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273:歓喜のケーキ

 食堂付近は大人気で人が溢れているためソティラ達は他の者達と同様に通路の床にそのまま座っておやつを食べることにした。


 おやつとはいえかなりボリューム満点で、トレイの上に乗っているのは2種類のフルーツケーキとチョコレートケーキだったが、当然ソティラ達はケーキなど見るのも初めてだし、そもそもお菓子という存在そのものを知らなかった。


 ただ砂糖という調味料については知っており、たまに疲れたときに舐めると腹の足しにはならないが少し疲労が回復したような気がする甘い粉だという認識で、今も漂ってくる甘い香りからは砂糖が使われている食べ物だろうということは想像出来た。


「この2つはすごく綺麗な色ですね、上に乗ってるのは何かの植物ですかね?」

「確かフルウツとかいう甘味のある植物の実だな」

「フルウツ・・・ですか」

「こっちのこの・・・何とも酷い色の方はなんでしょうか?」

「確かに良い色ではないな・・・コレはアタシにも分からん」


 ソティラ達は周りを見渡し観察すると、確かに黒茶色のものは食べるのを躊躇している者が結構いたが、意を決して食べた者の表情が急に変わって活き活きした良い笑顔になり、パクパクと手を止めることなく食べ尽して、幸せいっぱいといった感じの満足した顔になったのを見た。


「食べるとまんざらでもなさそうですぜ」

「そうだな、よし、アタシらも食べるとしよう」


 ソティラ達はそれでもやはり最初に黒茶色のものではなくフルウツが乗せられた方を小さなフォークでひとくち分切り取って口に入れた。


「「「 ーーーッ! 」」」


「なっ!なんだコレは!」

「甘ッ!ウマッ!柔らかッ!」

「おい!コレは何という食べ物だ!?」

「ソレハ フルーツケーキデス」

「フルウツケーキ・・・ケーキというのか?」

「ソウデス ケーキデス」

「この黒いのもケーキなのか?」

「ハイ クロイノハ チョコレートケーキデス」

「チョ・・・チョクレイト、チョクォレイト?」

「ソウデス チョコレートデス」

「チョクォ、チョコ、チョコレェト・・・」


 ソティラ達はフルーツケーキのうち、一つ目のいちごケーキをあっという間に食べ終えた。ちなみにいちごはさいしょのほしから優が採取した様々な野イチゴで日本でもよく見る大きないちごが真ん中に乗っており、他にも小さい様々な野イチゴを潰してゼリー状のソースにしたものをスポンジの積層の間に挟んでいた。


「コレはなんという食べ物だ!なんというか・・・確かに幸福感溢れる食べ物だ!」

「そうですね、コレは肉みたいにパワーみなぎる栄養補給の食べ物って感じじゃないですが、なんかこう・・・嬉しい気持ちになりますね!」

「この甘くてフワフワして柔らかいパンのようなものと、さらに甘くてなめらかな白いクリーム、そこへきてこの赤いフルウツが少し酸っぱいけれども実に爽やかで甘さと良く合う!こういうものを考えつくだけでも凄いことだ!」


「ボス!こっちの緑色のケーキもイケますぜ!」

「なに!?そうか!よしアタシも!」

「オォーッ!こっちのケーキも実にウマイ!」


 ソティラが次に食べたのはメロンケーキだった。ケーキのてっぺんにカットされたメロンが乗っており、やはりスポンジの隙間にはメロンのゼリーソースが積層状態で挟まれていた。


「こっちのは酸っぱくないフルーツだが、このシャクシャクした歯ごたえと爽やかさも実に良いな!」

「先に赤い方を食べておいて正解でしたねボス!」

「その通りだ!こっちを先に食べていたら赤い方の酸っぱさが増していただろうな!」


 ソティラ達はメロンケーキもあっという間に食べ尽して、残るはチョコレートケーキのみという状態になった。


「フーッ・・・残るはこの黒いやつか・・・その前にいったん飲み物をいただくとしようか」

「そうですね!」


 上級幹部の一人が飲み物の入った筒のフタを開けてソティラのカップを受け取り飲み物を注いだ。


「あっどうやら温かい飲み物のようですぜ・・・なんとも不思議な香りがする飲み物ですな」


 ソティラがカップを受け取るとカップからの湯気と共に鼻に入ってくる香りがどことなく気分が安らぐものだった。ソティラはフーフーと息を吹いて冷ましひとくち口に含んでみた。するとなんともまろやかな舌ざわりでほのかな苦味と渋みの奥にほんのわずかな甘味も含まれていた。この飲み物は何だと聞くとオチャという植物の葉を煎じた飲み物だという答えが返ってきた。煎じたという言葉の意味が分からなかったが植物の葉を利用した飲み物だということで理解した。ソティラが口にしたのは地球のハーブティーに近いお茶だった。


「なんだかこのオチャとかいう飲み物は飲むと心が落ち着きますな」

「うむ、確かになんとも心安らぐ飲み物だ、そしてこの甘いケーキを食べた後に飲むと口の中がさっぱりとして実に相性が良いな」

「なるほど!その通りですね!」


「さて、では残った黒いのに挑むとするか・・・」

「「「 ・・・ゴクリ 」」」


 上級幹部達が見守る中ソティラは小さなフォークで黒いケーキを少しカットしてそのままためらうことなく口に入れた。


「・・・・・・!!」

「ど!どうですかボス!?」


 ソティラは上級幹部達に答えることなく続けざまに小さなフォークで今度は大きくカットして黒いケーキを食べ続けた。

 それこそが一番の答えだとばかりに上級幹部達は納得し彼女達も黒いケーキを口にした。


「「「・・・!!」」」

「「「ウッ・・・ウンマァ~~~イ!!」」」


 上級幹部達はこれまで一度も出したことがないような、まさに女子の声を出して喜び叫んだ。


「一体コレは何ですかい!?これは格別ですぜ!この何とも言えない苦味というか何というか・・・それなのに甘くてとんでもなくウマイですぜボス!」

「いや全くだ、コレには驚いた。こんな食べ物がこの世の中にあるなんて信じられん!」

「そしてまたこの黒茶色の何かが口の中で溶けていくのが実に良いですね、あぁこれは実にウマイ!」

「これも先に食べなくて良かったですねボス!最初にコレを食べていたら、余計最初に食べた赤いのが酸っぱく感じたかもしれませんぜ!」


「うむそうだな!・・・だが待てよ・・・そうか!分かった!このオチャとかいう飲み物!これを間に挟んで飲めばその都度味がリセットされるんだ!」

「なるほど!だからこのオチャという飲み物はほんのり苦味と渋みがあるんですね!甘さをいったんリセットする役割があるというわけですか!」

「すごいなサエナイ達は・・・そこまで計算しているのか・・・」


「これはやはりその・・・カミサマとかいうものだからこそ為せる業ってやつなんですかね?」

「そうだな、とてもじゃないが我々のような人間には考えも想像もつかないものだぞこれは」

「やっぱりサエナイ達は本物の救世主ってやつなんですかね?」

「そうだな・・・この船を一夜でとんでもない姿に変えてしまうことといい、そもそも全員生身の身体のままで宇宙に出て平気という時点で我々人間とは全く別の存在だ、これこそかつての古代文明人が言っていたカミサマとかいう存在、我々を救ってくれる救世主で間違いないだろう」


「や・・・やりましたねボス・・・アタシらはとうとう・・・うぅっ・・・とうとう・・・」

「泣くな!泣くのはまだ早い!確かに皆これまで必至に生き残るために誰よりも尽力してきたのは分かる。だから人一倍この奇跡を喜ぶ気持ちも分かる。だがまだだ、まだこれからだ。これからアタシらの星に戻り、本当にサエナイがアタシらを救ってくれるのか、それをこの目で見定めるまではまだ気を許してはダメだ!」

「はっ!はい!すいませんボス!ついこのケーキの美味しさに気が緩んでしまいました!」

「ハッハッハ確かにそうだな、このケーキを口にしては気が緩んでしまうのも仕方がないな!」


 ソティラと上級幹部達ですらここまで気が緩んでしまう程に甘~い誘惑をもたらすケーキの魔力で、他の乗組員達などは完全に気が緩んでしまい、このケーキのためだけにでも冴内達に絶対服従を誓ってもいいとすら思ってしまう程なのであった・・・

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