237:滅亡寸前のひとたち
とても賑やかな朝食を終えた冴内達は早速無人探査衛星ナンバー1号機が宇宙連盟と名乗る存在と接触した宙域に向かわせるための新たな無人高速航宙艦の建造に着手した。
既に新たな航宙艦の建造には着手していたので、エンジンに相当する宇宙粒子放出型ジェネレータと放出スラスターベーンは完成しており、それをそのまま流用することにした。
大きさは10メートル程度の小型なもので、単身でワープ航行可能とし、しかも有人ではないので連続ワープを繰り返すことで短期間で目標地点に到達することを優先させた。そしてさいごのひとの思念をベースにしたAIを組み込んだ超高性能光演算装置を搭載して、宇宙連盟と名乗る存在とのコミュニケーションを図ることにした。出来ればさいごのひとロボを搭載したかったが、今すぐにでも宇宙連盟と名乗る存在とコンタクトを取りたかったので今回はオミットした。
超高性能光演算装置は無人高速航宙艦に搭載できる範囲の大きさにするため、冴内ログハウス近くにあるものよりも性能的には半分程度のものになったが、それでもさいごのひとの思念にかなり近いAIを組み込むのには十分な性能であった。
無人高速航宙艦本体については、コッペパン号とは異なり完全に無人運用船なため、住環境に関する装備は一切不要なのと、安全設備や何重にも施されたフェールセーフ機能も十分の一以下の最小限のもので良く、そして最も決定的なのが片道のみで帰還することを完全に除外したため、極めて異例の短期間で建造出来た。
これにより3日後には宇宙連盟と名乗る存在と接触した宙域に到達する目算だった。そして恐らく宇宙連盟と名乗る存在もこちらの方面に移動を開始するであろうから、互いに距離を縮めることで接触時間はもっと短くなるであろうことも予測できた。
こうしてまさに有り得ないスピードで無人高速航宙艦を完成させ、なんとその日の夜にはさいしょのほしを出発したのであった。
一方無人探査衛星ナンバー92号機の方は自動安全機能が正常に動作し、可能な限りこちらの所在が分からないように関連データは全て消去した。データを復元するデータサルベージのスペシャリストがいるかもしれないので別のデータで上書きした。そのデータとは冴内達の自己紹介挨拶動画である。
「おいどうだ?技術屋ども!何か分かったか!?」
「ヘイボス!もう少しでコイツがやってきた大体の方角と距離が分かりそうでさぁ!」
「ウヘヘヘヘ!そうかそうか!そいつぁ楽しみだなぁ!」
「ボス!コイツら生け捕りにした後はどうします?」
「オトコはオレ達人類の宝になるぜ!真面目な話、このままじゃ俺達人類は滅亡するしかなかったからな!」
「確かに年々出生率は低下の一歩を歩んでますからね」
「あぁ、もうこれ以上は人工授精やクローンも立ち行かなくなるだろうぜ、何せ新しく生まれても半年以上生き残る素体が激減してるからな・・・そして捕まえた女の方も俺達みたいな【出がらし】の人間と違って、この先クローンや人工授精体として大いに役立つだろう」
「やりましたねボス!」
「あぁ大当たりだ、どこの誰だか知らんが、このオトコには俺達人類の救世主になってもらう」
「せいぜい絞りつくしてやりましょうぜボス!」
「そうだなこのオトコのクローン体も作ることが出来れば俺達人類は古文書に書いてあったような大繁栄を成し遂げることが出来る、俺達は歴史に名を刻むことになるんだ、人類を救った英雄としてな!」
「英雄ですかい!」
「あぁ英雄だ!」
「そりゃあいいや!」
「「「ワッハッハッハッハ!!」」」
彼女達のいる星は冴内達がいる銀河の2つ隣にある銀河に存在していた。かつては高度文明社会を誇っていたようだが、何かしらの大きな要因により人口は激減し人類滅亡寸前という状況にまで陥った。僅かな生存者達がなんとか子孫を残すことに成功したが、決定的に絶望的な状況として男性が全て絶滅していたのであった。
文明は既に崩壊しており、科学技術もほとんど失われ、かつての科学技術を知る者達も次々と寿命を終えていき、文明社会は衰退の一途を歩んでいた。残された人類は生き残った数少ない科学者達が残した情報を元に、かろうじて残っていた冷凍精子バンクの格納室から精子を取り出して人工授精を行って子孫を残していたが、近年では半年以上生き残る生存確率は極めて低く、しかも生まれてくる赤子はことごとく女性であった。
また禁忌とされていた人間のクローン技術も、この状況下においてはやむを得ないと、生き残った科学者たちは考え、その方法を残された人類に継承した。それら科学者たちもやがて寿命や病気等で亡くなっていった。
残された人類は極めて劣悪な環境下で生きていくことを強いられ、年々出生率も低下し寿命も極端に短くなっていき、未来を絶たれていた。それでも女性だけという状況だったためか、破滅行動に走ることなく生きていけるだけ生きていくという逞しさがあった。たとえこの先人類滅亡が待っていようとも生きている間は精一杯生きていたのである。
彼女達は自分達がいる宙域以外のことはまるで知らない。他にも銀河があり、自分達のような人類がいてそこには男性がいるということは今や古文書と呼ばれるかつての遺産でしか知らなかった。
以前は命がけの片道切符状態で、死を賭して外宇宙に出た者もいたがそれらは二度と帰ってこなかった。そしてそのほとんどが悲劇的な最後を遂げたため、徐々に外宇宙に出ようという気概も打ち砕かれていった。
このままでは数百年程度で完全滅亡することが確定しており、もはや自力での人類社会の再生は不可能という所まで来ていたのであった。
今現在彼女達の総数は10万人を下回っていた。そして少ない資源を争うかのように大きな種族による派閥が出来ており、近隣の生存可能な資源衛星などで生活活動している者達もいた。その中には劣悪な環境下でも生きて行けるように、人工的に獣人化して発展していった種族もいたのだ。
事が人類滅亡寸前ということもあり、およそ人権や倫理や命の危険などを度外視した失われた過去の科学技術を乱用した時期もあった。その過程で多くの悲劇や惨劇も繰り返されてきたが、今はその頃よりはマシな状況になっている。しかしながら依然として人類滅亡への大きな道筋は変えられようがなかった。
無人探査衛星ナンバー92号機と接触し、古文書でしか知らない「オトコ」というものの存在を発見したという情報は、内部スパイや密告などでただちに敵対勢力派閥達の知る所となった。
先にも書いたが残された人類は全て女性であったため、互いに全面戦争でただでさえ少ない人類をさらに加速度的に減らす愚は侵さなかったが、それでも敵対勢力であることには変わらず、また、残念ながらここに至るまでの年月と、この最低最悪な劣悪環境により、和平や和睦といった選択をする人間は極めて少数になっていた。倫理や道徳といった観念が最初期の人類レベルにまで退化してしまったのである。
まさに強い者だけが生き残れる弱肉強食の時代に逆戻りしていたのである。それでも互いに滅ぼし合わなかったのは、先にも書いた通り残された人類が女性であったからかもしれない。
こんな絶望的な状況下にあったにも関わらず、生き残った者達は明るく強かった。まさに弱肉強食を生き残った者達だったからかもしれないが、絶望感や悲壮感に襲われることなく、強く明るく生きていた。残念ながらその反対の資質をもった者達はこの厳しい環境下では長く生きながらえることは出来なかったのだ。
そして今回冴内達が放った無人探査衛星を鹵獲した者達はガサツで荒々しい気性の持ち主達ではあったが、強く明るく逞しい人間達なのであった。