253:初顔合わせ
「・・・もういいかな?」
時間にしておよそ5分程度、招かれざる客達と招かれざるナノマシンを乗せた航宙艦をレインボーチョップによる虹色の粒子で包み込んだ冴内がそうつぶやくと虹色の粒子は徐々に霧散していった。
程なくして音声ガイドロボがさいごのひとロボのいる宇宙ステーションからデータが送られてきたといい、そのデータを元に艦内を各種センサーにて調べたところ空気中のナノマシンは完全に消滅したという結果が得られた。
次に人体に残留しているナノマシンを調べる必要があるということで、優に頼んで再度さいごのひとロボを短距離ワープで運んでもらい、メインコントロールルームの数人と機関室内の数人の体内を調査してみたところ、こちらも完全にきれいさっぱり消滅していた。
「それにしても大したものだな冴内 洋、ナノマシンどころか染色体異常や遺伝子に欠損部分があったところまで正常に修復されているぞ」
「えーと・・・それって健康になったって理解していいの?」
「うむ、特にこの女性、恐らく相当にクローン再生を繰り返してきたと思われるが、冴内 洋の虹色粒子のおかげで完全にオリジナル体に復元したようだ。恐らくこれまでの状態だと寿命は40歳にも満たなかっただろう」
「えっ!そんなに短かったの!?クローンってやっぱり怖いものなんだね・・・」
「うむ、まぁそれも改良と研究を重ねて行けば克服できるのだが、だからといってそれなら良いということになはならないな。倫理的に・・・」
「そうだね・・・ともあれ、健康になったんなら良かったよ」
「うむ、彼女は相当に優秀な肉体を持っているようだ。これならば200歳近くまでは健康でいられるだろう」
「えっ!そんなにすごい人なのこの人?」
「うーむ・・・恐らくこれも人為的に操作されて作られたものだろう」
「そうなんだ・・・」
「他の者に比べて彼女の遺伝子情報だけ特出している、そこの座席に座っていたことからも彼女がこの艦の統率者であることは間違いない。もしかするとこの種族全体の長である可能性もある」
「で、この後はどうするの洋?」(優)
「・・・」(冴内)
「・・・」(さいごのひとロボ)
「・・・」(優)
「・・・どうしようか?・・・考えてなかった」
「・・・」(さいごのひとロボ)
「・・・」(優)
グウ~~~ッ
「とりあえずレインボーチョップですごくお腹が空いたからウチに戻って何か食べたいな。一休みしてから皆で考えよう」
「分かったわ!」
「そうだな、状況をしっかり把握して今後の対策を皆で検討しよう」
最初に打ち立てた作戦任務を完了したので、冴内達はいったん冴内ログハウスに引き返した。
冴内のお腹がグゥグゥ鳴り響くので優は短距離ワープで冴内とさいごのひとロボと音声ガイドロボを連れて冴内ログハウスまで瞬間移動し、美衣達は普通に大気圏を突破して降下して後から到着した。
おにぎりは美衣達と宇宙人達3人が全部食べ尽したので、優は冴内のためにサンドイッチを作った。
とりあえず脅威は取り除かれたので、宇宙人達3人もコッペパン号から出てきて宇宙服を脱いで野外の食卓テーブルに集合し、この後どうするか検討し始めた。
「船の中の人達ってどれくらい熟睡するの?」
「明日の朝には目を覚ますと思うよ」(優)
「そのままおウチに帰ってもらったら?」(美)
「でもまた戻ってくるんじゃない?」(良)
「そしたらまた眠らせて帰らせる!」(美)
「うーん、でも寝てる時とかお風呂に入ってる時とか美味しいご飯を食べてる時にやってきたら面倒だなぁ」(冴内)
「あっそれはヤだ!」(美)
「・・・いっそのこと彼女達の星に行ってしまおうか」(冴内)
「なるほど!皆やっつけるのか!」(美)
「そうね、それが手っ取り早いわね」(優)
「全面戦争ですね!洋様!」(花子)
「早速惑星破壊ミサイルを・・・」(音ロボ)
「いやいやいや、そうじゃなくて」(冴内)
「私から一つ提案なのだが、あの航宙艦にいた統率者と対話をしてみるのはどうだろうか。全面戦争するにせよまずは彼女達のいる星に関する情報収集を行えば今後に大いに役立つと思うのだが」(さ)
「そうだね!それが今一番やるべきことだと思う!優さっきの人連れてきてもらえるかな?」
「いいわよ!」
「サエナイ殿!お願いがあるベアー!」
「お願いですか?」
「はいベア、可能であれば宇宙連盟司令本部との回線を開いてもらいたいのだベア。そして対話の場に司令本部の人間も立ち会わせてもらえるようにしていただきたいのだベア」
「もちろんいいですよ!って、出来る?」
「うむ、問題ない。既に宇宙連盟司令本部とのホットラインは開通しているのでほぼリアルタイムで通話可能だ。恐らく向こうにいる私も同じように考えて行動しているはずだから、今この状況も向こうでは把握して・・・おっと、言ってるそばから向こうからリアクションがきたようだ」
冴内達が座っている野外の食卓テーブルの上に立体映像が映し出され、さいごのひとロボ2号機と始めて見る人物が登場した。
その人物は立派でとても良く整えられた髭をたくわえた初老の男性で、毛髪は綺麗な白髪で小さな瞳は一見優しい印象を与えるが、その奥に光る瞳は力強かった。どことなく中世ヨーロッパの提督のような雰囲気を持つ人物だった。
「あっさいごのひとロボ2号さん、お疲れ様!そちらにいる方ってもしかして・・・」
「サエナイ家の皆様、初めまして。私は宇宙連盟司令長官ゴスターグ・バリディエンシェと申します」
宇宙人達3人は既に起立して右手を曲げて胸の前の位置に添えていた。恐らく彼らの間での敬礼のようなものだろう。
「始めまして、冴内 洋です」
「私は冴内 優!冴内 洋の永遠の妻よ!」
「アタイは冴内 美衣!冴内 洋の娘!勇者だよ!」
「私は冴内 良子です!私も冴内 洋の娘です!良い子です!」
「私は冴内 花子です!私も冴内 洋の娘で、皆様のお世話をしているメイドロボです!」
冴内以外は少しづつ自己紹介に付け加える文言が増えていた。
「詳細は全てこちらでも把握しております。この度のご活躍誠に有難う御座います。おっと、順番が逆ですね、まずはこちらの宇宙へようこそ!我々はあなた方の来訪を歓迎いたします!」
「有難う御座います!こちらこそ突然皆さんの宇宙にやってきてすいません」
「いえとんでもありません。さいごのひと殿から聞いたのですが、皆様方はこちらの宇宙にいるという【良く分からないもの】とやらに無理矢理連れてこられたわけですから、むしろそれはこちら側の責任です。そのような存在を探知することも阻止することも出来ず、なんとも申し訳ありませんでした」
「いえ、どうか頭をお上げください。でもこうして別の宇宙人同士、皆さんにお会いできたことは嬉しく思っています」
「はい、それは私共も非常に喜んでおります。さいごのひと殿からそちらの宇宙の素晴らしい技術や文化に関する情報を惜しげもなく頂きました。我々宇宙にとってこの上ない素晴らしい恩恵です。こちらといたしましては今後サエナイ家の皆様には我が宇宙連盟から最大級の感謝を表するつもりです」
「有難う御座います、僕等も近いうちにそちらに伺います。でもその前に今抱えている課題に取り組もうと思います」
「はい、サエナイ殿の思うままに行動なさって下さい。こちらでも今の状況は把握しております。我々も出来ればこれから行われる対話に同席させていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです!こちらからもお願いします!」
「有難う御座います、それではこちらからは私と他に2名の者を同席させていただきます」
「分かりました!」
「それじゃ悪いけど優、お願い出来る?」
「うん!いいわよ!行ってくるわね!」
優は早速その場で消えていなくなり、わずか3秒で対象者を連れて戻って来た。一人の人間が単独で生身の身体でワープを行うというのを目の当たりにした宇宙人達は目を丸くして開いた口が塞がらなかった。