245:歓迎会、夜の部
歓迎会の昼食なのにあまりの料理の美味しさに皆黙々とほとんど会話もなく食べ続けたのだが、さすがの宇宙人達3人もステーキ皿3枚程も平らげたあたりで満腹中枢が満たされて余裕が出てきた。
「フゥーッ、こんな美味しいステーキを食べたのは生まれて初めてベアーです」
「シュルルッ!誠にその通り、私の種族は肉が大好物で肉料理も相当に高い評価を得ているのですが、このステーキは間違いなく宇宙一かもしれません!シュルルッ!」
「こんなにも美味しいステーキを美衣殿が作られたのですか?」
「うん!アタイが作ったんだよ!お肉は初が獲ってきたんだよ!」
「「「なんと!」」」
「美衣は僕達家族の中で一番料理が上手なんです」
「そうです!美衣様は私達の宇宙と冴内様の宇宙のどちらでも宇宙ナンバーワンの料理の達人なんですよ!」
「ほう!そのお歳でベアーか!?」
「シュルルッ!なんという超能力一家でしょうか!この宇宙にやって来たのもひとえに皆さんが元居た宇宙でのナンバーワン超能力者だったからかもしれません!シュルルッ!」
「私もその仮説はとても説得力があると思います」
「いやぁ・・・それほどでも・・・って、いや、そうなんでしょうか・・・」
「うむ、その仮説は大いに有り得ると私も思う、あまりにも突出し過ぎた存在が家族単位で集結しているため、この宇宙に存在しているだけでも何かしらの特異点と言っても過言ではない」
「そんな、僕ら家族が特異点って・・・」
「ただ、初が言うには良く分からない存在というのがこの宇宙に存在していて、僕等はその良く分からない存在というものに、引き寄せられてこの宇宙にやって来たみたいなんです」
「良く分からないものベアーですか?」
「はい、実は・・・」
冴内は事のいきさつを宇宙連盟先遣隊の宇宙人3人に話し始めた。その後さいごのひとロボ初号機と音声ガイドロボ初号機から、冴内 洋のこれまでの軌跡というタイトルで映像記録が空間立体投影された。途中でリクライニングチェアーに座り直し、飲み物やお菓子を飲食しながら5時間にも渡る活動記録動画を観続けたのだが、余りの面白さに全く退屈することなく宇宙人3人は食い入るように観続けた。
途中で美衣達女性陣は夕食の準備をし始め、量産型花子達も夜の部の歓迎会の準備をし始めた。
昼にステーキを沢山おかわりして腹一杯食べたはずなのに、またしても何やらとても美味しそうな香りが漂ってきて鼻腔を通して脳内の食欲を強烈に誘惑してきた。なんとか誘惑に負けじと平静を装ってみたものの、身体の方は正直で腹の虫はグゥグゥと早々に降参していた。
「いやはや、どうにもお恥ずかしいベア・・・」
「シュルルッ!まったく・・・シュルルッ!」
「ははは・・・」
「お気になさらず、ウチらは毎回食事前は盛大にグーグー鳴らしてますから。それに今夜は昨日から煮込んだシチューとじっくりと火を通したロースト肉が出るので僕等もとても楽しみなんですよ」
「シュルルッ!ロースト肉ですか!それは非常に楽しみですな!シュルルッ!」
「ところで冴内殿、これまで見てきた活動記録なのですが、この模様は宇宙連盟に全て報告してもよろしいでしょうか?」
「ええ構いませんよ」
「いや、既に先行した航宙艦によってもっと詳細な情報を全てそちらの宇宙連盟に伝え始めているようだ。先行した航宙艦には私の思念がほぼ完全に近い形で再現されているAIが光演算装置に組み込まれていて、今も様々な対話を既に開始しているという思念が届いている。そちらの宇宙連盟の司令長官、ゴスターグ・バリディエンシェ殿とも挨拶を交わしたようだ」
「なんと!既に司令長官と対話しておられるベアーか!」
「明日には私の2号機と音声ガイドロボ2号機を乗せた航宙艦も到着することだろう」
「シュルルッ!そんな短時間で!シュルルッ!」
「なんというレベルの高さでしょうか、サエナイ殿達の並外れた超能力といい、科学技術力の高さといい、皆さんが元いた宇宙は我々の宇宙よりも文明レベルがとても高いと思います」
「フム・・・宇宙望遠鏡での解析だと、君達の宇宙の方が我々がいた宇宙よりも少し大きく宇宙年齢も少し長いという計測結果が出たので、文明レベルも我々よりも先を行っていると思ったのだが・・・いや、しかしこちらが文明レベルで先を進んでいるとはいえそれ程大きく差があるわけではなく、宇宙の時間軸から見れば誤差の範囲だろう」
「なるほど、宇宙の時間軸ですか」
「うむ、それに先行した航宙艦から得た情報だが、君達宇宙人は冴内達のような常識外れの存在はいないと聞き及んだ。かつては過酷な環境や状況に対応するため遺伝子操作などで自らの人体に改良を加えた時期もあったようだが、今では科学技術の進歩で環境や状況や身の回りの装備品などを改良することで克服し、元の自然なままの身体に戻っているそうではないか。これは我々がいた宇宙と違って実に文化的で素晴らしいことだ」
「おお!それは嬉しい言葉だベアー!」
「シュルルッ!まさに!我々にとって誇り高い言葉だ!シュルルッ!」
「ええ、まさにおっしゃられる通り、我々は長い長い年月を経てようやくそこへ辿り着きました。とても多くの悲しい歴史を乗り越えてようやく我々は今の状況に辿り着いたのです」
「うむ、それはとても良く分かる話だ・・・我々も沢山過ちを繰り返してきた・・・しかし君等はそれを文化的な解決手段で乗り越えてきた、実に讃えるべきことだ」
「お言葉感謝するベアー」
「シュルルッ!光栄に思うシュルルッ!」
「誠に有難う御座います」
「おまちどうさまー!料理が出来たよー!」
「「「 オオーッ! 」」」
いつものごとく大きな寸胴鍋にグツグツという音と湯気と共に漂うたまらない香りでいま最も破壊力抜群の胃袋攻撃アイテムが運ばれてきた。料理運搬台車にはさらにローストされた香りが香ばしい大きな肉の塊が載せられており、これもまた食欲一発KOするほどの存在だった。
宇宙人達3人はリクライニングチェアからまた食卓のあるテーブルへ移動して、量産型花子が引いてくれた席に着席した。目の前の皿に巨大恐竜の肉や野菜が大きくゴロゴロとカットされたシチューが運ばれ、さらに別の皿にはローストされた巨大恐竜の肉が数枚カットされてその上に特製ソースがかけられた。表面は程よくローストされているが、中身は赤く締まった肉がじっくりと熱された様子が分かり、そのヴィジュアルだけで口の中は涎の洪水で危険水域を超えて口から氾濫して溢れ出てきそうだった。
「ウッ!ウグッ!ウググッ!」
「シュルルッ!シュルルッ!」
「・・・!!」
宇宙人達3人はまるで数日間食事抜きだったような様子で、今にも我慢出来ずに料理に貪りそうになるのを懸命に耐え続けていた。しかしそんな彼らに猛抗議するかのようにグゥ!グゥ!とお腹虫は盛大に鳴り響いていた。
一応前菜のサラダやパンが一通りいき渡り、ようやくお待ちかねの食事開始の言葉が発せられた。
「それでは歓迎会、夜の部を開始します!いただきまぁーす!」
「「「 いただきまぁーす!! 」」」
そこからはまさにフードファイトのような光景が繰り広げられた。宇宙人達3人はもう恥も外聞も捨てて自らの欲望の赴くまま料理に食らいついていた。最初から一番食べたいものを食べ、あまりの美味しさで意識が飛んで気絶しそうになるのを必至でこらえながらも口に運ぶ手が止まらないという状態だった。
昼のステーキが素材の美味しさを引き出したものであったのに対して、夜の料理はまさに料理の腕によって作られた美味しさであり、様々な食材と調味料と調理方法によって作り出されたものだった。人の知識、経験、技術、想像力の結晶、まさに最高傑作ともいえるものだった。宇宙人達3人はいつしか食べながら泣いていた。泣きながら食べていた。そして量産型花子におかわりを要求した。