255:しれっとステータスアップ
しばらくの間沈黙し熟考したソティラは一つ大きく息を吐いた。
「難しいな・・・この私ですら正直あまりの情報量に頭がついていかない。多くの者達は混乱するだろうし、我々の敵対勢力はさらにこの機に乗じて何をしでかすか分かったものじゃない。私はこれまで人工保育器の中で少しだけかつての文明社会について学んだが、他のほとんどの者達は文明社会とはかけ離れた過酷な弱肉強食の中で生きてきたのだ。お前たちが言う【蛮族】とやらだ。そんな原始人みたいな存在にいきなり文明的、平和的になれと言われて果たしてすぐにそんな存在になれるとは思えない」
「でも、このままだと絶滅しちゃうんだよね?それにソティラさんがさっき言った最終目標、皆が食べ物に困らなくて、健康に過ごせて、子孫を残して幸せな生涯を送ることが出来るということを知らせて行けば理解も得られるんじゃない?」
「言うのは簡単だが、実行するのは難しいな」
「やってみなければ分からないよ!美味しいものをたらふく食べれば皆分かってくれると思う!」(美)
「そうね!それでも分からない分からずやには力づくで分からせてやればいいのよ!」(優)
「そういうことなら催眠教育という手もあるぞ」(さいごロボ)
「脳外科手術や薬物による洗脳教育という・・・」(音声ロボ)
「ストップ!ストップ!力づくとかそういうのはダメ!でも美衣の言ったことは僕も賛成だよ。まずは食べ物と皆の病気を治してからソティラさんにも協力してもらって皆にも分かるようにやさしい内容で説明するのがいいと思う」
「サエナイ ヨウ、お前は何故そこまでして我々を助けようとする?」
「えーと・・・なんでって言われても、助けたいから助けたいんだけなんだけど・・・」
「父ちゃん、ステータスオープンって言って」(美)
「えっ?ステータスオープン!」
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冴内 洋
21歳男性
★スキル:大宇宙のチョップLv4+⇒全宇宙のチョップLvMAX
★称号:愛の使者⇒全宇宙の愛の使者
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「あれっ!?なんかいつの間にか変わってる!」
「・・・アイ の シシャ?」(ソティラ)
「そう!父ちゃんは愛の使者だからだ!だからお姉ちゃん達を助けたいって思うんだ!ステータスオープン!」
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冴内 美衣
永遠の13歳:可憐な乙女
★スキル:真・万能チョップLv5⇒全宇宙の万能チョップLvMAX
★称号:英雄勇者⇒全宇宙の英雄勇者調理人
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「そしてアタイは英雄で勇者でコックだから、お姉ちゃん達にいっぱい美味しいものを食べさせるのが氏名なのだ!まちがえた!指名なのだ!まちがえた!使命なのだ!」
「なるほど、今ミイ殿の言葉で全て理解した気がします。サエナイ家の皆さんがこの宇宙に来たのは【良く分からないもの】に呼ばれてきたと聞かされましたが、そのもっと本質的な理由は宇宙の使命だったからなんですな」と、これまで沈黙していた宇宙連盟司令長官ゴスターグ・バリディエンシェは言った。
「私は純粋にただ助けたいから助けるというサエナイ殿のお心に大きく感銘を受けました。今このやりとりはオープン回線でリアルタイムに宇宙連盟評議会代表達も見ております。私はこれから評議会に働きかけ、宇宙連盟としても人道支援を行うように働きかける所存です」
「私も尽力させて頂こう」(さいごロボ2号機)
「おお!2号殿!それは有難い!」
「・・・分かった、私も協力する・・・サエナイ ヨウ・・・有難う、心から感謝する」
ソティラは頭を下げ、冴内は手を差し出した。
「?」
「握手だよ」
「・・・アクシュ?」
「こうやるんだよ!」
美衣と良子がニコニコしながらシェイクハンドして見せた。
それを見たソティラは冴内の目を見て頷き、手を差し出し、互いに握手した。
「サエナイ ヨウ、お前の手は暖かいな。本物の救世主なんだな」
こうしてなんとか平和的な対話が無事に成り立ったが、これからが前途多難で問題山積である。言うは易く行うは難しなのだがこれは相当に難しい状況だった。
「あっそろそろお昼ごはんの支度しなきゃ!」(美)
「あっそうですね!」(花子)
「えーと・・・」美衣はソティラの顔をじっと見つめて少し考えた。
「?」(ソティラ)
♪ピカーン!「閃いた!今日のお昼はラーメンにしよう!」
「やった!ラーメン!!」(冴)
「ラア・・メン?」(ソティラ)
「うん!ラーメンすごく美味しいよ!僕の大好物なんだ!」(冴)
「なんと!サエナイ殿の大好物ベアーとな!」
「シュルルッ!それは楽しみでシュルッ!」
既に巨大恐竜の肉を使ったチャーシューと骨ガラを使ったスープだしの仕込みは済んでおり、今は丁度良い具合になっているのを思い出したので美衣はラーメンを作ることにしたのであった。
早速冴内家の女性陣は昼食の支度をしにキッチンへと向かって行った。
「さてと、これからどうするかな・・・あっ、そういえばさっき睡眠教育とか言っていたけど、寝ている人達に分かりやすくこれまでのことを説明することって出来ないのかな?」
「可能だ」(さいごロボ)
「出来ますよ」(音声ロボ)
「あっ出来るんだ!それはいい!なんかこうソティラさんの星の人達にも分かりやすくマンガというかアニメみたいなドラマ風にして説明出来ないかな」
「なるほど、それは良い案だ。ニホン国にあるマンガやアニメという創作物については私も非常に感心した。あの技法を取り入れれば彼女達にも理解出来て共感してもらえるものが作れるかもしれない」
「じゃあとりあえずお昼ご飯を食べた後は皆で内容について考えることにしよう」
「了解した」(さいごロボ)
「分かりました」(音声ロボ)
程なくして骨ガラスープの香りが漂ってきて、冴内の腹はグゥグゥと鳴り始めた。この香りは豚骨スープのクセのある香りと違って万人ウケする香りだった。そこに加えて今度はチャーシューの醤油ベースの香りが漂ってきてこちらの方はもっと直接胃袋を直撃する美味しそうな香りだった。
宇宙人達3人のお腹虫もグゥグゥ鳴り始めると、それにつられてソティラのお腹虫もグゥグゥ鳴り始めたので、ソティラは顔を赤らめた。
冴内が空腹で腹をへこませて期待で胸を膨らませてそわそわし始めた頃に、お待ちかねの例のコック姿の美衣が現れた。
美衣や花子達が運んでいる台車には愛すべき四角い螺旋形状の文様が入ったラーメンどんぶりがたくさん乗っかっており、それにはモヤシに似た野菜が山盛りに乗っかっており、そこからは湯気が立ち昇っていた。
「お待ちどおさま!今日はしょうゆ味のラーメンだよ!チャーシューもたっぷり入ってるし、味付け卵もたくさんあるよ!」
「やった!しょうゆラーメン!しかもチャーシューに味付け卵もあるの!?サイコー!!」
各自の席の前にラーメンどんぶりが置かれ、トッピング用の味付け卵やチャーシューがたくさん入ったお皿も別に用意された。宇宙人達3人は既に箸を完全に使いこなしているので、ソティラのためにフォークとスープ用のスプーンを用意した。
優と良子がさらに替え玉用の追加麺をタップリとトレイに乗せてやってきたので冴内は目を輝かせて喜んだ。