249:結局食べることに専念
招かれざる客達の対応方針も決まったので、その後は宇宙人達3人を除いて全く普段通りの平常運転で日常生活を続ける冴内達であった。
美衣などの感心ごとはもう既に蛮族達のことから今日のお昼ごはんに何を食べようかということに移っており、自分達の身に危険が迫っているという認識は全く完全に完璧にゼロだった。
宇宙人達3人は早速宇宙服を着ようとしていたが、まだ早いですよ、今晩寝る前に着て今日はコッペパン号の船内で寝るといいですよと、冴内に言われて一応それに従うことにしたが、内心は結構気が気じゃなかった。
美衣はここのところ肉尽くしだったので、魚が食べたいなと思い、せっかくだから久しぶりに寿司を食べたいと思った。
初に海にいる美味しい魚を食べたいとリクエストしたところ初は頷いてあっちと指さしたので、美衣はすかさず初を抱いて弾けるようにすっ飛んでいった。
数千キロはある距離を極超音速で定義される速度の最も速い速度域で飛んでいったため、ものの数分でこの星で初めて訪れる広大な海に到着した。
「二人別々に美味しそうなお魚を獲ろう」
「わかった」
「海はベタベタするから帰ったらお風呂に入らないといけないんだ」
「わかった」
そうして美衣と初は別々に海の幸を獲ることにした。美衣は魚は初にまかせて、自分はエビやカニや貝などの、初には分からないであろう寿司ネタを獲ることにした。途中すごく美味しそうな海の巨大恐竜を見つけたが美衣は我慢して、今日はお魚の日だから我慢我慢、あの恐竜は今度捕まえて食べようと心の中でつぶやいた。
美衣が大きなエビやカニや貝を獲って宇宙ポケットに放り込んでいたところで自分のミスに気が付いた。(すいませんまたしても作者のミスです、美衣のせいにしてしまいました)
「あっ、初は宇宙ポケット持ってないんだ!」
慌てて美衣は目をつぶって初を探知すると、すぐに初を探知してまるでジェット水流のように水中を切り裂いていった。
美衣が初のところに到着すると不思議な光景が目に飛び込んできた。
なんと初は美味しそうな様々な魚たちを付き従えているのだ。
「これくらいでいい?」
「うん、それくらいで大丈夫だけど・・・後ろのお魚さん達は食べてもいいの?」
「うん」
「・・・分かった。みんな有難う!」
ごくわずかな一瞬の間で美衣は色々様々なことを考えたが、最終的に初と魚達の好意を受け取ることにした。この辺りのメンタリティはやはり宇宙最強の種族【ンーンンーンンンン】人の血を引いているだけのことはあるのだった。
美衣が魚を獲りに行くと言ってすっ飛んでいった時から既に冴内達は米を炊く準備を開始しており、冴内達は口々にお寿司楽しみ!と言い合った。
程なくして美衣達が海の香りと共に帰ってきて、まずはお風呂に入ってくるといって冴内ログハウスの中に入っていった。すぐに量産型花子のうちの一人も洗濯と着替えの用意のため入って行った。
風呂に入って海水を落としてサッパリした美衣はお気に入りのコック服を着込んで早速タップリ獲ってきた海の幸を捌き始めた。量が多いので優と良子も手伝い、冴内と花子と別の量産型花子一人の3人で炊飯と酢飯を作る準備をした。量産型花子最後の1体は皿の用意やその他の雑用をこなしていた。
宇宙人達3人はさいごのひとロボ初号機と音声ガイドロボ初号機と共に様々な情報を交換し合い宇宙交流を行っていた。この後一時避難することになるコッペパン号の船内も案内してもらい、あまりの技術水準の高さに驚愕していた。
その後寿司ネタと酢飯が揃ったので、材料を野外の食卓テーブルに運んで宇宙人達3人を前にして握り寿司を実演披露した。
当然宇宙人達3人は寿司など見るのも食べるのも初めてだったが、これまでの余りにも美味過ぎる食事のおかげで一切疑念を抱くようなこともなく、言われた通りに醤油を少しだけつけて口に放り込んだ。
3人とも目を大きく見開き、数回噛んだ後に飲み込むと、すぐに続けて2個3個と一気に食べた。そして今度は目をつぶって日本茶に似た味のお茶をすすり一息ついた。
「・・・素晴らしい・・・実に・・・」
「シュルルッ!・・・なんという・・・」
「こんな食べ物があるとは・・・」
「えーと・・・おかわり・・・要りますか?」(洋)
「「「 是非!! 」」」
そこからは大忙しだった。宇宙人達3人のために握りつつ、自分達も握ったそばから口に放り込むという、まるで何かの機械のようにすさまじい速度で美衣、優、良子の3人は握り寿司を作っていった。美衣と良子が宇宙人達3人の分と自分の分を握り、優が冴内と自分の分を握って食べた。花子はどんどん酢飯を作っていった。足りなさそうな気配を察して量産型花子のうちの一体が米を研ぎ始めた。
ちなみに宇宙人達3人のうち、熊によく似たポロック・スレムベアは見た目も味もサーモンによく似た寿司が大好物になった。どうも彼の故郷でもこれに似た魚が大変好まれているとのことだった。
肉が主食で魚や穀物をあまり食べないトカゲによく似たドルム・デ・グァルムァルも寿司を気に入ったようだった。ただ青魚よりも白身魚の方を好み、イクラによく似た魚の卵の寿司が大好物になった。
3人の中でも肌の色が薄い青色で白人男性のような容姿のロベル・テディルは選り好みなくどの寿司も全て美味しそうに食べた。お茶やガリも非常に気に入ったようで、いつの間にか箸を器用に使いこなしていた。
「フゥ~・・・実は正直なところを申しますと、私の種族はほとんど生の肉や魚を口にすることはなくて、このスシを食べるまでは内心不安だったのですが、世の中にこんなにも美味しい生魚の料理があることを知ることが出来てとても幸せです」(青顔)
「我が種族はお祝いの場でたまに本当に新鮮で活きの良いサールモンが獲れた時は生のまま食べることはあるが、ここまで美味しいサールモンは生まれて初めてだベアー」
「シュルルッ!我が種族も新鮮でしっかり衛生管理されたものならば生の肉を食べることがあるが、結構値段が高いのでやはりお祝いの場などでたまに食べる程度でシュルッ!海辺に住む仲間の種族も新鮮であれば生魚を食べる習慣がありまシュルッ!」
「それにしても、サエナイ殿達の宇宙文化には本当に驚くばかりだベア。科学技術水準、超能力水準、さらには食文化という文化水準においても、これほどまでに高度なレベルを誇るとは・・・」
「シュルルッ!左様。そして【蛮族】に対しても人道的な方法で問題解決を試みようとする寛容さ。倫理的な水準も見習うべきものでシュルッ!」
「我々は食事までの間、さいごのひと殿や音声ガイド殿に様々な事を教えていただきました。非常に価値のある情報と思しきことも全てオープンに教えていただきました。その余裕ある態度にも皆さんの宇宙のレベルの高さを感じ取ることが出来ました」
「いや、それは君達宇宙連盟がそれだけに値する存在だということだ。大いに君達自身も誇って良いと思う。前にも述べたが君達は我々と違って、困難な環境問題を遺伝子操作などの肉体改造で乗り越えることから脱却し、本来の肉体の姿のままテクノロジーによって乗り越えてきた。我々は肉体改造を捨てることが出来ず様々な種別が独自進化していき、もう元の姿形とは全く違ってしまった種族もいる。しかし君達は安易にその道に進み続けることを止めて元の本来ある姿に戻っていった。これは我々の宇宙種族では出来なかったことだ」
この後宇宙人達3人は、げんしょのひとの記録映像を見た。これまでげんしょのひとが辿ってきた様々な記録、輝かしい栄光、繁栄と衰退、喜び悲しみ、虚無感・・・これらを見知ったことで、さいごのひとが語った意味を深く理解したのであった。