260:腹ペコ残業
大量に食料を調達し終えて帰投した冴内達はそのままソティラ達が乗ってきた外宇宙開拓移民航宙艦へと乗船することにした。
やることは山積みに反して時間が限られているので、一刻でも早く乗船して作業を開始しなければならなかったのだ。
まずは冴内ログハウスに設置している第4の試練から勝手に持ち出してきたキッチンや大きなベッドや風呂などを美衣の宇宙ポケットに格納し、良子に頼まれて超高性能光演算装置を作り出すことが出来る精密部品製造機械も宇宙ポケットに格納した。さすがに大型ベルトコンベヤー式工作機械はこれから乗船する航宙艦の中には入らないのでそれはそのまま置いていくことにした。
一通り準備が整ったので、冴内達は宇宙連盟の先遣隊宇宙人達3人と固い握手をし、いつかまた会いましょうと挨拶をした。
そして冴内、優、美衣、初、良子、花子、量産型花子3体、さいごのひとロボ、音声ロボ、ソティラの順に手を繋いでリングになり、優のワープで一瞬でソティラ達が乗ってきた外宇宙開拓移民航宙艦のメインコントロールルームへと移動した。
これまで古代文明の高度な科学技術を多少は学んできたソティラであったが、さすがにこんな有り得ない芸当に関する情報は皆無だったので、内心で自分はまだ夢を見ているのではないだろうかと思っていた。
冴内達がやるべきことは大きく3っつあり、まずはこのボロイ、ショボイ、ショッパイ航宙艦をあらゆる面で大改修すること、次にこれから起きてくる乗船員達の胃袋を満たすためのラーメンを恐らく皆おかわりを沢山するだろうから千食分は作ること、最後にソティラ達の星に着くまでに星の住人達への説得用紙芝居をさらに洗練させることがあった。
美衣は全宇宙の万能チョップでこの見た目がイケてない可愛くない航宙艦の見た目をなんとかしたい誘惑にかられたが、ラーメンスープとチャーシュー作りをしなければならないので、まずは航宙艦の食堂に行って宇宙ポケットからキッチンを取り出し、ラーメンスープとチャーシューの仕込みを開始することにした。スープとチャーシューだれの仕込みさえ終わらせれば後は料理の腕も十分に優秀な花子達に任せるつもりだった。
その花子達は大量に確保した麦から各自手作業で小麦粉を製粉し麺の製作に取り掛かっていた。
良子は精密部品製造機械をセッティングして、超高性能光演算装置を作成した。あらかじめ美衣に頼んでコッペパン号から持ってきた素材材料で出来る範囲の性能のものをまずは作成することにした。
さいごのひとロボと冴内はベルトコンベヤー式工作機械の作成にとりかかった。しかしこのままでは材料が足りないので、優と初に頼んで近くにある適当な隕石から素材の回収を依頼した。
音声ガイドは直ちにソティラ達の星に向かう航路を算出し2回のワープで2日後に到着するように計算した。ソティラはその計算速度と航路図の完成度に舌をまいた。
ワープ開始までは亜高速で巡行することになり、その時間まで優と初は片っ端から近くにある隕石を亜高速で移動しながら粉砕し、粉砕した隕石のカケラは重力制御でまるで磁力で操られているかのように自分達の周りに付き従わせていて、ある程度数が揃った段階でさいごのひとロボと冴内がいる座標にワープさせた。
さいごのひとロボと冴内はソティラ達が乗ってきた外宇宙開拓移民航宙艦の中でも最も広大なスペースのある格納庫に居た。
そこは小型航宙艇が複数配備格納されていた程の大型スペースで、20艘程も配備されていたのだが勝手に全てバラバラに分解してベルトコンベヤー式工作機械のための素材や、これから大規模改修する外宇宙開拓移民航宙艦のための部材として再利用する予定だった。そのためがらんどうになった残されたスペースはかなり広大なものになり、これならばコッペパン号にあるベルトコンベヤー式工作機械よりも大きなものを作れる余裕が出来た。
しかし最初に作るベルトコンベヤー式工作機械は敢えて普通サイズの大きさにすることにした。
その理由はまずすぐに完成させることを優先したからで、先に普通サイズのベルトコンベヤー式工作機械を完成させたらすぐに汎用作業支援小型ロボを沢山作ることにしたのだ。
この汎用作業支援小型ロボは量産型花子のような人型で高性能なロボットではないが、これから航宙艦の大規模改修を行うために先に作っておくことで飛躍的に作業速度が向上するので、どうしても先に作っておく必要があった。
外見は角を丸めた四角い箱のようなフォルムでボディ本体内に格納可能な折り畳み式のフレキシブルアームがついていて細かい作業が可能だった。足はなく小型の重力制御装置で浮遊していた。大きさ的には見た目3歳児の初と同じ位だった。
冴内は当然精密工作機械を作れるほどの万能チョップスキルなどは持っていないので、さいごのひとロボの指示通りに物を運んだりチョップで割ったり冴内には皆目理解不能な何かのパーツを組み立てたりという完全なアシスタント役としてこき使われていたがこき使われている当の本人はかなり楽しそうだった。
最初にさいごのひとロボが航宙艦内に元から存在していた工作機械を用いて手作業では作れない単純部品を作っていきそれを冴内が組み立て、良子に頼んで機械の頭脳にあたる高性能な演算装置を作ってもらって思考回路モジュールを作成した。
さいごのひとロボは全てのパーツをまるでブロックおもちゃのように組み立て可能なモジュールとして作成したので、冴内は空間に投影された組み立て説明図通りに組み立てていくだけだった。
とはいえパーツによってはひとつ数百キロ以上もあるので常人では決して一人で組み立て作業することなどは不可能だった。
優からどんどん送られてくる隕石のカケラが結構集まったので初を呼び寄せて、さらにベルトコンベヤー式工作機械の作成要員を増やした。
初が加入したことでベルトコンベヤー式工作機械の製作効率は飛躍的に加速した。作業開始からおよそ3時間でベルトコンベヤー式工作機械1号機が完成し、続けて汎用作業支援小型ロボの大量生産を開始した。
時刻は夜の8時を回っておりいつもならその2時間近く前には食事をとっているので、冴内と初のお腹虫は悲鳴を通り超えて絶叫をあげていた。
すると量産型花子がやってきて山のような大盛りのチャーハンと恐竜肉のから揚げと野菜炒めと中華スープを運んできた。
優も何かのサイレンのようなお腹虫を鳴らしながらワープしてきて3人一緒に花子が持ってきてくれた食事を一心不乱に一言も発することなく黙々とガツガツと食べ続けた。料理単体の美味しさは言わずもがなの絶品の味なのだが、それに加えて空腹という最高の調味料が加わっているので最大級のご馳走だった。
その後は美衣と良子も合流してベルトコンベヤー式工作機械2号機の製作に取り掛かった。美衣はラーメンスープとチャーシューだれの仕込みが完了したとのことで後は花子達に任せてきたと言い、良子の方も精密部品製造機械のセッティングは完了したとのことだった。精密部品製造機械自体は組み上がっているので組み立て作業はないのだが、それを格納するクリーンルームの確保と内装工事と清掃に時間がかかっていたのだった。
超優秀なメカニックが加わったことでさらに4時間程で大型ベルトコンベヤー式工作機械2号機と3号機の2台を完成させた。
時刻は午前0時をまわっており冴内達はそのままその場で風呂場とベッドを取り出して入浴した後倒れ込むように爆睡した。
ソティラも量産型花子から冴内達と同じ食事をもらいその素晴らしい味を堪能した。そしてスヤスヤと何やらとても幸せそうな夢を見てニコニコしている配下の者達の顔をみてソティラも少し微笑んで安心した。
その後自室に戻りこれからの彼女達の行く末をどうするべきかじっくりと深く検討し始めた。
航宙艦で眠っている全ての船員達が目覚めるまで残りおよそ7時間といったところであった。