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261:歓喜のラーメン

 朝5時頃に冴内達はいつも通り腹時計アラームで目覚め、若干の眠気を覚ますために第4の試練から持ってきた例の便利なサクランボを一粒ずつ食べて、完全にシャッキリと覚醒させた。


 早速家族総出で食堂に行くと、花子達は不眠不休でラーメンの生麺を作り続けていた。

 花子達はロボットなので動力が続く限り身体の部品が消耗しない限り無限に不眠不休で活動することが出来るので不平不満など一切発することなく超過労働勤務をおこなっていた。

 それどころか花子は久しぶりにこれから大勢の人達が美味しいラーメンを食べて喜ぶ姿を目にすることが出来ることが嬉しくてたまらない様子で鼻歌を歌いながら上機嫌だった。

 量産型花子にはシンプルな感情プログラムしか組み込まれていないのだが、何故か花子と同じように嬉しそうに働いているように見えた。


 まずは冴内達が朝食がてらラーメンを試食することにした。今回のラーメンは美衣が捉えた巨大海竜の骨をダシにした。理由の一つとして千食分のラーメンを作る必要があるので醤油ラーメンにしてしまうと貴重な醤油がかなり減ってしまうため海のダシを活かした塩ラーメンにすることにしたのである。巨大海竜の骨以外にも大きな貝やエビやカニに加え野菜やキノコなども使ってコクのあるスープダシを作っていた。

 これが実に見事に塩ラーメンに合った。薄く品のある黄金色のスープで見た目からは上品であっさりさっぱりした味わいなのかと想像してひとくち口に含んだ途端それは見事に間違いだったと思い知る程に実に味わい深く様々な海の幸がたっぷりと凝縮された旨みとコクのあるスープだった。

 巨大海竜を蒸して細く裂いた肉とモヤシとニラによく似た野菜を軽く炒めた具材が山のように盛り付けられており、これがまたすこぶる食欲を向上させるものでスープを口に含みながら食べると抜群に美味しかった。

 自然群生の麦から量産型花子達がお手製で作った麺は洗練された高品質小麦から美味しい所だけを厳選して製粉し見た目も黄金色で表面もツヤツヤした最上級の生麺には及ばないものの、栄養価が高く素朴でどこか優しい温かみのある麺だった。当初少しだけボソボソした食感だったのだが、美衣がとってきた海藻を混ぜ合わせることでヌメリ成分が加わりツルツルシコシコした食感を得ることが出来た。しかも食物繊維と栄養ビタミンも加わりおまけに海の香りも加わりさらにとどめのアミノ酸の旨み成分まで加わったので、今回の海鮮塩ラーメンにはこの上ない最適解となった。


 当然この出来に対して全員納得大満足で、朝からラーメンをたらふく食べることになった。


 いよいよここからが本番で、まず昨日さいごのひとロボ監督の元、今も生産され続けている汎用作業支援小型ロボに指示を与えて300人分のラーメンどんぶりを作ることにした。

 次に昨晩花子達が不眠不休で作った生麺を一気に並列で茹でることが出来るように食堂にあった大きな鍋に片っ端からお湯を沸かした。

 さらに巨大な鉄板を用意してその上でラーメンの具材となるニラモヤシ炒めを作るための準備を行った。

 全員目覚めるまで残りあと10分といったところで事前準備は全て完了した。


 午前7時、優の催眠魔法によって熟睡していた乗組員達は全員目を覚ました。寝過ごす者は誰一人としておらず、寝起きは彼女達の生きてきた人生の中で最も気持ちの良い目覚めで、身体がとても軽く疲れなど一切なく気分もすこぶる良かった。

 彼女達は皆口々に「昨日の夢を見たか?」と言い合い頷き合っていた。

 すると突然艦内スピーカーから元気の良い少女の声が聞こえてきた。


「みなさんおはようございます!おいしいラーメンをつくったのでみなさんしょくどうに来てください!一人3杯まではおかわりできます!みんなの分はちゃんとあるのであわてなくてもだいじょうぶです!」


「らあ・・・めん」

「らー・・・めん」

「ラーメン・・・」

「「「ラーメン、ラーメン、ラーメン」」」


 目覚めたばかりの乗員達はまるで何かの宗教的な呪文のようにラーメンラーメンと唱えながら食堂へと向かっていった。


 一方メインコントロールルームではソティラが上級幹部たちに事の成り行きを説明していた。音声ガイドロボが気を利かしてその時の様子が記録された動画を空間に投影していたので、ソティラの話す内容が真実であることを十分証明した。


「ボ・・・ボス、アタシら一体どうすれば・・・」


 上級幹部なので一応それなりに頭の回る連中が集められているのだが、さすがに普通の常識的な文化人ですら冴内達は理解不能なトンデモ能力者集団なので、彼らのやることなすことが全て想像と理解の範疇を超えており、彼女達の頭脳の中は情報の洪水で大混乱状態だった。


「まぁ落ち着け、昨日一晩じっくり考えた。後で説明するのでまずは朝メシを食べに行くとしよう。まずは極上に旨いラーメンを腹一杯食べて、脳みそにも栄養を与えてやれば落ち着いて考えられるようになるだろう」


「ヘ・・・ヘイ、ボス。そうですね」

「ところでらあまん、じゃない、らうめんとは一体なんですか?」

「何か夢の中の最後にオトコを含めた大人と子供の集団が嬉しそうに何かを食べていた絵を見ましたがそれがらあめんなる食べ物でしょうか?」


 悲しいことに彼女達の概念の中には「家族」というものが欠落しており、冴内一家を家族として認識出来ず、オトコを含めた大人と子供の集団としてしか認識出来ていなかった。


「そうだ、それがラーメンだ。あの絵はサエナイが描いたサエナイの家族の絵だ。そして彼らが食べているのがラーメンで私も食べた。これまで人生で味わったことのない衝撃的な程に素晴らしく美味しい食べ物だった」


・・・ゴクリ・・・


「そんなに美味しい食べ物ですかい」

「アタシらよりもウマイもの食ってるボスですらそれほどまでにウマイという食べ物ですか・・・」

「らうめん・・・」

「らあめん・・・」

「ラーメン・・・」


「そうだ、ラーメンだ!皆で食べに行こう!」

「ラーメン!ウォーーーッ!!!」


 一方その頃食堂では大激戦の最前線の戦場のような有様だった。注文出来るのはただ一種類の海鮮ラーメンだけだし客に注文を聞いてから作るわけでもないので、ただひたすらに黙々と機械のようにラーメンを作るだけなのだが、何せ千食分を作るというのとこれまで食事といえば単なるエネルギー補給でしかないという考えの人達の食の概念がガラリと変わる、まさに食文化の大改革大革命が今まさに行われている渦中にいるのだ。それはもう食堂周辺では大変な状況だった。

 最初の一人二人目は結構恐る恐る近づいてきたといった感じで、ラーメンを渡しても怯えた様子で匂いを嗅いだりじっと眺めているだけだったのだが、意を決して食べ始めた途端猛烈な勢いで食べ始め、あちこちで「ウメェー!ウメェー!」と叫ぶ声が上がりヤギか羊でもいるのかといった具合だった。

 そこからは連鎖反応でまるで雪崩かダム決壊か鉄砲水か土石流かといった具合で食堂に大挙して押し寄せなだれ込んできた。

 その間もずっと休むことなくベルトコンベヤー式工作機械から作り出されていた汎用作業支援小型ロボも応援に駆け付けてきて、次々と出来上がったラーメンを運び、食堂から溢れて長蛇の列となっている乗員達にラーメンを配っていった。

 ラーメンを受け取った乗員達は通路だろうがお構いなしに床に直に座ってラーメンを一心不乱に貪るように食べた。

 ラーメンは全員分あるししかも一人おかわり3杯も出来て、さらにどうしてもまだ食べたい人は早い者順でもう一杯おかわりOKというアナウンスも流れていたので、我先に醜い争いをすることもなく全員安心して大人しくラーメンの到着を待ち続けた。

 先頭組の方ではお腹いっぱいで大満足の者達も現れ始め、この素晴らしい食の大革命に大興奮で喜びに満ち溢れていた。

 やがてどこから始まったのか、ラーメン!ラーメン!と復唱する声が鳴り響き、やがてそれは航宙艦の艦内全体に大きくとどろき響く程の熱狂になった。


 中には涙を流しながらラーメン!ラーメン!と、まるで何かの神の降臨を讃えるかのように、感動して声をあげる者達もいた。

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