269:コッペパン号では
冴内達の乗る外宇宙開拓用航宙艦の中では盛大に「肉最高!」コールがとどろき響く一方、奇しくも宇宙連盟先遣隊の宇宙人達3人が乗船するコッペパン号内でも宇宙人達は「肉最高!」と叫んでいた。
宇宙連盟先遣隊の宇宙人達3人が乗船するコッペパン号は完全自動操縦で宇宙連盟の総司令艦隊に向けて最高に快適な宇宙の旅を続けていた。
ちなみにコッペパン号の自立思考AI音声ガイドからは宇宙連盟艦隊にはわずか3日で到着する予定だと説明されて宇宙人達3人は驚愕した。もちろん宇宙連盟総司令部とは常にネットワーク回線が繋がっておりほぼリアルタイムで連絡を取り合うことが可能だということも説明してもらった。
コッペパン号の各種設備は非常に快適な居住空間であり、宇宙人達3人は恐らく貴賓室と思われる個室部屋でくつろぎフカフカのベッドで足を伸ばして寝ることが出来たし、清潔なシャワールームで汗を流すことも出来たし、何より定期的に出される料理が非常に美味しいものだった。
簡素なフォルムの給仕ロボットに尋ねてみると、かなり昔に栄えた星の大人気レストランのメニューを再現したとのことで「お肉ロックンロール」とかいう名前の料理で、それは数種類の肉を薄くスライスしてロールしたものだと教えてくれた。
これが非常に美味で見た目がトカゲのドルム・デ・グァルムァルは大絶賛でおかわりを5回もしていた程だった。
他にもその星は冴内 花子の生まれ故郷であり、途方もなく長い間ひとりぼっちで過ごしていたのを冴内ファミリーが宇宙の愛で発見して、家族にしたのだという話しを聞かされ、宇宙人達3人はボロ泣きした。さらに冴内 美衣が先ほど食べた大人気レストランの秘伝のメニューブックを発見したことで彼女の調理スキルは飛躍的に向上したとも説明され、宇宙人達3人は頷きとても納得していた。
その後その星の探検を体験できるVRシミュレーションゲームがあると説明されると、宇宙人達3人は大いに興味と関心を持ち、是非とも我々も体験してみたいということで遊んでみることにした。
結果は惨憺たるもので、最も優しい難易度で痛覚などのリアル再現度もゼロにしたにも関わらず最初の第一ステージの攻略すら出来なかった。
一応彼等は宇宙連盟先遣隊という特別なエリートなのだが、さすがにこの冒険は難易度が高すぎた。
そして冴内達は貨物室で自分達にかかる重力を千倍にして、冴内達のステータスパラメータを千分の一に弱くして、ゲームの難易度を数百万年間誰もクリアすることが出来なかった最高の隠し難易度にしてクリアしたという説明を聞いて、宇宙人達3人は開いた口が塞がらなかった。
結局やはり彼等にとって最も知りたいことであるのと、見ていて最高に面白いエンターテイメントでもある冴内 洋のこれまでの冒険の記録映像を見るのが一番だということで、彼らはリラックスシートに座りVRゴーグルを使ってじっくりと冴内 洋のこれまでの冒険記録映像を見ることにした。
前半は神代入魂の作だけあって、最高に愉快かつ分かりやすい内容になっており、随所に細かな補足説明が入るタイミングも絶妙で、これは非常に秀逸な記録映像であると、宇宙人達3人は製作者のカミシロなにがしとかいう人物を褒め称えた。
そして冴内の初期の頃の冒険で額にツノを生やした美しい白い4つ足の動物にまたがった冴内が何度も落馬するシーンで宇宙人達3人は涙を流す程爆笑し、トドメに冴内の「ゲェッ!」のシーンでは飲み物を吹き出して激しくむせ返る程大爆笑した。
冴内は冴内の故郷の星でもまさに大英雄的存在のようで、その後美しい少女を救出すると、翌日その少女はこの世の者とは思えない程に有り得ない程に美しい女性へと変貌し、二人が結ばれたことに拍手を送り、結婚式の次の日にはなんと赤ちゃんが産まれたというところで少しニヤリとしたり、その赤ん坊がヒト族なのに卵から生まれてきて、しかも既に幼児体型で見事なチョップで自ら卵を割って出てきたのには驚いた。
その後、何やら怪しい門の中に入り、あの冴内達が瀕死の重傷を負いながらも闘い続ける姿に涙を流し、彼らの星々にも存在するカエルにそっくりの巨大なモンスターと冴内が上半身だけで戦う格闘技のシーンでは冴内の顔が見るも無残なものになり、目を背けたくなったがそれでも冴内の闘志を信じて応援し、最後に見事に勝利した時は彼等も大声で雄たけびをあげて大喜びした。
さらに冴内達は門の奥深くへと挑んでいったが、ただ映像を見ているだけにも関わらず彼等も非常に気分が悪くなる程に危険な場所へと冴内達は足を踏み入れていき、そこで映像は途絶えて文字情報と簡単なイラストによる説明記録に変わった。
その説明によると、通常の精神力の人間ではこの先の記録映像を見ただけでも精神が耐えきれず死に至るか致命的な精神疾患になると記載されていた。
また、その場所で冴内はわずか3分で両腕を切断され両目を潰されたと記載されており、宇宙人達3人はしばらくそこで記録映像を中断してクールダウンをしなければならない程にショックを受けた。
「フゥーッ・・・なんと壮絶な冒険人生だベア」
「シュルルッ!冴内殿のあの強さはこうした壮絶な冒険を乗り越えたからこそ培われたのでシュルな」
「それにしても最初の頃の冒険も確かにピンチやケガを乗り越えていましたが、このシレンとかいうゲートでの戦いは凄まじ過ぎます、およそ人間が成し得るものじゃない」
「うむ、まさにその通りだベア」
「シュルルッ!こんなにも過酷な状況を乗り越えてきたにも関わらず、冴内殿からはそのような様子は全く感じなかった。冴内殿は歴戦の猛者が持つ覇気というか圧のようなものが全くない優しい普通の青年でシュルな」
「確か優殿が冴内殿と結婚を決めた時の理由の一つに、強大な力を手に入れても冴内殿一族はずっと変わることのない平穏な精神を保つことが出来ると言っていましたね」
「確かにそんなこと言っていたベアーな」
「シュルルッ!それは確かにある意味凄い能力でシュルッ!」
「これは実に興味深いです、我々は実に素晴らしい稀有で貴重な存在と出会えたのですね!」
「うむ!その通りだベアー!」
「シュルルッ!まさにその通りでシュルルッ!」
宇宙人達3人は一休みして、宇宙連盟総司令部と定時連絡をとった。その際宇宙連盟の方でもほとんど全ての者達が冴内の冒険記録映像を見て大いに感動しているという状況も聞くことが出来た。近いうちに一般公開も検討しているそうだ。
また、宇宙連盟本部ではさいごのひとロボ2号機の情報提供と技術供与によって宙移門の大幅な能力向上が図られることも知らされた。宙移門は冴内達の宇宙ではリングゲート、輪の門と呼ばれているらしく宙移門よりも遥かに遠い距離を移動出来て、サイズも相当大きいとのことだった。
手始めに宇宙連盟本部のある星と冴内達のログハウスがあるさいしょのほしを繋ぐ宙移門を建設予定であることも知らされ、宇宙人達3人は喜んだ。
宇宙連盟の方ではさらに冴内達の冒険記録の解析が進んでいるようで、その後冴内達が数百万年に一度開催されるダイトウギ大会なるものに出場し最短記録で見事全勝優勝したことや、同じく数百万年ぶりに宇宙規模の激震大災害級にまで拡大した宇宙イナゴなる厄災をたった4人で撃退撃滅したという記録についても視聴完了しているとのことだった。
冴内は元々潜在能力は高い方だったが、シレンの門という名の修練場での修行によって一気に能力が高められ、その時の冴内の証言から宇宙と対話したことがきっかけで宇宙の力を借りれるようになったそうだと説明された。
そして冴内が宇宙の力を手に入れたとは言わず、あくまでも宇宙から力を借りているに過ぎないと言うところが彼の人柄を表しており、宇宙連盟評議会の面々の評価も高く、是非とも冴内達を宇宙連盟本部に招き入れたいとのことだった。
これらの事を聞いた宇宙人達3人はまるで自分達の事のように大いに喜んだのであった。