243:お出迎え
宇宙連盟の本陣でもある中央艦隊司令部では歓迎すべき大ニュースと歓迎したくない小ニュースが舞い込んできた。
前者は冴内達が放った無人高速航宙艦が中央艦隊司令部に到着し、さいごのひとの思念をかなり忠実にコピーしたAIとの対話を開始したことで、後者は蛮族と断定される正体不明の未確認存在から先遣隊が攻撃を受け、先遣隊の航宙艦を自爆させて乗員3名は緊急脱出ポッドで冴内達のいる星へと向かったことだった。
「まさかこの宇宙の中心部にそのような存在がいたとは・・・」
「およそ127万年前に大規模宇宙海賊討伐から逃れた者達の末裔の可能性と、何らかの原因で文明崩壊した生き残りの可能性の2つがあるようです」
「それにしてもさいごのひと殿、サエナイ殿達は大丈夫であろうか」
「彼らなら問題ない、彼らは単独で宇宙を崩壊させることが出来る程の強さを持っている、恐らくこの宇宙でもその力は変わらないだろう」
「その・・・宇宙を崩壊させることが出来る存在というのが我々には何とも解釈の仕方が分からないのだが・・・」
「いや、翻訳機の不備ではなくこれは文字通りの意味なのだ、ううむ・・・確かに口で説明してもなかなかに理解するのは難しいか・・・では、事実映像をなるべく当時のままに再現するので、実際に見てもらえるだろうか」
「なんと!そんなことが可能なのですか?」
「うむ、どうせなら宇宙空間にほぼ原寸大で投影するとしよう」
そうしてげんしょのひとAIは宇宙連盟の大艦隊の目が熱く注がれる中、冴内達の凄まじい破壊力をこれでもかという程に見せつけた。まずのっけから冴内太陽を見せつけ、さらにビッグバンチョップで別宇宙の愛を世に知らしめた。他にも宇宙イナゴ討伐時の優のスーパーノヴァや美衣や良子の恒星爆発にも等しい破壊力、直近では初のフライング・クロス・チョップによる巨大恐竜退治の様子も紹介した。
宇宙連盟司令部の御歴々も大艦隊の乗員達も全員口をあんぐりと空けてただ呆然と見続けることしか出来なかった。
「なんとも・・・その、これはその・・・何かの娯楽活劇作品か何かであろうか・・・」
「うむ、まぁそう反応されるのも理解できることではある。そちらの宇宙種族の中では龍人族や戦闘種族、あるいは超異能能力を持つ種族はいないのだろうか?」
「過去に遺伝子操作で肉体改良を行った種族がいた星の歴史は幾つかありますが、どれも暗い過去の歴史上の存在です。宇宙連盟が発足してからはそうした存在は今ではもうおりません」
「ほう!それは素晴らしい!しかしそれでも過酷な環境に適用するために自らの肉体を改良した存在はいるのではないかね?」
「はい、しかしそのような存在もその後の科学技術の発展と共に住環境の方を改善改良することで、元の人間に回帰していきました」
「なんと!それは実に素晴らしい!この宇宙の種族の方々は実に理知的だ、私は非常に好ましく思う」
その後、さいごのひとAIは秘匿するような事は何もないと考え、私が知る限りの全てを語ると宇宙連盟に宣言してしばらく留まることにした。そしてげんしょのひとの歴史から語り始めていった。
ちなみにその1日半後にはさいごのひとロボ2号機と音声ガイドロボ2号機を乗せた航宙艦も到着することになり、より一層この宇宙の人達は冴内ファミリーという存在がいかに凄まじい存在かを衝撃と共に知ることになる。もちろん冴内のげぇっ!も。
一方さいしょのほしでは今日も元気にもりもりと朝ご飯を食べている平和な家族の姿があった。
「久しぶりのハチミツバタートーストはウマイ!」とは美衣のセリフ。
「どう初美味しい?」(良)
「うん、おいしい」(初)
「「キャァーッ!」」(美&良)
可愛くてたまらない初に両方からほっぺたをくっつけて喜ぶいつも通りの光景、今日も実に幸せいっぱいの冴内家であった。
ちなみに冴内達が食べているハチミツは、ゲートにいた時のように巨大なハチをやっつけたらドロップしてきたというものではなく、花子が山菜やキノコ採りをしている最中にミツバチ達(といっても地球のものよりも明らかにサイズが大きい)が引っ越しをしているのを見つけ、もぬけの殻になった巣から大量のミツバチをもらってきたというものである。ちなみにそのミツバチはその後冴内ログハウス近くの林に誘導し、今では量産型花子によって養蜂飼育されている。
また、バターについても花子が連れてきた4つ足のモフモフでフサフサの大人しい草食動物からとれた乳から作ったものである。やはりこちらについても花子が山菜やキノコを採っている最中に肉食動物に襲われていたところを助けたことで、花子についてきたのであった。今ではそれらの数頭が冴内ログハウス近くの草原で大人しく暮らしている。美衣達が喜んで柵と小屋を作っており、夕方になると呼ばなくても自分達でちゃんと小屋に入っていくほど賢かった。恐らく冴内達の絶対的強さと優しさが本能で分かっているので冴内達の近くにいれば安心するのだろう。またこの動物達は、冴内ログハウス近くの雑草をムシャムシャ喜んで食べてくれるので草むしりの必要がなくなり大助かりだった。
朝食後は、いよいよこの後昼前には到着予定の宇宙連合先遣隊の宇宙人3名を出迎えるための準備を開始した。
野外の会食テーブルや宇宙人達が宿泊するログハウスに花を添えたり、日本の温泉旅館でよく見かける浴衣セットも用意した。
美衣シェフを筆頭に冴内一家の女性陣はいよいよおもてなし料理に取り掛かった。メインディッシュは美衣シェフが腕を振るい、前菜やお菓子などを優と良子が作った。
用意がほぼ整いつつあるタイミングで宇宙人達から連絡が届いた。
『当艦は間もなくそちらの星へ大気圏突入を開始する。詳細はそちらで報告するが現在我々は緊急脱出ポッドにて移動しているため、正確な着陸地点の設定は困難である。緊急信号ビーコンを発信するので大変申し訳ないが補足してもらえると助かる』
「うむ、どうやら何かしらトラブルがあったようだ」(さいごロボ1号)
「わっ!それは大変だ!僕ちょっと迎えに行ってくるよ!」
「ぼくもいく」初はパッと冴内に抱き着いた。
「じゃちょっと迎えに行ってくるね、皆はそのまま歓迎の支度をしていて!」
「「「行ってらっしゃ~い!」」」
一方、緊急脱出ポッドの中では、もう音を出しても問題ないので通常の会話をはじめた。その直前には冴内から今から迎えに行くという通信を受信している。
「今から迎えにくると言っていたが、我々はどう対処すればいいんだベアー?」(熊)
「シュルルッ!確かに。そのままで良いと言っていたが、一体何をするのだろうかシュルルッ!」(ト)
「そうですね、これから航宙艦で出発したとしても恐らくその頃我々は既に大気圏突入していると思うのですが・・・うん?」(青)
と、話している時に緊急脱出ポッドは静かに優しく減速し始めた。
「皆さん始めまして、冴内 洋です」
「はじめまして、冴内 初です」
「なっ!?なんだ?どこから聞こえてるベアか?」
「シュルルッ!これは接触回線か?シュルルッ!」
「エレクサ!外部カメラを回してくれ」
『了解しました』
そこには宇宙服も着ない普段着の姿の若くて少し線の細い冴えない青年と、どうみても3歳児の可愛らしい幼児二人で脱出ポッドを支えている姿が映し出されていた。
「今から僕等の家まで案内しますね!初、後ろに回って押してくれる?」
「うんわかった!」
初が脱出ポッドの後ろに回って押し始めると脱出ポッドは静かに動き出した。次に冴内は両腕のチョップを前に突き出すとチョップから虹色の粒子が溢れ出て脱出ポッドを取り囲んだ。宇宙人3名は口を開けたまま呆然として言葉がなかった。
宇宙人3名は静かに加速している脱出ポッドの中で外部モニターに映し出される風景を見てさらに驚いた。大きな宇宙望遠鏡に電波望遠鏡、そして宇宙ステーションがあり、そこからは恐らく無人探査衛星と思われるものがオートメーションで作られているようだった。
ふと気が付いてモニター画面に表示される速度計を確認したところ、全く加速を感じず止まっているかのようだったのだが、実際にはかなりの速度が出ていることが分かった。しかもそのまま垂直に眼下に迫る星に降下しようとしている軌道だった。宇宙人3名はギョッとした。
このままこの降下速度でしかもほぼ垂直に降下し続ければ、ものの数秒で跡形もなくほぼ蒸発に近い速度で彼等は燃え尽きてしまうのであった・・・