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266:歓喜のパン作り

 予定していた時間よりも早く300人分の胃袋を満たし終えることが出来て、冴内達にも少し時間の余裕が出来た。


 角煮に使った肉食恐竜の切り落とし肉はまだまだ大量にあるので、今日の夕食はそれらを使ってビーフシチュー風味のシチューを作ることにした。

 この献立ならば美衣が下ごしらえをしておけば後は花子小隊に任せることが出来るので、美衣がやりたがっていた航宙艦の外観を可愛くする作業を行うことが可能となるのであった。

 そういうわけで昼ご飯の調理作業が終わったにも関わらずすぐにシチューの下ごしらえにとりかかった。

 まだキッチンに残っていた調理担当の乗員達は美衣が休憩もそこそこにまた調理作業を開始したことに驚いた。

 こんな小さな子供なのに、その料理の腕もさることながら一体どこにそんなパワーと持久力があるのかと、またしても彼女達の理解と想像の範囲を超える姿を美衣は見せていた。


 すると花子小隊が調理担当の乗員達にパンを作るので一緒に作りませんか?と話しかけた。パンは彼女達にも分かる食べ物だったが、一から手で作るというオリジナル花子の言葉には驚いた。

 どうやって作るのか手本を示すので一緒にやりましょうと言われ、調理担当の乗員達も一応は調理人という自負と純粋な興味心から是非とも自分達にもやらせて欲しいと応えた。

 ところがいきなり量産型花子が自然群生していた小麦に似た植物の種子を両手ですりつぶして粉にする様子を見た調理担当の乗員達はあまりの光景に面食らって絶句してしまった。

 見た目は実に可愛らしい華奢で小柄なロボットなのに、両手の力だけで植物の種をまさに粉々にして粉を作ってみせたのだ。

 さすがにこれはやってみろと言われて出来る芸当ではないと皆黙り込んでしまったところ、さいごのひとロボが今小型ベルトコンベヤー式工作機械1号機が空いているのでそれを使えばより良質で美味しい小麦粉を作れるぞと花子に教えてくれたので、花子小隊は小型ベルトコンベヤー式工作機械のある格納庫へと向かった。そこはかつては小型航宙艇が20艘以上も配備されていた格納庫だったのだが、今では全て解体されてベルトコンベヤー式工作機械がズラリと並ぶ巨大工場設備と化していた。


 調理担当の乗員達も花子小隊について行き、巨大工場設備に到着すると、花子小隊は一番小さいベルトコンベヤー式工作機械に近づき、なにやら大きな棺のような箱から一体どこにそんな量が入っていたんだという程の量の何かの植物をどんどん取り出してベルトコンベヤの端に次々と乗せていった。もちろん棺の様な大きな箱とは第4の試練から勝手に持ってきた食料格納箱のことである。

 するとベルトコンベヤーが動き出し真ん中よりもやや後方にある大きな箱のような装置の中を通過していくと出口から袋詰めされた何かがどんどん出てきた。

 あれは何かと問い合わせて見るとコムギコという麦の粉がいっぱい入っているという答えが返ってきて、調理担当の乗員達は思わず声が出てしまうくらい驚いた。

 ちなみに小麦粉を入れる袋の素材は小麦の茎や葉っぱに加えそれよりも前に汎用ロボを作った時に投入した素材の余剰物質を分子レベルで還元して再構築利用して作られていた。

 小麦粉がタップリ入った大袋はいったん山積みにして、オリジナル花子が伐採した麦の束を全て小麦粉にした後はもう一度食料格納箱へと収納していった。またしてもどう見てもその箱には納まりきらない量の小麦粉の袋が何故か全部入りきって、しかも見るからに華奢で小柄な女の子のようなロボットが軽々とまるで重量を感じさせない仕草で持ち上げて運んでいくので、調理担当の乗員達は徐々にこれはきっと太古の昔にあった「神様」とかいう存在なのではないかと思いはじめていた。


 食堂のキッチンに戻ると花子達は小麦粉の入った袋を食料格納箱からどんどん出していき、別の何かの粉や水を混ぜ合わせて液状のペーストを作っていった。さらにその後花子達はそのペーストを手作業でこねていき丸めたりして細長い楕円形の形状のものを次々と作り始めた。

 調理担当の乗員達がそれは何を作っているのかと問い合わせると、パンを作っているという答えが返ってきて、またしても調理担当の乗員達は驚いた。

 彼女達が知るパンは工場から出てくる長方形のものしか知らず、当然手作業による工程などは一切なかった。

 彼女達の日常のパン作りとは工場から作られた何かの粉の塊のブロックを運搬して、別の機械にセットするだけであり、後は自動的に直方体のパンが生産されてくるのだった。

 彼女達は花子達に何故あなた達は手作業で食糧を作るのか、さっき見たすごい機械を使えば大量生産可能なのではないか?と聞くと、手で作った方が何倍も美味しいし、手で作るのは楽しいよという答えが返ってきて彼女達はその言葉に衝撃を受けた。

 皆さんも実際に作って食べてみれば分かりますよと言って、花子達は調理担当の乗員達にパン作りを教え始め、やがて皆でフランスパンのような細長い楕円形のパンを次々とこねあげていった。


 キッチン備え付けのオーブンではとても300人分のパンを焼くのには不足しているので、パンの発酵待ちの間に花子達は支援ロボを数台引き連れてまたしても小型ベルトコンベヤー式工作機械1号機のところにいって大型オーブンの製作に取り掛かった。

 隕石の残りのカケラや航宙艦を解体して出来た部材をいくつかもらってベルトコンベヤー式工作機械を使ってオーブンのパーツを製作し、汎用ロボと調理担当の乗員達が共同でキッチンへと運んでいき、オリジナル花子が重そうな大きな部品を軽々と持ち上げて組み立てていった。

 あっという間に大型オーブンが出来上がり、十分発酵し終えたパンから焼き始めていった。焼いている間も次々とパンをこねあげていき、ひたすら300人分のフランスパンを作り続けていった。

 手作業に加えて数が数なだけに結構な重労働で、調理担当の乗員達もフーフー言いながらの作業となったが、誰一人として弱音を吐く者はいなかった。

 やがて最初に焼き上がったフランスパンが出来上がり、焼きたてホクホクのフランスパンをスライスして調理担当の乗員達に配り、試食するように勧めた。

 彼女達はもらったパンを手にするととても良い香りがして、表面は硬くパリッとしているが中はしっとりしており、ほのかに塩気が効いていてそのまま食べてもこれまで彼女達が口にしてきたパンとはまるで別の食べ物かと思われる程に美味しかった。

 作り方さえ覚えれば皆さんにも同じものが作れるようになりますよと花子が言うと全員希望に満ち溢れた顔をして、そこからはとても真剣に手作業によるパン作りに励んだ。

 単純にこねるだけではなく適度に空気を含ませたりまんべんなく生地全体をこねている様子をしっかり目で見て学習し、一切手を抜かずに真摯に真面目に一所懸命パンを作った。

 彼女達が丹精込めてこねあげたパンが焼き上がり、試食してみると最初に食べたパンと変わらぬ美味しさだったので、彼女達は感動と嬉しさの余り涙を流した。

 彼女達の姿を見て満足した花子はせっかくなので生地も一緒に作りましょうと言って、小麦粉からパン生地を作るまでの工程も教えることにした。

 各材料の説明と分量、混ぜ合わせる順番、タイミング、手の動かし方、空気を吸わて発酵させるための時間など、とても丁寧にやさしく詳細に教え込んでいった。

 説明を受けた後、調理担当の乗員達は自らパン生地の作成に取り掛かり何度も注意や指摘を受けながらも繰り返し生地作りに挑み続け程なくして花子からOKの認可をもらった。

 彼女達のこの頑張りに一層気を良くした花子は、ここまできたら最後の焼き上げも含めて全ての工程を覚えましょうと言い、焼き上げの火加減やチェックも教え込んだ。


 最終的に調理担当の乗員達はさすがにまだ花子達の監督指示は必要であったが、それでも一から全て彼女達自身の手でパン作りが出来る程にまでなり、その第一号が見事に焼き上がり、味も食感も変わらぬ美味しさであったので感極まって感動の涙が溢れて止まらなかった。

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