表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/460

274:歓喜のシアターホール

 食堂奥のキッチンでは冴内達も優と花子小隊が作ってくれたケーキを満足げに食べていた。


 良子は「超高性能光演算装置の製作に取り掛かっていて頭を使うから糖分が沢山必要なんだ」ともっともらしい言い訳を言いながらチョコレートケーキを1ホールまるごと食べて、美衣も「アタイもゲージュツのソーサク活動をしているから糖分を当分の間沢山取る必要があるのだ」と適当な言い訳をして、優に頼んでいちごとメロンを左右半分ずつ乗せたフルーツケーキを1ホールまるごと食べた。ちなみに二人ともハーブティーではなくさいしょのほしから一緒についてきてもらったヤギに似た4本足の動物のしぼりたてのミルクをたらふく飲んだ。美衣も良子もお腹がパンパンに膨れ上がっていた。


 夜は久しぶりにお寿司を食べたいと美衣は思ったが、第3農業地のシーカー達からもらってきた最高級のお米は全員に盛大にふるまえる程たっぷり残っているわけではないので、どうしたものかと思案していたところ、冴えない冴内の割には冴えてる提案として「それなら五目ちらし寿司にしたらどう?」と軽い気持ちで何気なく言ってみたところ「それならさいしょのほしで初と大量に刈り取ってきた自然米でも美味しく食べるかもしれない!」と、美衣はさすが父ちゃんだと大いに感心して、夜は新鮮な海の幸をたっぷり使った五目海鮮ちらし寿司にしようと力強く宣言した。

 ついでに白身魚のフライや各種てんぷらも作りますねと花子小隊が提案し、この航宙艦での最後のディナーは海鮮祭りにすることにした。


 夕食の楽しみが出来てヤルキも出てきたので、各自作業を再開した。

 美衣の芸術創作活動も良子の精密部品製造活動も冴内と初のエンジン部品製作活動も最終段階に入っていた。


 最初に製造が完成したのは良子の超高性能光演算装置で、汎用作業支援ロボ達と共に装置の取り付けとシステム移管作業を開始した。超高性能光演算装置は一辺が5メートルの立方体形状であり、航宙艦の船体中央部に極めて頑丈かつ厳重に守られた隔壁内に設置された。さいしょのほしにある冴内ログハウス近くにある超高性能光演算装置の半分程度の大きさと性能であったが、それでもコッペパン号をも凌ぐ程の性能で、この宇宙に存在するあらゆる航宙艦に搭載された演算装置の中でも桁違いに最高性能のものだった。


 良子が設置完了をさいごのひとロボに告げると、さいごのひとロボも直々にやってきて、さいごのひとロボが膨大なデータの登録を行い、システム移管作業を良子が行った。良子の方の作業は夕食までには終わる予定だが、さいごのひとロボによるデータ登録は夜通し行われ、作業完了は滅びの星グドゥルに到着する少し前くらいになる予定だった。


 冴内達の方もエンジンやスラスターの部品単体の製造は完了しており、さいごのひとロボの指示がなくても作業が継続出来るようになったのでさいごのひとロボは良子の元へ行き、冴内と初は空間に立体投影された組立説明図通りに部品を組み立てる作業をおこなっていた。こちらも夕食前には組み立て完了の予定だった。

 ただしエンジンもスラスターも完全に組み立ててしまうと通路よりも大きなサイズになって運搬出来なくなってしまうので、最終組み立ては滅びの星グドゥルに到着してからおこなう予定である。


 芸術家美衣先生の創作活動の方も順調で、残る部分は航宙艦後部のみという段階になっており、こちらの方は現状美衣先生の美的センス的に非常に可愛くない古くてゴツくて不格好なエンジンノズルを、非常に可愛い大好きな初と冴内が作った新型の宇宙粒子放出スラスターベーンに交換してから形を整えなければならないため、極めて遺憾で忸怩たる思いではあるが、滅びの星グドゥルに到着するまではこのままの状態で我慢することにした。

 それでも改修前の状態と比べたらまるで別物で、某人気住宅リフォーム番組のアナウンサーもいつもよりも強く「なんということでしょう!」と言うに違いない程に見事なまでに美しく優雅で気品あふれる純白の船体へと変容していた。

 良子の超高性能光演算装置と同様に、この航宙艦の姿もこの宇宙に存在するあらゆる航宙艦の中でダントツに美しいフォルムの船体であった。

 美衣先生はワープ移動中でワープ空間を航行しているにも関わらず、航宙艦から少し離れてワープ空間に漂いながら船体を眺めてウンウンとひとまず満足げに頷き「これは新しい名前がいるな・・・そうだ!父ちゃんに名前を付けてもらおう!」と意気込んだ。


 食堂では優と花子小隊達が米を研いだり魚を捌いたりエビやカニに似た生き物の殻をはいでいたり、貝の身を取り出したりと大忙しだったが、途中から美衣も参戦してくれたので一気に作業は加速した。

 程なくして冴内と初もやってきて米研ぎと炊飯作業を手伝った。


 一方航宙艦の乗組員達の方も内装作業はほぼ完了しており、次に完全に生まれ変わったこの船の各種操作説明を学習していた。音声ガイドロボがあちこちの空間に出現し、まずは全員が覚えるべき事柄を分かりやすいアニメーション動画を用いながら説明し、その後でそれぞれの担当チームごとに異なる各種設備の操作説明を行った。

 乗組員達は全員とても真面目に真剣に取り組んでおり、冴内達と出会う前の蛮族のイメージとは大分かけ離れたものになっていた。

 学習と同時にシミュレーション練習も入念に行われ、乗組員達の呑み込みも早く彼女達はどんどんエキスパートになっていった。

 とはいえ、基本的に航宙艦の管理は全て自動で思考AIが行うので彼女達が学習しているのは、異常事態が発生したときの緊急対応がメインだった。それ以外はトイレの使い方とか正しい入浴方法とか、運動施設での器具の使い方や娯楽設備での遊び方など、子供でも分かりそうなことの説明だった・・・


 早速覚えたことを実践しようということで、運動施設に行ってトレーニングマシーンを使ってみたり、娯楽設備に行って様々な遊具などを使ってみた。残念ながら何世代にも渡って日々生きていくだけで精一杯だった彼女達は文化的行為というものに完全に無縁になってしまったので、今一つ面白さと必要性が分からなかった。彼女達が文化文明を取り戻すにはまだしばらく時が必要だった。


 ところがそんな彼女達にも理解できる娯楽が発見された。きっかけは一人の情報担当リーダーの質問から始まったもので、救世主サエナイについて詳しく知りたいと問い合わせて見たところ、情報管理AIを押しのけるようにして音声ガイドロボが横入りしてきて「それならば大宇宙神冴内様の冒険活動記録を大型シアターホールで見るのが良いでしょう」と推奨してきた。

 そしてあちこちの空間に「大型シアターホールにて大宇宙の愛の神、救世主冴内様の冒険活動記録を放映するので手の空いている者はなるべく全員視聴しましょう」などという館内放送が流れ、ソティラと上級幹部達も含めて300人全員が千人収容可能な大型シアターホールへと向かって行った。

 ちなみに音声ガイドロボは意図的に食堂奥のキッチンと高性能光演算装置で作業している冴内達にはこの館内放送を流さなかった。


 そしてすぐに大型シアターホールは爆笑と感動の渦につつまれた。文化活動的に分からない部分も多々あったがそれでも基本的に冒険活劇娯楽映像として再編集されていたので、彼女達にも十分理解出来る内容になっていた。映像に合わせてこれはどういう状況だったのか分かりやすく解説も入っており、誰もが爆笑する例の乗馬シーンでは彼女達も生まれて初めて腹を抱えて苦しくなるほどに大笑いし、あの神様達がズタボロになりながらも強敵に挑んでいく姿に感動して号泣した。

 特に第4の試練のボス戦でのボクシング対決で、冴内の顔が見るも無残な姿になっていくのには大泣きする者続出で、しかし最後に虹色に光り輝くチョップで大逆転勝利をおさめたときは全員立ち上がって飛び跳ねて大喜びして大型シアターホールは歓喜の渦に包まれた。

 大型シアターホールの防音設備性能は完璧だったので一切外部には音も振動も漏れなかった。


 大型シアターホールでそんなことが行われていることなど一切知らずに食堂奥のキッチンで酢飯作りにいそしんでいる冴内は「なんだか静かだね」と極めてのんきなセリフを口にしていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ