265:歓喜の角煮チャーハン
生まれて初めて食べたチャーハンと角煮に夢中になって大満足していた乗員はすぐ近くにソティラがいることにようやく気が付いて飛び上がるように驚いた。
「うわっ!ボス!すすす!すいません!気が付かなくて!どうか!どうかご容赦願います!」
「アッハッハッハ!いい、いい、気にするな!それよりもどうだった?チャアハンとやらの味は?」
「は、はい!朝のラーメンも大変美味しかったのですが、このチャハーンなるものもそれはもうこの世の物とは思えない程に美味しかったです!」
「そうか!それは楽しみだな!あとチャハーンではない、チャアハンだ」
「はっ!はい!チャアハンですね!」
「おいお前、お前も肉は食べたのか?」(幹部)
「あっ・・・はい?肉・・・ですか?」
「そうだ、そこの小皿に入っていた肉を食べただろう?」(幹部)
「あっ!これは肉だったんですか!?なんというか最初はちょっと見た目が気持ち悪かったんですが、なんともいい匂いがしたので、思い切って食べてみたらこれが実に美味しくて、いくらでも食べられそうなくらい美味しい食べ物でした!」
「そうなのか!?」(幹部)
「はい、私の周りの者達も皆同じように最初は戸惑っていましたが、食べ始めてみるとものすごく美味しいのであっという間に食べ終えてすぐにおかわりしました!あと・・・何というか噛み応えがとても気持ちが良くて、なんというか征服感を味わった気分です」
「ホウそうか!お前もそう思うか!なっ、言った通りだろう?本物の肉ってのは実にウマくて征服感を味わえる気持ちになるのだ!」
「分かりましたボス!アタシも楽しみになってきましたぜ!」(幹部)
ソティラ達が着席するとすぐにチャーハンと角煮と中華スープが運ばれてきた。卵と油で包まれた米は黄金色に輝いており、立ち込める湯気から漂う匂いがたまらなく食欲をかきたてた。
「この綺麗な粒々は一体何ですかね?実に良い香りですぜ」
「これは多分・・・イネという植物の種のような気がする。かつて東方の地の古代文明人達の主食だったと学んだ気がする・・・」
「さすがボス!博識ですね!」
「そして・・・これが角煮か・・・クンクン、おっこれも実に良い香りがするな、どちらも楽しみだ!では早速頂くとしよう!イタダキマァス!」
「イタダ・・・マス?」
「フフフ、これはサエナイ達の言葉で食事をするときに言う言葉だそうだ」
「おお!そうでしたか!イダダダマァス!」
上級幹部達は痛々しい言葉を発しつつチャーハンをスプーンですくって一口放り込んだ。すると。
「「「 ーーーッ!!! 」」」
「コレはウマイな!イネの種とはこんなにもウマイものなのか!そしてこの黄色いカケラは卵だ!なんというウマさなのだ!」
ソティラが周りを見ると、上級幹部達は無言で一心不乱にチャーハンをかきこんでいた。喉を詰まらせそうになった一人が中華スープを飲んだところ、これまた目を丸くして驚き、一気に飲み干してスープのおかわりを頼んだ。ちなみにスープにはおかわり制限はなく、なくなるまでおかわりOKだった。
それを見た者達も中華スープを口にすると、やはり一気に飲み干しておかわりを注文した。
「このスープ!リング状に刻まれた何かの植物が入っているだけのシンプルなスープなのに、何というか実に奥深い!全く主張してこない味なのに何故これほどまでに旨く感じるのだ!?そしてチャアハンに実に良く合う!・・・なるほどそうか!これは組み合わせだ!食べ物同士で互いの力を引き出しているんだ!」
周りの上級幹部達が全く一言も発せず、いや、食のカルチャーショックとあまりの美味しさで言葉を失う程に本能の赴くまま黙々と食べ続けている中、ソティラだけが食文化の神髄の扉を開けていたのであった。
とはいえ、ソティラも周りの者達に負けじと、チャーハンの山の攻略を継続した。
あっという間に全員チャーハンの山を攻略し、残るは恐竜肉の角煮を残すのみとなった。
「よ・・・よし、くっ食うぞ!」(幹部)
「ナイフがないがどうやって食べればいいんだ?そのままかじりつくのか?」(ソティラ)
ソティラ達はスプーンで大きな肉の塊を持ちあげてどうすればいいのかほんの少しだけ考えたが、エチケットなどという周りの目を気にするような気質は遥か昔に廃れているので、お構いなしにガブリと豪快にかじりついた。
「「「 ンーーーッ!!! 」」」
「「「 ウッ!・・・ウマァーーーイ!!! 」」」
「ウマイ!何というウマさだ!」(ソ)
「ボス!何ですかコレ!こんな!こんなウメェものが・・・ウッ・・・ウッ・・・」
「ワッハッハッハ!そうか泣くほどウマイか!確かに泣くほどウマイな!」
「ボス!肉っていうのはこんなにも柔らかいものなんですかい!?柔らかいのに噛み応えがあって噛むたびにウマイ汁が出てきて、そして噛むたびになんともいえない快感がきますぜ!?」
「そうだ!これが本物の肉なのだ!ウマイし征服欲を満たす満足感!これこそが本物の肉なのだ!肉最高!」
「「「 肉最高!!! 」」」
ソティラ達の周りの座席に座っている他の乗員達も口々に「肉最高!」と声を張り上げた。
その声は美衣達の耳にも届き、美衣達は満面の笑みでチャーハンを作り続けた。そろそろ予定数量を全て作り終える頃合いになっており、余裕が出てきたので花子小隊が調理担当の乗員達にいくつか調理の基本を教えていた。
包丁を持ったことがないのか、一人指を少し切った者がいたところ、冴内がすかさずチョップヒールと唱える必要もないのに唱えて手をかざした途端、緑色の温かな光で照らされてたちどころに傷口が綺麗さっぱり傷みも含めて消えてなくなった。
調理担当の乗員達はその意味不明理解不能の超能力に呆然として言葉を失いただただ冴内を驚きの表情で見つめ続けた。
朝に続き昼もタップリとこれまで味わったことのない質と量の食事を十分とったので、乗員達はヒマと体力を持て余したので、航宙艦の改修作業をより積極的に手伝うことにした。
汎用作業支援ロボ達が空間に簡易的な図を投影してこれからどういう作業を行い何を手伝ってほしいのか分かりやすくアニメーション映像で伝えると、乗員達はすぐに作業内容を理解してくれて、それぞれに適した人員を彼女達自身で選別して汎用作業支援ロボ達と共同で航宙艦を改修していった。
多くの乗員達が汎用作業支援ロボ達の作業内容をその目で間近に直に見て、その信じられない技術力の高さにひたすら驚くばかりだった。
彼女達では切断や解体に何日もかかる超鋼鉄の船体の鉄骨をいともたやすくスパスパと切断したり、複雑に絡み合った配線を素早く仕分けして、配線が露出していないボックスカートリッジ式ユニットに交換していく様子は驚異的だった。
共同作業の手順としては、まず汎用作業支援ロボ達が危険な切削や解体作業を行い、乗員達が支援ロボと共同して大型の支援ロボに部品を渡したりカートに積んで手で押して運んだりし、次に複雑な配線周りや溶接などの作業を汎用作業支援ロボ達が行った後に、新たなユニット部品を取り付ける作業を乗員達が手伝った。その取り付けには工具が全く必要なく、空間に投影された組み立て説明書通りに手作業でカチッとはめ込むだけで済んだ。新しい内壁モジュールもパネルをカチッと音がするまで押してはめ込むだけでよかった。
こうして人とロボットが協力共同作業を行ったのでどんどん航宙艦は内外共に見違えるように改修されていった。
本来は汎用作業支援ロボットの方が人の支援を行う役割なのだが、ここでは人間の方がロボットの支援をしているのであった。