244:歓迎会、昼の部
宇宙連盟先遣隊の宇宙人3人を乗せた脱出ポッドは今まさに死への旅立ちの最中にあった。しかし何故か彼等の心は不思議と落ち着いていた。
脱出ポッドは今や虹色の粒子にすっかり覆われておりその粒子を見ているととても安堵感に包まれる気持ちになるのだった。
既に大気圏に突入しているはずなのだが、船内はとても静かで全く揺れもなく、本当に垂直降下しているのかすら分からない程に優しく丁寧に進んでいるように思えた。しかも驚くことに機体表面温度は数万数千度ではなく20度前後という信じられない数値がモニターに表示されていた。
そしてわずか数十数秒程で宇宙連盟先遣隊の宇宙人3人を乗せた脱出ポッドはまったく減速ショックを感じることなく優しくフワリと冴内ログハウスの前にそっと置かれた。ランディングギアはオートで引き出されていた。
大気成分を確認し、空気に全く問題ないことを確認した後、脱出ポッドのハッチがゆっくりと開いていった。少しだけハッチ内から冷気が漏れ出た後でいよいよこの宇宙にやってきて初めて出会う宇宙人達3人が中から少しだけ足元をフラつかせながら出てきた。それまでの無重力状態から1G重力下に降り立ったためである。すかさず量産型花子が若干足元がおぼつかない宇宙人3人に寄り添って手を貸した。
「やっ、これはどうもベア」
「シュルルッ!感謝するシュルルッ!」
「有難う御座います」
「皆さんようこそさいしょのほしへ!改めて皆さん初めまして!僕は冴内 洋、こことは別の、さらにまた別の宇宙にある地球という星の日本という国からやってきました!」
「アタイは冴内 美衣!冴内 洋の娘!英雄だ!」
「私は冴内 優!冴内 洋の妻よ!」
「私は冴内 良子!冴内 洋の娘です!」
「私は冴内 花子!私も冴内 洋様の娘です!」
「ぼくは冴内 初、ぼくも冴内 洋の息子だけど、この星でもあります」
「サエナイ・・・ヨウ殿、ミイ殿、ユウ殿、ハナコ殿、ハジメ殿、そしてさいごのひと殿にガイド殿、皆さん初めまして、私は宇宙連盟先遣隊のポロック・スレムベアと申しますベア」
「シュルルッ!同じく私はドルム・デ・グァルムァルと申しますシュルルッ!」
「初めまして、私はロベル・テディルと申します。ヨウ殿、ハジメ殿、先ほどはお出迎え有難うございました」
「「「ようこそー!!」」」
パチパチパチパチ!!
まずは花子の独壇場といった感じで、宇宙人達3人を宿泊客用ログハウスへと案内し、設備や調度品の案内などを行い、温かい蒸しタオルを差し出したりした。宇宙人達3人は蒸しタオルで顔を拭いてサッパリし、宇宙服を脱いで宇宙連盟の標準ユニフォームである上下ツナギ姿で冴内達の前に再度現れた。
「皆さんお腹が空いたでしょう、どうぞこちらへ、一緒に昼食を食べましょう!」
「おお!なんと有難いベアー!」
「シュルルッ!感謝シュルッ!」
「来て早々このような歓迎、誠に感謝します!」
宇宙人3名は野外テーブルに近付くにつれて漂ってくる香りに抗えず、お腹虫が盛大に鳴り始めて赤面した。
「なんともお恥ずかしい限りだベア!」
「シュルルッ!申し訳ない!シュルルッ!」
「ご無礼をお許しください、しかし、なんという芳醇な香りでしょうか、この香りだけでも素晴らしいご馳走であることが分かります」
3体の量産型花子にそれぞれ付き添われて宇宙人3名はそれぞれ着席するとすぐに飲み物が注がれた。注がれたのはハチミツレモンスカッシュだった。
「それでは皆さんそのまま席に着いたままで結構ですので、乾杯しましょう」
「・・・カ ン パ イ?」(青)
「はい、祝杯することを表す言葉です」
「なるほど祝杯の言葉ベアか!」
「はい!それでは皆さんお手を拝借、それでは!」
「「「カンパァーイ!」」」
グイッグイッグイッ、ゴクンッ!
「プハァーーーッ!コレはウマイ!なんともウマイ飲み物だベアーーー!」
「シュルルッ!なんという喉越し!酸味と甘みが絶妙な上にこの喉を通る時の刺激が実に良い!シュルルッ!」
「これは炭酸ですね!我らの国にも炭酸飲料はありますが、これ程スッキリした喉越しで美味しいものはありません!」
「料理も美味しいよ!」と、久しぶりにお気に入りの白い上下のコック姿で美衣が登場してきた。台車にはジュウジュウと音と湯気をたてた巨大恐竜のサーロインステーキがタップリと乗せられており、そのヴィジュアル、音、香りだけでも食欲を刺激する破壊力は抜群だった。
一応前菜やスープやパンは既にテーブルの上に置かれているのだが、いきなりこの破壊力満点のメインディッシュであるサーロインステーキが目の前に置かれては、もういてもたってもいられず、ますます宇宙人達のお腹虫は盛大に鳴り響いた。しかしいくらなんでもこの音は尋常じゃないだろうと思っていたらそれは冴内達全員のお腹虫の音だった。
「硬い話は抜きにして、まずは早速料理をいただきましょう!料理は熱くて美味しいうちに食べるに限りますから!それではいただきます!」
「「「いただきまぁーす!!」」」
「イタダキ、マァース!」
「イタダキマァーシュルルッ!」
「イタダキマース!」
宇宙人達3人は察しが良く、先ほどのカンパイと同じように食事前の挨拶だろうとすぐに理解した。
それよりなにより何はともあれ目の前のステーキである。もちろんさすがに彼らの宇宙、彼らの星でも同じようにステーキはあるし、ご馳走の部類に入る料理である。そして目の前のステーキは彼らの人生の中でもかつてない程のものだということが一目見て分かった。
彼らは宇宙連盟の先遣隊に選ばれる程なので全員相当に優秀な者達である。だから当然テーブルマナーもしっかりと身についていた。はやる心をなんとか抑えてなるべく優雅にナイフをステーキ肉に押し当てたところ、ほとんど抵抗もなくスゥッっと肉は切れた。まるで自ら切れていったかのようだった。そして若干大き目に切った一切れをフォークに突き刺して、いよいよ口の中へと滑り込ませて舌の上にのせて奥歯で噛みしめた途端・・・
「「「 ーーーッッッ!!! 」」」
衝撃が走った。全員あまりの旨さに目を強く閉じて上あごと下あごがの筋肉がこれでもかという程に引き締まった。口の中は感激の唾液の大洪水でそのまま気絶してしまいそうな美味しさだった。
噛む程に旨みが口内に充満し感動で心が爆発しそうだった。そしてなんと数回噛んだだけでその肉は完全に溶けて喉を通過して胃袋に何の抵抗感もなくストンと滑り落ちていった。とうとうこらえきれず我慢出来ず抑えきれず3人は絶叫してしまった。
「グワァーッ!ウマイベアーーーッ!!」
「ゲワッ!ゲワッ!ゲワァーッ!!シュルルルルゥーーーッ!」
「ウオーーッ!素晴らしいーーーッ!!」
つい叫んでしまった3人はハッ!と我に返り、自分達が失態を犯してしまったことに恐怖したが、目の前の人物たちはそんなことは全く目に入っていないようで、凄まじい勢いで食事をしていた。
いつも通り美衣と良子はナイフは使わずフォークで丸々一枚のステーキ肉を突き刺してガブガブと凄まじい速さで食べ終わり、量産型花子がまるでわんこそばのように次々と皿を取り替えていた。
冴内は普通にナイフを使って食べていたが、同時にパンを手にして、まるでステーキ皿をパンで拭いているようにして肉汁を吸い込ませて肉と一緒に食べていた。あまり行儀の良い食べ方ではなかったがそれを見た宇宙人達3人も冴内を真似してパンも一緒に食べたところこれがまた衝撃的に美味しかった。本人たちは気付いていないが彼らの目からは涙が流れていた。
こうして、全員会話もなくただひたすらに黙々と素晴らしいご馳走を一心不乱に食べ続けた。まさしくこれぞゲートシーカー流の食事の流儀だった。




