268:肉最高!
汎用作業支援ロボ達と冴内達とさらに航宙艦の乗組員のほぼ全員が協力共同で航宙艦の改修作業に励んでいるため、まだ作業開始から1日目だというのに全体進捗の60パーセントにまで達していた。
その外観も大幅に変容しかけていて、まず先にいびつに追加改造されていた部分は綺麗にはぎとられており、それだけでも以前よりもとてもシンプルで自然なフォルムになっていた。
内装部分の改修作業は航宙艦の乗組員が多数参加していることで外装工事よりもさらに進んでおり、汚れや傷みが酷かった通路や設備がまるで新造艦のようにとても綺麗に清潔感溢れる設備に生まれ変わっていた。
元が外宇宙を開拓と移民目的で航行する大型航宙艦なだけに、かなり頑強でしっかりした骨組みになっており、ちゃんとメンテナンスすることで最新の航宙艦にも劣らない程の船体性能を持っていた。
それに加えてさいごのひとロボと良子による極めて高い技術力による超高性能最新鋭改修が行われているため、改修工事が完了すればこの宇宙において最も優れた外宇宙航宙艦になることだろう。
当航宙艦は惑星開拓のために長い年月を航行することを想定し、自然区画が用意されていたが今は完全に荒れ果てており土は完全に干からびて砂と化しており、植物も完全に枯れ果てていたので、せっかくだからこの自然区画も再生することにした。
やはり第4の試練から勝手に持ってきた植物畑や果物畑の土を少しだけサンプルで取り出し、ベルトコンベヤー式工作機械にて成分解析させて、自然区画の砂と枯れ果てた植物の残骸も全てベルトコンベヤー式工作機械に乗せて分子レベルで分解し再構築してブロック状の土の塊をどんどん作り出した。
もう一度それを自然区画に運び入れ、綺麗に並べ敷き詰めていった。
その後さいしょのほしから持ってきた野菜から種を取り出して蒔いたり、家畜のえさ用に集めてきた草や穀物の種なども蒔いた。
せっかくなのでさいしょのほしから連れてきた大きなニワトリに似た鳥とヤギに似た動物も食料格納箱から取り出して自然区画に解き放った。
完全に外敵のいない場所なので動物達はのびのびと動き回っていた。
また、リラクゼーション設備も復活再生させることにして、大浴場の改修工事や運動施設の充実、娯楽設備の拡充など、当時の設備をより良いものにリノベーションしていった。
やがて時刻は夕刻を周り、精一杯肉体労働をしていた乗組員達は盛大に腹時計を鳴らしていた。
ちょうどタイミングよく館内放送が流れ、今度は花子の声で夕食の支度が出来たので食堂に来てくださいというアナウンスが流れた。
今夜のメニューはシチューでパンは皆さんのお仲間の調理担当の人達も一緒に作りましたというお知らせもあり、調理担当の乗員達が画面に現れて「ハナコさん達の指導の元、信じられない程美味しいパンを我々にも作り上げることが出来た。是非とも皆にこのパンを食べて欲しい!」と力強い自信に満ちた目で熱く語っていた。
乗組員達は期待に胸を膨らませながらも腹はへこませて、次々と食堂へと向かって行った。
食堂に近付くにつれてまたしてもこれまで嗅いだことのないなんとも食欲を刺激する美味しそうな匂いが漂ってきた。
食堂はすぐに満席になり、食堂から溢れて長蛇の列になったので、汎用作業支援小型ロボ達がシチューとパンとフルーツの盛り合わせセットを運んでいき次々と列に並んでいる乗組員達に配っていき、またしても通路だろうがお構いなしに座り込んでその場で食べ始めた。
冴内達は周りの乗員達が道をあけて食堂まで通してくれた。冴内は自分達も皆と一緒に通路で食べるので良いと言ったのだが、そうはいきませんと皆恐縮して道を譲るのでここで変に意地を張ってはかえって皆に迷惑をかけそうだったので、素直に皆の善意に応えることにした。
冴内達が笑顔でありがとうと皆に声をかけながら歩いていくと、中には感激して泣いている者達がいたり、初からもありがとうと言われてウットリと顔を赤らめる者達も続出した。
冴内達が食堂までたどり着くと大盛況で、特に自分達の仲間の調理担当の乗員がこの美味しいパンを作ったということで、辺りは喜びに包まれており、調理担当の者達も涙を流して喜んでいた。
彼女達は冴内達に手作りの料理というものがこんなにも素晴らしいものだとは思わなかったと感謝した。
自分達が作ったパンを仲間達がこれまで見たこともない満面の笑顔で美味しそうに食べてくれる姿を見て、料理というものは自分も他人も幸せにする素晴らしい文化だということを思い知ったと、感激に打ち震えていた。
それを聞いた美衣はウンウンと満足げに頷き「これからはアタイが直々に料理を教える!」と高らかに宣言した。しかし果たして美衣シェフの超一流の腕前に皆ついていけるのだろうか・・・
ともあれ腹を空かせた冴内達も食事をとることにした。近くでたまたま冴内達の爆食風景を目の当たりにした乗員達は目を丸くして驚き、さながら何かの戦いのように鬼気迫る食べっぷりに絶句した。
どんどんなくなっていくパンとシチュー。とりわけ美衣と良子の食べる速度と量が尋常ではなく、あっという間に大鍋が空になり、パンも既に一人10本は食べていた。
やがて美衣と良子は自らキッチンへ向かい、美衣のお腹辺りにあるポケットから信じられない程大きな肉の塊を取り出し、素手で綺麗にスライスして鉄板でジュウジュウ焼き始めた。一体そのポケットのどこにそんな大きな肉の塊が入っていたのかと驚く一方で、その鮮やか過ぎる手際とジュウジュウと音を立てて焼き上がる肉を見て、やはり神様のやることはスゴイと皆一様に納得していた。冴内の知らないところで徐々に冴内達は神様という存在であるという説が乗組員達に密かに広がりつつあった。
一方ソティラと上級幹部達も通路の最後尾でパンとシチューとフルーツの盛り合わせをもらって、その場で座って食べていた。
「!!コレがパンだと言うのか!?しかもコレを調理担当のアイツらが作ったというのか!!」
「信じられないですぜボス!パンっていうか、こりゃ全く別物の食べ物ですぜ!」
「しかもこのシチューとかいうスープと一緒に食べると抜群にウマイですね!アタシらが食べてるパンよりも外側がとても硬いから、おやと思いましたがこれがまた実にいいですね!」
「ああそうだな!この外側がパリッと硬くて、内側がすごく柔らかいというのが実にいい!」
「ボス!シチューにつけて食べるとスッゲェウメェですぜ!」
「なに!?ホントか!よし試してみよう!」
「アタシもやってみますぜ!」
「「 ~~~ッ!! 」」
「ウマイッ!この硬い外側がシチューに付けることで柔らかくなって実に良い!しかもスープをたくさん吸ってスープの味と一緒にパンを食べれるのはたまらんな!」
「ボス!このシチューとやらに入っている肉も抜群にウマイですぜ!チャーシューの時よりも噛み応えがあってもうタマランですぜ!」
「ホウ!どれどれ・・・あった!ガブリ」
「「 ~~~ッ!! 」」
「これはタマラン!ウマイッ!うますぎるッ!」
「ボスの言う通りやっぱり肉最高ですね!」
「あぁ!この肉も最高だ!」
「「「 肉最高ッ! 」」」
またしても最後尾から「肉最高!」コールが始まり、食堂にまで「肉最高!」コールが届いてきた。
気を良くした美衣は、自分で焼いて自分でバクバク食べてる恐竜肉の切り落としステーキを乗組員達にもふるまいはじめた。
パンとシチューとフルーツの盛り合わせセットに加えてカットステーキが配られていき、それを口にした者達はさらなる喜びと感動をまさに文字通り味わうことになった。
そうして艦内はしばらくの間「肉最高!」コールが鳴り響き続けたのであった。