262:上に立つ者
かなり後列の方でソティラ達も朝ラーにありつけることが出来た。既に艦内はラーメンコールの歓喜の渦の只中にあり、上級幹部達もこの異様な熱気に戸惑う程だった。
汎用作業支援小型ロボがラーメンを運んできて、「オイシイ ラーメン ヲ ドウゾ オカワリ ハ ヒトリ 3カイ マデ カノウ」と言ってラーメンを配ってくれた。
「ボス、コレがラーメンですかい?」
「ああ、だが私が食べたのとはまた違ったラーメンだ」
「えっ?大丈夫なんですかい?」
「乗員達の異様なこの盛り上がり、まさか何か精神作用のある薬物が入っているとか・・・」
「いや、大丈夫だ。そんなことをする連中じゃない」
「しかし・・・」
「まぁ見てろ、私が食べてみる」
「オイ、ハシはあるか?」
「ハイ、ハシ ヲ ドウゾ」
「うむ」
フーッ、フーッ(ソティラ)
・・・ゴクリ・・・(幹部達)
「見てろ、こうして食べるのがラーメンの流儀だ」
ズズー!ズバッ!ズババーッ!
「「「 ーーーッ!!! 」」」(幹部達)
幹部達はソティラが盛大に音を立てて麺を食らっている姿を見て面食らった。
ホフッ!ホフッ!・・・ゴクン!
「「「 ・・・ 」」」(幹部達)
「・・・プハーッ!ウマイ!このラーメンも素晴らしくウマイな!信じられないウマさだ!どうだ!?これがラーメンだ!お前らも食ってみろ!度肝を抜かすぞ!」
幹部達は互いの目を見ながらまだ少し躊躇していたが、お構いなしにソティラが立て続けにどんどんラーメンを食べているその様子を見て、食欲を抑えきれず生唾を大きくゴクリと飲み込んでから意を決して皆ラーメンを食べ始めた。
フーッ、フーッ・・・パクッ・・・
「「「 ーーーッ!!!!!! 」」」
ひとくち食べた途端、幹部全員のけぞるかのように身体を弓なりにして顔をあげた。まるで何かに感電したのかというリアクションのようだった。
それからは他の乗員達と同様に一言も発せずただ一心不乱にがむしゃらにラーメンを食べ続けスープを飲み干し汎用作業支援小型ロボに「おかわりをくれ!たのむ!」と凄い勢いと剣幕でラーメンを要求した。すぐに別の汎用作業支援小型ロボがおかわりラーメンを持ってきてくれたので、幹部達はさらに何も言わずに2回戦目に突入していった。
その後3杯目のラーメンを食べる辺りでようやくその素晴らしい味をじっくりしっかりと堪能する余裕が出来て、神妙な面持ちで妙に頷いたり目をつぶって何かを囁いたりしながら味わっていた。
「これがらーめん・・・これが古文書に記載されていた食文化というものだったのか・・・」
「夢の中ではアタシらの行動次第では食べ物にも困らなくなるし、長生き出来て子孫すら残せるようになるなど、それこそ夢物語の絵空事みたいなことを言っていたが、まさか本当なのか?・・・」
「ボス、実際のところどうなんですかい?」
「確かにまだ半信半疑の所はある。アタシら全員の病を治療して、なんとか飢えを凌いでいるこの状況を一人の人間が変えられるとは到底思えない・・・だが、信じて見たくなる程の奇跡の力を持っているのは確かで、実際にその一部をこの目で見た」
「・・・で・・・これからどうするんで?」
「そうだな、サエナイ達が善意とやらで、アタシらを助けてくれるってんならまずはそれに乗っかってみようと思う。おめでたいことに何の見返りもこちらへの要求もないっていうんだからな」
「しかし表ではそう言っても裏では何かしでかすかも知れませんぜ?」
「そうですぜボス。実は裏でアタシらを支配しようと企んでいるかも知れませんぜ?」
「確かにその可能性も考えるべきだろう。しかしまだサエナイ達と出会って1日足らずだが、奴等と1日一緒に過ごしてみて、そんなことをする連中ではないという確信もある。いずれにせよこのままではアタシらは滅ぶしかない運命にあるわけだし、昨日一晩考えてここは一つかけてみるかという事に決めたのだ」
「確かに・・・このままでは滅びの道しかないのは間違いないですからね」
「とりあえずこのうまいらーめんには毒も入っていないようですし、アタシらの毒も治してくれたようですから、奴等のやりたいようにやらせますか」
「あぁだからアタシら全員でしっかり奴等を見張って、奴等の本性を見定めるんだ。本当に奴らがアタシらにとっての救世主なのかどうかをな」
「「「 分かりましたボス! 」」」
夢から覚めてお腹を空かした乗員達がこれまでの人生で味わったことのない美味しく温かい食事というものを腹一杯食べて人心地ついてようやく少しづつ彼女達が今置かれている状況について考え始めるようになり、彼女達はこれからどうすればいいのか困惑し始めた。
真っ先にソティラに連絡をしてきたのは冴内を捕獲する予定だった戦闘部隊長で、ソティラは冴内の方から完全非武装でノコノコやってきたのでそのままやりたいようにやらせておき、監視と連絡を続けるようにと指示した。
ソティラはこの先の未来には絶望しかない殺伐とした世界で上に立つ者として生まれ、自分達の派閥が少しでも延命存続し続けることが出来ることを最優先に考え行動してきた。
そのことは周りにいる上級幹部達は良く分かっており、ソティラに少なからずの信頼と忠誠を誓っていた。
そのため周りの者達に不安や不信を与えないようにふるまう必要があり、本当のところソティラは内心では冴内達の奇跡的な力と心の優しさを信じているのだが、上に立つ者が余所者にすがって懇願する姿を見せるわけにはいかないので、あくまでも上に立つ者としての威厳を維持し続けた。
これはソティラのプライドに起因しているのではなく、これまで多くの者達を指揮してきた統率者が一気に弱々しい態度で「助けてぇ」などという姿を見せようものなら多くの者達に与える悪い方向の影響が大きいと判断したために取った態度であった。
艦内にいるほぼ全員がラーメンをお腹いっぱい食べ終え、大きな騒乱もなく無事に千食分のラーメンを作りきった冴内達は第4の試練から持ってきたサクランボを一粒食べてリフレッシュした。
「いや~結構疲れたけどなんだか楽しかったよ。もしも学園祭とかの出し物で食べ物屋台とかをやってたらこういう感じだったんだろうなぁ」
「はい!370万年以上前に大きなお祭りをやった時を思い出してとても楽しくて嬉しかったです!」(花)
「父ちゃん、うかれてるばあいじゃないぞ、一休みしたらすぐにお昼の準備をしないといけないぞ。そしてこれから毎回お姉ちゃん達の星につくまで朝、昼、夜の3食をアタイ達が作るんだぞ」
「えっ?あっ!そうなの?次からはここの食堂の人達が自分達で作るんじゃないの?」
「アタイ達は父ちゃんのかみしばい通りに皆をしあわせにするぎむ、いや、義務があるのだ!そしてアタイは英雄で勇者でコックだから皆を美味しいごはんでお腹いっぱいにしてしあわせにする氏名が!いや、指名が!いや、使命があるのだ!・・・うむ、もう少し漢字ドリルで練習しなくちゃ」
「ぼくもれんしゅうする」(初)
「そうだね!美衣の言う通りだ!・・・ってところで、この先何日で彼女達の星・・・えぇとなんていったっけ?」
「滅びの星グドゥルと言ってたわね」(優)
「そうそう、グドゥルにはあと何日で到着するんだっけ?」
「2回のワープで2日後だよ!」(良子)
「そうか、2日なら全然余裕だね・・・って、食材の方も余裕ありそうかい?」
「朝のみんなの食欲なら10年以上はだいじょうぶだけど、お姉ちゃん達の星にいる人達全員の分となると分からない」
「そうだね、さすがにグドゥル星にいる人達全員の分とまではいかないよね。グドゥル星に着いたら僕は皆の悪い病気の治療に専念するから、皆はグドゥル星に着いたら食材探しをしてくれるかい?」
「「「分かった!」」」
こうして冴内達は滅びの星グドゥルに到着するまでの間ひたすら300人分の食事を作るという戦いに挑むことになるのであった。
このままだとグドゥル星に着いた後もただひたすら食事を作り続けるだけの物語になってしまうが、果たして大丈夫なのであろうか・・・




