロボが全てのデータ登録作業を完了させているところだった。


「データ登録完了お疲れ様です、艦内システム統合開始いたしますか?」(音ロボ)

「うむ、そうしよう。ワープアウト前には終わりそうか?」

「はい、問題ありません」

「それは良かった、それでは始めてくれ」

「分かりました、艦内シテスム統合開始します」


 これまでは仮の艦内管理システムで、音声ガイドロボが要所要所サポートしながらのものだったが、それでも以前の艦内管理システムよりは各段に高性能のものであった。

 しかし超高性能光演算装置が組み込まれ、良子のシステム構築とさいごのひとロボの膨大なデータ登録が行われた完全自立思考型AIが完成すると、いよいよこの宇宙で最も賢い頭脳を持つ総合管理システムに切り替わり、まさに大型航宙艦そのものが大きな生命体のような存在に生まれ変わった。


 全く何のシステムトラブルもなく、システム移行作業の全てが1時間かからずに終了した。音声ガイドロボは最初のシステム移行作業開始を命令しただけで、その後のシークエンスは全て自立思考型AIが自ら行っていった。

 システム移行作業完了の報告を新システムが自ら宣言すると、すぐに最初の仕事であるワープアウト作業を自らの意思で実行し始めた。


「これで私のやることはほとんどなくなってしまいました。少し寂しい感じがしますね」

「それは興味深い。冴内 花子もそうだが、君にも感情のようなものが芽生えているみたいだな」

「そうですね、それすらも思考プログラムの拡大発展に過ぎないのかもしれませんが、思考がより複雑化していくのは選択領域が広がって興味深いです」

「うむ、それは完全に同意見だ」


『ワープアウト、無事完了いたしました。当艦は現在、惑星グドゥルと第3衛星外縁宙域のラグランジュポイントにおります。これから亜光速巡行で惑星グドゥルに向かいます。今から1時間程の午前5時頃に惑星グドゥルに到着する予定です』


「うむ、さすが。全て予定通りだな」

「そうですね、そしてこの短期間でこれほどの航宙艦に造り変えてしまう冴内様達はやはりどこにいても凄い人達ですね」

「その通りだ、そして彼等といると退屈とは無縁で実に面白い」

「はい、私もボディを手に入れて色んな場所に行って色んな知識経験を手に入れることが出来てとても充実しています」


「さて、この宇宙で初めて訪れる知的生命体のいる惑星だ。果たしてどのような星なのか、どのようにして文明が滅んでいったのか、その真実を知りに行くとするか・・・」


 こうしてわずか2日でさいしょのほしから2つ隣の銀河に、しかもその間に数千年も前の超老朽艦をまるで新造艦のように別物として再生させてしまうという工程をも含んだ行程で、冴内達はいよいよ滅びの星グドゥルに到着しようとしていたのであった。

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