242:生きるため、未来のため
「見つけやした!ヤツら自爆に見せかけてワープしてまさぁ!」
「でかした!早速ワープアウト地点の割り出しにかかれ!」
「へいボス!」
「クックックまったくやることが見え見えでしたねボス」
「あぁ、余程頭ん中がお花畑な連中なんだろうぜ」
「それにしてもどこの縄張りのヤツらなんでしょうかねぇ」
「恐らく外れの貧乏衛星の連中だろうぜ」
「あぁ、あそこの・・・なるほど確かにあの連中のやりそうなことですね、しかしそれにしてもアタシらの船よか随分良い状態の船でしたね」
「そうだな、恐らくずっと隠し持ってたんだろう。あそこは名前の通りショッパイ貧乏な衛星だから、誰にも見向きもされずひっそりと良い状態の古代文明の船が残ってたんだろう」
「そんな大事な虎の子を自爆させたってんだから奴等もさぞやガックリ来てるでしょうね」
「まぁそれでもサエナイを手に入れられれば一発大逆転だと思ったんだろうよ」
「クックック、後を付けられてるとも知らずに、今頃盛大にぬか喜びしてることでしょうな」
「サエナイのいる星を見つけてくれるまでの間は奴等にも良い夢を見させてやるさ」
「「「アッハッハッハッハ!!」」」
「ボス!ワープアウト地点の特定が出来ました!」
「おう!どこだ?」
「外宇宙じゃない方角にある2つ隣の銀河です!」
「なんだと?あの辺りにゃサル以下の生き物しかいないはずだぞ!」
「オイ!間違いないのか!」
「はっ、はい!間違いありません!」
「フーム・・・偽装か?・・・いや、わざわざ虎の子を自爆させてまでそうする必要がどこにある?」
「・・・」
「・・・」
「よし!決めた!こっちも虎の子を出すぞ!一番長距離ワープ出来る開拓船を用意しろ!」
「「「了解ボス!」」」
確かに彼女達は、宇宙連盟から見れば蛮族であっただろう。文明水準も技術水準も、何より道徳倫理感において高度に発達している宇宙連盟に加入している星々の宇宙人からしてみればまるで原始人のような存在だったであろう。
しかし、彼女達は極限の状態で生きながらえてきたしたたかさを持っていた。残り少ない命をしのぎ合い互いに出し抜いて生きてきた。自爆に見せかけてやり過ごすことなど容易く見抜くことが出来た。そういった点に関しては頭脳明晰だったのだ。
「フフフ、まぁこっちも命張ってんだ、こんな大チャンス見逃すワケにゃいかねぇよ、お前ら気合入れろよ!死ぬ気でやれ!この先の未来がかかってるんだ!」
「「「了解!!」」」
彼女達の中でも数少ないエンジニア、古代文明の遺産の基本的な部分のみかろうじて理解出来る者達が懸命に作業していた。
作業は2班に分かれ一方は脱出ポッドのワープアウト宙域の特定作業を行い、もう一方は長距離ワープ可能な航宙艦の出港準備作業に取り掛かった。
この航宙艦はかつて外宇宙の開拓に用いられる予定だった航宙艦の生き残りで、銀河を横断することの出来る航宙艦はこれを含めて3隻しかなかった。
そして彼女達が現在絶賛勘違い中の貧乏衛星にはこのような航宙艦は保有しておらず、実際のところは長距離ワープが可能な航宙艦を保有しているのは彼女達だけであった。
「私達はボス達のように身体も強くないしリーダーの資質も持っていない。それでもこうして生かさせてもらっているのは、私達が古代文明の技術をかろうじて理解出来るからよ。しかも今回の作戦がうまくいけば私達にも子孫を残させてもらえるチャンスがあるわ。だから皆、ここが頑張り時よ!」
「「「了解!」」」
宇宙連盟から蛮族呼ばわりされている彼女達の中で一応頭脳明晰エンジニア集団と言っても良い一団は今こそ自分達の存続理由を大いにアピールするべき時だということで、不眠不休で全力で各自の作業に取り組んだ。
この集団の半分は情報分析が専門で、もう半分は機械工作作業に長けていた。そしてほとんどが近眼になっており眼鏡をかけていた。古代文明の医療技術があれば近視眼治療によって眼鏡など不要なのだが、それらの医療技術は既に大半が失われているので、彼女達のほとんどが近眼だった。そして眼鏡は彼女達自身で作り出したものだった。
「ワープアウト予測宙域の計算結果が出ました!」
「こちらに転送しろ!」
「どうぞ!」
「・・・ダメだ!範囲が広すぎる!自爆にみせかけて脱出したとなると、それほど長距離ジャンプは出来ないはずだ!もっと細かい条件で計算し直せ!」
「はい!」
一方、長距離ワープ航宙艦の出港準備を行っているドックにて。
バタァン!
「おい!しっかりしろ!」
「死んじゃいない!水でもぶっかけて横にしてどかしておけ!」
「はっ、はい!」
「おいそこ!何やってる!ハッチが開いたままだぞ!」
「すいません!替えの部品がまだ見つかっていません!」
「バカ野郎!テメェらで代替部品を作るんだよ!隣のハッチの中にまだ動くのがあるだろう!そいつを参考にジャンク山から探してこい!」
「あっ!そうか!分かりました!」
「ったく・・・年々劣化してやがる・・・部品も人間も・・・」
「このままじゃ真っ先に私ら機械屋が絶滅ですね」
「あぁ、だからそうならないように、今回が最初で最後のチャンスなんだ、残酷なのは分かってるが何人か死んでも今回のチャンスは絶対に掴むんだ」
「はい、その通りです。全員に改めて激を飛ばしておきます」
「頼む」
何かの部品を整備している作業室にて。
「ねぇルリィ、本当に私達にも子孫を残させてもらえるのかなぁ?」
「オレ達下っ端にそんなことさせてもらえるわけねぇだろバァカ」
「えっ!でもオトコのクローンを沢山作れば、私達にも少しくらいお裾分けがあるかもしれないじゃない」
「オレ達にも分け前がもらえる程のクローンって一体どれだけクローンを用意すればいいのか分かってんのか?せいぜいできても二桁が関の山だろが!オレ達のところになんか回ってくるわけねぇだろ」
「・・・グスグス」
「泣くんじゃねぇよ!弱ェ奴は死ぬんだぞ!」
「でも・・・でも・・・」
「オラソコォ!何手ェ止めてやがんだ!飯抜きにするぞコラァ!」
「ヘ!ヘイ!スイヤセン!バカ!泣いてないで手を動かせ!飯抜きだぞ!」
「えっ!やだぁ!」
「オレ達の子孫はムリでもよ、このまま全員全滅する未来は変えられるかもしれねぇんだ、それによ、オトコはムリでも普通に飯が食える未来が来るかもしれねぇぜ」
「分かった、皆が生き残ってご飯が食べられる未来のために頑張る」
「そうだ、その意気だ!その意気だ・・・チクショウ・・・」
「泣かないで、ルリィ」
「うるせぇ!」
一方、ボスと呼ばれる者と上級幹部と思われる者達が集まる作戦参謀本部室にて。
「現状の進捗具合はどうだ?」
「はい、明朝には出航出来るよう各員死ぬ気で取り掛かっています」
「よし、ある程度死人が出てもこの際仕方がねぇ。だが、急ぎ過ぎてミスが出るのだけはダメだ。チェックだけは必ず2人以上でやるように厳命しろ。あと不安要素があるのに出来ましたとかいう奴がいたらぶっ飛ばせ、急ぐことも重要だがミスってこのチャンスを取りこぼしたとかいったら、それこそ俺達の未来が断たれるぞ」
「完全に了解ですボス!早速今から激を飛ばしてきます!」
「おう!頼むぜ!」
「ボス、人選についてはどうします?今回はボスも行きますか?」
「あぁ、今回はオレも行く、例えオレの留守中に他のシマの奴らが襲ってきても構やしねぇ、サエナイを抑えちまえばこっちのもんよ」
「悪ぃが残る奴らは今回は貧乏クジだ。今回は遺伝子劣化の少ない選りすぐりの優秀種を優先して連れて行く。次に強ェ奴と繁殖能力がまだ機能する奴、あと頭がいい奴等の中からも繁殖能力が機能している奴を何人か連れていく。ことがうまく運べば、古代遺跡にある移民船でサエナイ達のいる星に大規模移住をしてもいい」
「うまく、いくといいですね・・・」
「バカ野郎!うまくいかせるんだよ!それこそ俺達が死んでもな!」
「はっ!はい!ボス!」
一方、緊急脱出ポッドの中ではうまく自爆に見せかけて想定通りの軌道に乗ったと完全に思い込んでいる宇宙連盟先遣隊の宇宙人3人は安心して冴内達のいる星に到着するまで仮眠をとっていた。
船員防御カプセルの中では心地よい音と空調が保たれ安眠休息ガスがわずかに混入された中で夢見心地のひと時を味わっていた。




