27:コウモリ
目線の先は確かに真っ暗な洞窟なのだが、合計4個のヒカリ石を持ち歩いているので自分達の周囲は非常に明るい。
二人で歩いていると矢吹さんの携帯から「その辺りで」と手代木さんの声がした。「了解」と返答して矢吹さんは立ち止まり、そっとヒカリ石を地面におくと岩壁をまさぐって「この辺りかなぁ」と言った後でいきなり壁に向かってパンチを放った。
ボグッ!という鈍い音とともに壁にくぼみが出来た。矢吹さんはそのくぼみにヒカリ石を置いて「よし、次行くか」といって進み始めた。
同じようにして自分のヒカリ石も使って合計4個設置した、距離は大体100メートルだそうで、先ほどの手代木さんの声は25メートル間隔を示していたそうだ。
「その先400メール前方にコウモリかトカゲがいます」と手代木さんの声が聞こえた。
「了解、1個借りてくぞ」と矢吹さんがいうと「お願いします」と手代木さんが返答した。
矢吹さんは最後に置いたヒカリ石を手に持つとそのまま歩き始めたので後を追った。
「コウモリとトカゲですか?」
「あぁコウモリだと面倒くせぇな、飛ぶやつは大体面倒くせぇ」
「ハチと戦ったんですが、全然当たらなくて参りました」
「おお!ハチとやったのか!よく倒せたなお前」
「それがまったく攻撃が当たらなくて、そしたら毒針をかすってしまったんです」
「えっ!それヤベーやつじゃん!」
「はい、もうパニックになっちゃって頭に血が昇って、かすった腕で思いっきりチョップしたら倒してました」
「マジか!毒はどうした!?」
「それが良く分からないのですが、毒は消えて傷もなくなってました」
「いやいやいや!フツーねーからそんなの!」
「えっ!?・・・あっでもその時レベルアップしたのでもしかしたらそれで治ったとか?・・・」
「いや・・・そんなの見たことも聞いたことねぇけど・・・そういうのもあったりすんのか?」
「いや聞いたことないですよ」と手代木さんの声が矢吹さんの携帯から聞こえてきた。
「私もそんな話聞いたことも経験したこともないですよ」と同じく若干小さめの音で鈴森さんの声が続いた。
「そうだ、ちょっとお前のステータス見せてくれるか?」と矢吹さんが言ったので、どうぞといって左手をかざした。
「なんだこりゃ!?チョップだらけで意味が分かんねーぞ」
「えっ!?冴内君、ちょっと私も自分の携帯端末で見させてもらっていいですか?」と鈴森さんの声も聞こえたので、「どうぞ」とちょっと大きい声で矢吹さんの端末に向かって応えた。
「・・・これは・・・水平チョップはまだいいとして・・・ポ、ポイズンチョップ?いや、それよりもこのチョップヒール、チョップキュアというのが全く想像がつかないんですが・・・」と鈴森さんの声は驚きで最後の方は声が擦れていった。
「ウーーーン・・・こりゃ実際見てみねぇことには分かんねぇな・・・よし冴内、お前コウモリやってみねぇか?ハチを倒せるんなら大丈夫だ」
「分かりました、ハチを倒した時みたいにやってみます!」
自分が先を歩き、斜め後ろに矢吹さんが続く。しばらく歩くと「来ます!」という手代木さんの声。目を凝らして前を見ると何かが飛んでくるのが見えた。(えっ・・・何アレ?デカくね?)
子供くらいある大きさのコウモリがバッサバッサとやってきた。顔がデカイ顔が・・・そしてなんともキモイ、大きいから余計にキモイ。
「噛まれると痺れるから気を付けろ」と矢吹さんの声。
いやコレ、どうしたらいいんだ?間合いが分からない、とりあえずハチと同じでいいのか?と、考えていたらいきなり耳鳴りがしてきた!
「あぁ超音波だ!マジウゼェ!!」超音波?全く音はしないがジンジン耳鳴りがする!なんか少し距離が近い気がするが不快でたまらないので水平チョップを放つ、今回は右腕で放った。
洞窟内だからなのかボフッ!と少しくぐもった音がしたがコウモリはすぐに消えていなくなった。その距離およそ3メートルくらいで結構離れていた気がする。ともあれこの距離でも倒せてよかった。
「えっ?今・・・何やったお前?」
「えーと・・・その、多分、水平チョップです」
「いやいやいや、全然チョップ届いてねーじゃん!なんで今ので消えるんだよ!」
「・・・衝撃波、でしょうか?」
自分がやらかしたことなのに最後は疑問形になってしまった・・・
「マジかよ!パンチでローソクの火を消して自慢してたオレ、バカみてーじゃん・・・いや・・・オレももっと鍛えれば出来んのか?」とつぶやく矢吹さんを横目に「まだ来ます!」といった手代木さんの声を耳にしつつ、バサバサという音が聞こえてきたので、またあの不快な耳鳴りがするのはたまらんと思い、まだ遠いとは思ったが前方に向かって走りながら今度はかなり強めにヤーッ!という掛け声をあげて水平チョップを思いっきり放った。
驚くべきことに今度は、三日月を横にしたかのような形の光の弧が飛んで行くのをハッキリと見た。光の弧は10メートルくらい飛んで行って消えた。
辺りには静けさだけが残った・・・
振りかえって見ると携帯端末のカメラで今の状況を録画していると思われる矢吹さんがいた・・・