238:まっとうな人達
次の日から冴内達はこれまで予定した作業を再開した。もう一度新たに航宙艦を作り、さいごのひとロボ2号機と音声ガイドロボ2号機も作ることにしたのだ。
既に冴内ログハウス周辺における生産能力は、最初の頃と比べて3倍以上も向上しており、より精密で高性能なものを短時間で製造することが出来た。
先にさいごのひとロボ2号機と音声ガイドロボ2号機を作ることで労働生産力がさらに増え、物理的に手を動かせる人手が増えたことでより一層作業効率は向上した。
新たな航宙艦も基本的にロボットが乗り込むことを前提にして、人間の居住性は必要最低限度にしたため、これもまたごく短期間で完成させることが出来た。現時点では装備や設備はほとんど簡略化されているが、今後この新たな航宙艦が状況の変化に応じて改良が必要になったとしても、2体の優秀過ぎるロボットがいるので宇宙空間で自分達で資源を調達して航宙艦を改修していくことも可能であった。
後はこの新たな航宙艦を追随するデータリンク送受信用静止中継基地局衛星を次々と送り込んで数珠繋ぎのように配置していけば、範囲は狭いが一応簡易的な宇宙ネットワークが作られていくので、シームレスな意思疎通が可能になる算段だった。
データリンク送受信用静止中継基地局衛星については、宇宙空間に全自動で製造されるオートメーション設備が新たに建造された。定期的に原材料や部材を格納庫に補充するだけで良く、それらの原材料もこれまで採取してきた隕石から抽出されたものがまだ大量にあるので、今のところは隕石採取の必要はなかった。
さらにこの先は宇宙各地に小さいサイズのリングゲートを設置する作業が予定されているが、さすがに今の段階ではまだその作業に取り掛かれるところまでは来ていなかった。
ここまでの作業に要した日数はわずか2日という驚異的な早さであった。相当進んだ科学技術文明の星であっても数ヶ月はかかる程の作業を、一家族がたったの2日で成し得たのである。
先にも書いた通りさいごのひとロボ2号機と音声ガイドロボ2号機の加入による人員補充の効果が大きいのだが、それ以外に機械を製造するための機械を先に作るというスタイルが非常に功を奏していた。そしてそれら複数の複雑な作業を全て完全に完璧に同時並列で実行できる超高性能光演算装置の役割が最も貢献していたのであった。
そうして、小型リングゲート製作以外の大体の予定作業を一通り終えたので、さいごのひとロボ2号機と音声ガイドロボ2号機を乗せた新たな航宙艦を家族全員で真空の宇宙空間で生身の身体のままお見送りした。
ところがなんと、この新たな航宙艦を見送った直後に、それよりも前に出発していた無人高速航宙艦が宇宙連盟の先遣隊と合流したという報がもたらされたのだ。
冴内達は地上に戻る時間すら惜しく、そのまま真空の宇宙空間で無人高速航宙艦から送られてきたデータをチャンネルオープンしてまさにライブ通信を開始した。
画面に投影されたのは、どこからどうみても誰が見てもクマにしか見えない動物が宇宙服を着ているような姿の存在と、どこからどうみても誰が見てもトカゲにしか見えない顔の動物が宇宙服を着ているような姿の存在と、どこからどうみても誰が見ても地球の白人の顔の肌の色を薄い青い色にしたような人間にしか見えない人物が宇宙服を着ているような姿の存在という3体の二足歩行生命体だった。
「初めましてこんにちは!僕の名前は冴内 洋です、そしてここにいるのは僕の家族です!」
「アタイは冴内 美衣!冴内 洋の娘!」
「私は冴内 優!冴内 洋の妻よ!」
「私は冴内 良子です!私も冴内 洋の娘です!」
「初めまして、私は冴内 花子と申します!私も冴内 洋様の娘で、皆さまのお世話をしております!」
「私は別の宇宙から来た思念体だ、便宜上さいごのひとと呼ばれている、この身体は我が思念を格納するための代替ボディだ」
「私は皆様方のお世話と支援を行う人工知能です、元は航宙艦の音声ガイドでした」
『なっ!なんと!言葉が!言葉が通じるベア!』(クマ)
『シュルルッ!これはそちらの翻訳機能によるものか!?シュルルッ』(トカゲ)
『いや、それよりもちょっと待て!この人達、宇宙服を着ていないぞ!!』(青い顔の人)
『『ホッ!ホントだぁーーーッ!!!』』
『既にあなた達が送ってきた無人の航宙艦から光通信で色々とにわかには信じられないような様々な情報を我々は聞き及んでおりましたが、今こうしてあなた達を目にして、それがまごうことなき真実であることが良く分かりました』(青い顔の人)
『ま・・・全く驚いたベア』(クマ)
『シュルルッ!マッタクだ。だがこの無人航宙艦の驚くべき性能からも君達の能力がどれ程のものかは伺い知れた。シュルルッ!』(トカゲ)
「実はたった今、もう一隻新たな航宙艦をそちらに向けて出発させました。今向かっているのはここにいるさいごのひとロボの2号機と、音声ガイドロボの2号機の総員2名を乗せております」
『なんと!そうですか!それでは我々の方からもそちらへ向かいますのでランデブーポイントを設定しましょう!』(青)
「うむ、座標位置をそちらで設定していただけるだろうか、光通信で示してくれればこちらもそれで設定する」(さいごロボ)
『了解しました!今送ります!』(青)
それから数時間後、宇宙連盟先遣隊の3名を乗せた航宙艦と、さいごのひとロボの2号機と音声ガイドロボの2号機を乗せた新しい航宙艦は無事に合流することが出来た。そのまま宇宙連盟先遣隊の航宙艦に冴内達がいるさいしょのほしまでのガイドビーコンを設定し、宇宙連盟先遣隊の航宙艦は冴内達がいるさいしょのほしへと向かうこととした。明日の午前中には到着するとのことだった。
さいごのひとロボの2号機と音声ガイドロボの2号機を乗せた新しい航宙艦は宇宙連盟先遣隊の航宙艦と別れてそのまま進み、宇宙連盟の本陣の艦隊へと向かうことにした。既に無人高速航宙艦は本陣の艦隊から捕捉されている宙域まで進んでおり、明日にも合流出来る位置にまで達しているそうだ。
「それにしても本当に別の宇宙から来たんだベアーな」(熊)
「シュルルッ!ホントに驚きだ。理論上の存在じゃなく実物にお目見え出来るとはシュルルッ!」(ト)
「ええ、テクノロジーも我々の最先端を超えているのがすぐに分かりましたね。航宙艦といい、思念体をロボットに組みこむなどという技術といい、これから会うことになるサエナイと名乗る超人ファミリー達といい、これは宇宙開闢以来の大発見になりますね!」(青)
「シュルルッ!これは歴史に名を残すことになりそうだシュルルッ!」(ト)
「我々の名前も歴史に残るベアーか?」(熊)
「第一発見者、いや、最初に接触した3人として今後全宇宙の学生の教科書にも載るでしょうね!」(青)
「それは素晴らしいベアーよ!」(熊)
「シュルルッ!家族も一族も喜ぶことだろうシュルルッ!」(ト)
「ええ!愛する子供達に自慢出来ますよ!」(青)
一方冴内達は明日の昼はご馳走をタップリ作って初めて会う宇宙人達を家族全員で歓迎しようと大いに張り切り、美衣は初を胸に抱いてこの星で一番美味しい恐竜がいないか探しに行った。
それ以外の全員でゲスト用のログハウスを急ピッチで製作することにした。今ではさいごのひとロボに音声ガイドロボに量産型花子3体に自動工作機械もかなり充実しているので、秒速で冴内と優が木材を切り倒して持ってくるだけで、あっという間に完成した。それも調度品や風呂トイレ洗面所に空調などの設備も全て完璧に揃えてである。他には野外で全員で会食をするためのテーブルや椅子などを揃えて出迎え準備は整った。後は美衣シェフの本領発揮を待つばかりであった。